中学受験算数が苦手だった僕が算数講師になった理由
最初の採用試験、算数の点数は100点満点中5点だった。
その話をすると、たいてい笑われる。あるいは「それで本当に教えられるんですか」という顔をされる。でも僕は、その5点があったから今の指導ができると思っている。
算数講師の「採用試験5点」という出発点
塾の世界に入ったのは35歳のときだ。前職は全く別の業界で、教育とは縁遠い生活を送っていた。一念発起して採用試験を受けた。国語、英語、算数——結果は国語が良く、英語もまずまず。問題は算数だった。
5点。
当時の社長から「これじゃ算数は使えないぞ」とはっきり言われた。それでも「やりたいんです」と食い下がり、「1年限定、ダメなら国語ね」という条件でなんとか算数クラスを任せてもらうことになった。
分数の掛け算割り算を忘れていた。塾の教材の解説を読んでも、意味がわからなかった。そこから始めた。
「すぐわかった人」には見えないものがある
算数が得意な先生は、なぜ生徒がつまずくのかを本当の意味では知らない。
「なんでここでわからなくなるの?」という感覚が、正直なところ掴めていない。自分がそこで一度も詰まったことがないから。知識として「つまずきやすい箇所」を把握していても、それは経験として体に入っていない。
僕の場合は違う。分数の割り算でどこに引っかかるか、塾の解説がなぜ読んでもわからないのか、全部自分が通ってきた道だ。だから「この子が今どこで詰まっているか」が、授業中に肌でわかる。
これは才能ではなく、後発組であることの利点だ。苦労した人間の方が、苦労のポイントを正確に把握している。
解説が読めない子は、なぜ解説を読んでも伸びないのか
中学受験の参考書の解説を、読んで理解できない子が一定数いる。体感では半数以上だと思っている。
その子たちに「解説をちゃんと読みなさい」と言い続けても、何も変わらない。解説を理解しようとするから理解できないのであって、そもそも解き方を体に入れることを先行させなければ、解説は永遠に暗号のままだ。
僕がやるのは、解説の理解を後回しにすることだ。まず解き方を覚えて、問題を解けるようにする。解けるようになった子は「あ、僕って算数できるんだ」という実感を持ち始める。その段階で初めて、解説が読めるようになる。
順番が逆なのだ。理解してから解くのではなく、解けるようになってから理解が追いつく。
生徒の解き方を盗む講師
もう一つ、正直に言っておきたいことがある。
僕の解き方の多くは、生徒から盗んだものだ。授業中に生徒が変わった解き方をしていると、「ちょっと待って、それどうやって解いたの」と聞く。それが大人の発想にないシンプルさを持っていることがある。そういう解き方を集めて、他の生徒に教える。
大人が「正しい解法」として教えるものより、子供が自分で生み出したものの方が、子供にとって使いやすいことがある。当然といえば当然だ。子供の思考回路から出てきた解き方なのだから。
今でも「それ僕わからないな」という問題に出会う。そういうとき、生徒に聞く。恥ずかしいとは思っていない。
算数が苦手だった講師に向いていること
35歳で転身してきた僕に向いているのは、偏差値40台から60超えを目指す子たちへの指導だと思っていた。実際そこは得意だ。
ただ、集団塾で上位クラスを担当し続けるうちに、難関校志望の子たちへの指導もできるようになってきた。生徒に教わりながら、問題の並べ方を試行錯誤しながら。かつての先輩が「開成対策の問題順序を見つけるのに10年かかった」と言っていた意味が、最近やっとわかってきた。
苦手だったから、わかることがある。遠回りしたから、近道を知っている。
中学受験の算数で「なぜかうまくいかない」と感じている保護者の方は、一度話してみてほしい。5点から始めた人間なりの、見え方がある。
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