【ガラケーって何?】帰国子女が受験国語でつまずく意外な理由
現代の小中学生、特に海外で多感な時期を過ごしてきた帰国子女の子どもたちにとって、日本の入試国語の文章は、時に「未知の異世界」のように映っていることがあります。
多くの場合、国語の成績が伸び悩むと「語彙力がない」「読解のテクニックやセンスが足りない」と、本人の能力のせいにされがちです。しかし、日々子どもたちと向き合う指導現場から見えている景色は、全く異なります。
子どもたちの読解を阻んでいる本当の正体。それは能力の不足などではなく、「テクノロジーが進化するスピードが速すぎて、わずか10〜20年前の日本の日常が完全に消滅している」という、時代背景や文化のギャップです。
「ICカードが使えない」という未知の恐怖
今、私たちの社会が変化するスピードは凄まじいものです。大人が「つい最近まで使っていた」と感じる道具やインフラが、今の子どもたちにとっては、歴史の教科書に載っている遺物と同レベルになっています。
その代表例が、公共交通機関の「切符」や「回数券」です。
いまや改札はICカードやスマホをかざして通るのが当たり前。そんな子どもたちに、何枚か綴りになった紙の回数券を駅の券売機で買い、それを一枚ずつ切り離して自動改札に通す、あるいは車掌さんに手渡すといった一連のシステムを理解しろという方が無理があるのです。
こうした「かつての当たり前」を子どもに肌で理解してもらうために、あえて少し不便な地方へ旅に出て、親子でリアルなギャップを経験してみるのも一つの強力なアプローチです。
例えば、先月(2026年4月)私が長野県を訪れた際、まさにこの「まだ色濃く残る切符文化」に直面する機会がありました。
出発する大きな駅では、当然のようにICカードをタッチして改札を通ることができました。ところが、到着した駅ではホームの端っこに車掌さんが立っており、その場で現金を支払って精算してほしいと言われたのです。ICカードは「入場」の記録がついたままロックされてしまいます。車掌さんからは「ICカードが使える駅に戻ったときに、手動で入場記録を取り消してもらってください」と言われ、結局、地元の大阪に帰ってきてから駅の窓口に並んで取り消し処理をしてもらう羽目になりました。
大人である私でさえ焦り、面倒な思いをしたシステムです。 これを、生まれたときから自動改札とスマホしか知らない子どもたちが、机の上で「文字だけ」で読まされたらどうなるでしょうか。なぜ主人公が駅のホームで焦っているのか、カードを持っているのにわざわざ現金を払わされているのはなぜか、その状況が1ミリも理解できなくて当然なのです。
だからこそ、あえてこうした「ICカードが使えない路線」に連れて行き、実際にきっぷを買わせたり、ホームの端で現金精算をするもどかしさを味わせたりしてみる。こうした実体験こそが、物語文の背景にある「不便さゆえの焦りや人間模様」をリアルに想像できる生きた知識になります。
ガラケー、固定電話、新聞……問題文に潜む「古典」たち
入試問題には、こうした大人の「一世代前の日常」が容赦なく登場します。
折りたたみ式の携帯電話である「ガラケー」もその一つです。「ケータイをパカっと開いて」などという描写が出てきても、子どもたちにはケータイが開くものだなんて知る由もありません。
これは、辞書を引いて単語の意味を暗記すれば済む話ではありません。その道具が使われていた時代の「空気感」や「人と人との絶妙な距離感」そのものです。この前提知識がない状態で文章を読むことは、私たち大人が見知らぬ異国の歴史文学を読まされているのと変わらないのです。
机の上の勉強だけでは超えられない壁
では、この目に見えないギャップを埋めるために、親御さんや指導者はどのようなアプローチをしていけばいいのでしょうか。
大切なのは、「言葉の背景にある映像や体験」を日常の中でどれだけ補ってあげられるかです。
例えば、過去問や問題集を解いていて、少し古い生活習慣や道具が出てきたら、その場でインターネットを使って画像や当時の動画を一緒に検索してみてください。
「お母さんが昔使っていたのはこれだよ」 「昔は電車に乗るのに、こういう紙の切符を毎回買っていたんだよ」
日常の何気ない会話の中で、テクノロジーの発達によって消えていった道具たちの話を「物語」として聞かせてあげる。これこそが、机の上の問題集を何冊解くよりも、本質的な読解力の土台を作ることにつながります。
時代を繋ぐ架け橋として
テクノロジーの急速な進化によって、子どもたちが生きる「今」と、入試問題に描かれる「少し前の今」の距離は、これからもどんどん離れていくでしょう。
子どもたちが文章の海で迷子にならないために。私たち大人ができるのは、彼らの知らない時代の景色を、言葉と映像で丁寧に繋いであげることです。語彙力の不足だと決めつける前に、まずはその言葉の背景にある世界を、一緒に覗き込んであげることから始めてみてください。
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