【30年前はもう古典】いまの10代にとって物語文は「異世界ファンタジー」かも!?
最近、国語の指導現場でひしひしと感じることがあります。それは、「説明文より物語文のほうが苦手」という生徒さんが、ここ数年でどんどん増えているということです。
なぜ今の子たちは物語文で迷子になってしまうのか。 理由はシンプルです。テクノロジーが進みすぎたせいで、30年前の物語が、今の子にとってはすでに「古典」と化しているからです。
「LINEしろよ」で片付けられる登場人物たちの葛藤
大人は、1990年代くらいの小説を「ちょっと前の現代小説」のつもりで出題します。しかし、2026年の今から見れば、30年前はスマホもSNSもない「異世界」です。
たとえば、昔の物語によくあるこういう大定番のシチュエーション。
公衆電話の前に並び、10円玉を握りしめてドキドキしながら好きな人の家に電話をかける(親が出たらどうしよう)
駅の伝言板にチョークで「先に行く」と書き残して、すれ違いに涙する(どうしてきてくれないの?)
約束の場所に相手が現れず、雨の中でひたすら2時間待ち続ける(お願い、来て!)
これ、大人は「連絡が取れないからこその切なさ」や「相手を信じて待つ健気さ」にジーンとくるわけですが、令和を生きる小学生の感想は一味違います。
「え、LINEすればよくない? なんでわざわざ親が出るリスク冒して家に電話してんの?」 「GPSで位置共有しなよ」
彼らにとって、それは美しい心理描写ではなく、「テクノロジーの使い方が致命的に下手な人たちの奇行」にしか見えないのです。連絡がつかないもどかしさという「前提」が共有できていないから、その後に続く「怒り」や「悲しみ」の感情に、どうしても共感のギヤが噛み合いません。
私たちが「枕草子」を読むのと同じ感覚かも
これは子どもたちが冷酷だからでも、読書量が足りないからでもありません。 私たちが学生時代に『枕草子』や『源氏物語』を読んで、「なんでこの人たちは、こんな面倒くさい和歌のやり取りをしてるんだろ……直で喋ればいいのに」と思った感覚と、完全に同じことが今、30年前の物語文で起きているのです。
「スマホがない時代の人間関係」は、今の小学生にとって、平安時代の貴族の恋愛くらいの「異世界ファンタジー」です。背景のルールが分からないゲームをプレイさせられているようなものなのだから、物語文で点が取れなくなってしまうのもある意味で当然だと言えます。
「不便さ」という感情の翻訳者が必要だ
じゃあ、物語文が苦手な子に対して、大人はどうアプローチすればいいのか。 問題集を闇雲に解かせて「なんで登場人物の気持ちが分からないの!」と叱るのは、注釈なしで古典の問題を解かせるようなもので、ただの苦行でしかありません。
まずは、大人が「不便さの翻訳者」になってあげる必要があります。
「昔はね、1台の電話を家族全員で使っていたの。家の廊下なんかに線でつながった電話が置いてあったのよ。男の子が女の子に電話をかけてお父さんが出たら即ガチャ切りするくらい緊張感があったんだよ」
「メールもラインも既読機能もないから、相手が今どこで何をしているか、本当に分からなかったんだよ」
そんな風に、物語の前提にある「時代の空気感」を、日常の会話の中でちょっとした“古典注釈”として教えてあげる。 「不便だからこそ、こういう感情が生まれるんだ」という背景が分かって初めて、子どもたちの高い想像力は答案の上で正しく発揮されるようになります。
たとえば漫画やアニメを一緒に楽しむのもよいかもしれません。物語文の問題を読んだり解いたりする前に、まずは「昔の不便さって、ちょっと面白そうだな」と、異文化を面白がるような視点を持てる働きかけをしてみませんか。
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