考える力(前編)~技術コンサルタントが語る「大事な場面で差がつく力」とは~
はじめに:それ、本当に「できる」って言える?
「この問題、解けた!」
それは本当にわかったと言えるでしょうか?
私はカナダで機械系エンジニアおよび技術コンサルタントとして、耐圧容器の設計・製造・品質管理の仕事に長年携わってきました。
計算通りに仕様を決めても設計現場では想定外のことが起きます。
設計通りに図面を作っても製造現場では想定外のことが起きます。
図面通りにモノを製造しても検査では想定外のことがおきます。
検査をパスしても客先の設置現場では想定外の事態がおきます。
無事に設置が終わっても使用中に想定外のトラブルが起きます。
そんな現実を多く経験しているなかで、本当の意味で「わかる」とは何か、何度も考えさせられました。
高校での勉強や受験勉強でも同じです。
ただ「正解を当てる力」だけでは試験以上のことはできません。本当の実力が問われるのは試験のあと、大学に進んだり社会に出たりしたときです。
「正解が1つではない」世界に生きている
設計・製造の世界では、いつも解が1つとは限りません。
設計製造では、安全性、コスト、納期、材料の調達、製造条件など、複数の制約を同時に考えながら顧客が望むものを実現しなくてはなりません。多くのあいまいな要素を見て、最後は人が判断を下す必要があります。
こうした問題には正解を求めるための公式などありません。必要なのは、客観的事実を前にして自分の頭で考え、問題を作り、最善の解を選び、それを実行する力です。
勉強にも応用できる「考える力」
この「自分で考える力」は、受験勉強でも鍛えることができます。
たとえば数学。正解の数字が出せたら「できた、もうわかった」と思いがちです。
でも本当に大事なのはその先なのです。
・なぜこの式変形が必要なのか?
・他にどんな解法があるか?
・このパターンは他の問題でも通用するのか?
このように自分で問いを立てる癖をつけていけば、単なる暗記や手順から抜け出し、本番で応用できる「本当の力」になります。
こういう力がつくと初見の問題にもあわてず対応できるようになります。問題の設定を見きわめ、必要な知識を総動員して、解決までの道をつくり、答案を記述していきます。
そして途中で行きづまれば、そこから引き返して別の道を探すかそのまま突き進むか、そんな判断も適切にできるようになります。
まとめ:勉強の意味を変えてみよう
私は今、教育に関わる立場として、高校生や保護者の方にこう伝えたいです。
「正解が出せるようになった」ではなく「自分で考え抜いて答を出した」が最も大事です。その経験こそが、時代を生き抜く力になります。
そしてそれは決して特別な才能ではなく、日々の勉強の姿勢を少し変えるだけで、誰でも育てていける力なのです。
【後編】では、こうした「考える力」を日々の勉強の中でどう鍛えるか?
具体的な方法を3つのヒントとしてお伝えします。
「じゃあどうすればいいの?」と思った方は、ぜひ後編へ