中学受験 算数 ノートの書き方|綺麗な子は伸びない〈算数の設計図⑬〉
中学受験の算数で、ノートを綺麗に書くように言っていませんか。僕は逆のことを言っています。綺麗に書くな、と。ノートは作品ではなく、思考の作業場です。今回は、書くことの全てを一本にまとめます。
このシリーズでは、算数をひらめきに任せません。経営工学を学んだ講師が、解法を設計の問題として扱ったらどうなるか。その記録です。
ノートは、未来の自分への手紙です
まず、ノートが何のためにあるかを確認します。先生に見せるためでも、達成感のためでもありません。
ノートは、未来の自分への手紙です。解き直すときの自分、見直すときの自分、次の週に同じ型に出会う自分。その自分が読んで、何をどう考えたかが分かればいい。逆に言えば、それ以外の装飾は全部要りません。
だから、綺麗さより速さを優先します。丁寧に清書する時間があるなら、もう1問解いたほうが伸びます。
綺麗なノートの子が伸びない理由
ノートが綺麗すぎる子は、しばしば伸び悩みます。理由は2つあります。
1つ目、書くことが目的になっているからです。整った字、揃った罫線、色分けされた見出し。この作業は達成感を与えますが、得点は与えません。頭を使ったのではなく、手を使っただけです。
2つ目、間違いを消してしまうからです。綺麗なノートには、間違えた痕跡が残っていません。ですが、間違えた式こそが、次に何を直すべきかを教えてくれる最大の情報です。消しゴムで消した瞬間、その情報は失われます。
汚くていい。ただし、読めること。それが唯一の条件です。
図を書きなさい、が逆効果になるとき
図を書きなさい、という指示は正しい。ですが、言い方を間違えると逆効果になります。
図を書きなさいと言われた子は、図を書くことが目的になります。本文を読む前に図を書き始め、条件を整理する前に線を引く。結果、問題と関係のない図が出来上がります。
図は、条件を紙に逃がすための道具です。何を逃がすのかが決まっていない状態で描いても、意味がない。まず何を求めるかに線を引き、どの型かを判断し、それから図を描く。この順序が守られて初めて、図は機能します。
途中式は、全部書かなくていい
途中式を全部書きなさい、という指導もよく聞きます。これも、誰のための指示かを考える必要があります。
採点者のために全部書く、という文脈なら正しい。ですが、家庭学習でこれをやると、書く時間が思考の時間を圧迫します。全部書く子は、解ける問題まで遅くなる。
僕が生徒に言うのは、頭に負荷がかかっている部分だけ書きなさい、です。暗算で確実にできる部分は飛ばしていい。迷う部分、条件が絡む部分、見失いそうな部分。そこだけを紙に出す。書く量ではなく、書く場所の判断が実力です。
線分図が書けないのは、ひらめき待ちだから
線分図が描けない子には、共通点があります。全体像が見えてから描こうとしていることです。
完璧な図を最初から描こうとするから、手が止まる。ですが線分図は、描きながら考えるための道具です。分かっている数だけを実線で引く、分からない数は点線にする、同じ長さには同じ印をつける。ここまで描けば、次に何が必要かが見えてきます。
白紙の前でひらめきを待たない。分かっているところから描き始める。途中で描き直しても構いません。むしろ描き直しは、思考が進んだ証拠です。
樹形図は、負けではない
場合の数で樹形図を使う子を、遅いと評価する人がいます。僕はそう思いません。
書き出せば必ず正解に近づく問題で、書き出さずに公式で処理しようとして落とす。こちらのほうが、はるかに損失が大きい。樹形図は、頭の中の負荷を紙に移す最も確実な道具です。
速くなるのは、書き出しを何度も繰り返した後です。書き出しをやめさせると、規則性を見つける経験も奪ってしまいます。まず書き出す。慣れたら省略する。順序はこれです。
書くことの、たった一つの原則
ここまで書いてきたことは、すべて一つの原則に集約されます。頭の中でやろうとしない。紙に出す。
人間が頭の中で同時に保持できる情報には限りがあります。条件を保持したまま計算し、計算しながら次の手順を考える。この状態が続くと、後半で必ず崩れます。書くとは、その負荷を紙に逃がす行為です。
綺麗さ、丁寧さ、完全さ。どれも書く目的ではありません。目的は、頭を軽くすることです。
明日から親がすべき、非情な決断
お子さんのノートが綺麗なら、褒めるのをやめてください。かわりに、問題用紙の余白を見てください。
白いままなら、頭の中だけで戦っています。汚れているなら、紙に逃がせています。伸びるのは後者です。
そして、消しゴムを使わないように言ってください。間違えた式は、線で消して残す。次に何を直すべきかは、そこにしか書いてありません。
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