「分かった!」で終わる学習が、子供の成績を止める
授業のあと、お子さんがスッキリした顔で「今日の先生、めっちゃ分かりやすかった」と言う。お母様は安心する。いい先生に当たった、今日は実りのある日だった、と。
残念なお知らせです。その安心が、偏差値50前後で停滞するご家庭の典型的な入口です。
僕は長年この業界で教えてきて、ひとつの法則に確信を持っています。授業後に「スッキリした」と言う子より、「なんかあそこ、モヤモヤする」と言う子のほうが、数ヶ月後に伸びている。ほぼ例外なく、です。
今日は、この逆説の構造と、家庭での具体的な使い方を書きます。
「分かった」は、翌日には消えている
僕はこれを「池上彰現象」と呼んでいます。
テレビでニュース解説を見て、「なるほど、そういうことか」とスッキリした経験は誰にでもあるはずです。では翌日、その内容を誰かに説明できたでしょうか。できなかったはずです。ほぼ何も残っていない。あの満足感は何だったのか。
種を明かせば単純です。説明を受けている最中の脳は、情報をただ受け取っているだけで、何も考えていません。考えなくていい心地よさが「分かった感」を生む。そして考えていないものは、定着しません。スッキリの正体は、理解ではなく快感です。
子供の「分かった」も同じです。本当に分かったかどうかの判定基準はひとつしかありません。一人で再現できるか、他人に説明できるか。授業直後の笑顔は、その証明には一切なりません。むしろ、満足して脳内で「完結」してしまったぶん、翌日への持ち越しがゼロになる。
つまり、分かりやすすぎる授業とは、その場の満足度と引き換えに、家に帰ってからの思考を全部止める授業のことです。保護者アンケートの評価は高く、成績は上がらない。塾のビジネスとしては完璧な設計ですね。
モヤモヤは、無料で動き続けるエンジン
では何が学習を前に進めるのか。未解決の問いです。
人間の脳は、中途半端に終わったことを放置できません。「あそこ、どうしてああなるんだろう」という引っかかりが残っていると、授業が終わったあとも、風呂の中で、寝る前に、翌朝に、勝手にそのことを考え続けます。誰に命令されたわけでもないのに、です。
親が「考えなさい」と100回言っても動かない子供の頭が、気持ち悪さひとつで勝手に回り始める。これほどコストパフォーマンスのいい仕掛けは他にありません。
だから僕は授業で、あえて全部を教えません。説明はおおよそ7割で止めます。残り3割のモヤモヤは、生徒への置き土産です。質問されても、すぐには答えず「どう思う?」と返すことがあります。意地悪ではなく、設計です。
これは僕の思いつきではありません。講師になったばかりの僕は、説明を尽くせば尽くすほど生徒のためになると信じて、理屈を10割しゃべり切る授業をやっていました。成績は上がりませんでした。転機は、まだヒラの講師だった1〜2年目に、算数の師匠から言われたひとことです。「君の授業は、教えすぎだ」。
半信半疑で説明量を減らし、残りを生徒に考えさせるようにしたところ、クラスの成績が上がり始めました。今は、説明は6〜7割がいちばんいいと考えています。残りの3〜4割は生徒に考えさせます。ただ、これも生徒によります。勉強がまだ苦手な子には説明を多めに、できる子ほど減らしていきます。
家庭でできる「時間で切る」設計
この原理は、家庭学習にそのまま応用できます。一番効くのが計算ドリルです。
多くのご家庭は、その日の分を「全部終わらせること」を目標にしています。やめてください。正解は時間で切ることです。1日10〜15分と決めたら、問題が残っていても、そこで強制終了。「あと3問なのに」と子供が言っても、終了です。
効果は2つあります。
ひとつは、翌日への引きができること。「昨日の続きがある」という状態は、学習を始めるときの心理的な敷居を劇的に下げます。連続ドラマが「いいところ」で切るのと同じ原理です。あれは視聴者を翌週も画面の前に座らせるための設計であって、子供のドリルにも全く同じ力学が働きます。
もうひとつは、集中の密度が上がること。途中で打ち切られると分かっていれば、子供はだらだらやらなくなります。逆に「全部終わるまで」方式は、量が多い日に「今日もあれを全部か」という重さを生み、習慣そのものを壊しにきます。
完了の達成感で育てようとするのが普通の発想です。僕は逆を勧めます。未完了の気持ち悪さで引っ張ってください。そのほうが強い。
明日から親がやる3つのこと
1つ目。学習のあとに「今日、一番分からなかったことは何?」と聞く。「全部分かった」と返ってきたら、警報です。「じゃあここ、お母さんに説明してみて」と振ってください。説明できない箇所が必ず出てきます。それが本物のモヤモヤであり、次回の最優先事項です。
2つ目。ドリルは時間で切る。やり残しは美徳です。
3つ目。「これどうやるの?」と聞かれて、即答するのをやめる。「どこまでは分かってる?」と一度だけ返す。すぐ教えるのは、親切の顔をした思考の横取りです。
最後に皮肉をひとつ。「分かりやすい授業」を渡り歩き、子供のスッキリした顔を集め続けるご家庭は、塾業界から見れば理想のお客様です。満足度が高いまま、成果が出ないので、永遠に通い続けてくれますから。
そこから降りたい方は、今日から「スッキリ」を疑ってください。子供を伸ばすのは、完全な理解ではなく、未解決の問いです。
お子さんの学習設計にこの考え方をどう組み込むか、個別に戦略を立てたい方は、僕のプロフィールページからどうぞ。 https://manalink.jp/teacher/18417
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