難関国立大学の一次選考に合格! 志望理由書の質を決めるのは「先行研究」です。
このたび、人見が指導している生徒さんが、難関国立大学の総合型選抜の一次選考に合格しました。
まずは、本人の努力に敬意を表したいと思います。
この生徒さんは、高校生活を通して自分の関心のある分野について探究活動を重ねてきました。
今回の志望理由書の作成でも、その経験をどのように大学での研究につなげるかを、授業で繰り返し考えました。
その際、私が特に重視したのが「先行研究」です。
志望理由書を書く際、多くの生徒さんは、自分の経験や将来の夢をどのように表現するかに意識を向けます。
もちろん、それも大切です。
しかし、大学で学問をするためには、もう一つ重要な視点があります。
「自分が研究したいことについて、すでに何が明らかになっていて、何がまだ明らかになっていないのか」
これを理解することです。
「研究したいこと」があるだけでは、研究計画にならない
総合型選抜の指導では、生徒さんから次のような言葉をよく聞きます。
「教育格差について研究したいです」
「地域社会の問題を解決したいです」
「環境問題について研究したいです」
どれも重要な関心です。
しかし、大学の研究とは、関心のあるテーマについて詳しく調べることだけではありません。
例えば、教育格差について研究したいのであれば、教育格差の何を明らかにしたいのでしょうか。
家庭の経済状況と学力の関係でしょうか。
地域による教育機会の違いでしょうか。
それとも、学校の教育実践が格差の再生産にどのように関わっているのか、という問題でしょうか。
同じ「教育格差」というテーマでも、問いが異なれば、読むべき論文も研究方法も変わります。
つまり、研究テーマを決めることと、研究の問いを立てることは別なのです。
先行研究は、論文をたくさん読むことではない
先行研究を調べるというと、関連する論文を何本も読み、その内容をまとめることだと考える生徒さんがいます。
しかし、論文を要約するだけでは、研究課題は明確になりません。
重要なのは、複数の研究を比較することです。
ある研究では、どのようなことが明らかになったのか。
別の研究では、異なる結果が報告されていないか。
その違いは、研究対象や調査方法によるものなのか。
そして、既存の研究を踏まえても、なお答えが出ていない問いは何か。
こうした検討を通して、初めて自分の研究の位置づけが見えてきます。
ここで一つ注意したいことがあります。
「先行研究で扱われていないこと」と「研究する価値があること」は、必ずしも同じではありません。
誰も研究していないから新しい、というだけでは不十分です。
なぜその問いを明らかにする必要があるのか。
その問いに答えることで、既存の学問的理解がどのように深まるのか。
そこまで考える必要があります。
今回の生徒さんも、先行研究によって問いを深めた
今回、一次選考に合格した生徒さんも、探究活動の経験を豊富に持っていました。
しかし、活動経験が豊富であることと、大学で研究すべき問いが明確であることは別です。
そこで授業では、これまでの経験を振り返るとともに、関連する先行研究を検討しました。
すでに何が解明されているのか。
既存の研究にはどのような限界があるのか。
自分の関心は、その研究のどこにつながるのか。
さらに、自分が研究を進めるとすれば、何を対象とし、どのような方法で検証する必要があるのか。
こうしたことを一つずつ考えていきました。
すると、最初は比較的広いテーマとして語られていた関心が、大学で検証可能な、より具体的な研究課題へと整理されていきました。
志望理由書の説得力を高めたのは、難しい専門用語を増やしたことではありません。
本人の経験から生まれた問いが、先行研究によって学問的な位置づけを持つようになったことです。
もちろん、一次選考の合格理由が先行研究の検討にあったと断定することはできません。活動実績や学習への姿勢なども含めて評価された結果だと思います。
ただ、少なくとも指導する立場から見て、先行研究の検討が志望理由書の論理を強くしたことは確かです。
「なぜ、その大学なのか」にも先行研究が必要
志望理由書では、次のような文章をよく見かけます。
「貴学には充実した研究設備があるため志望しました」
「専門的な知識を学べるため志望しました」
しかし、研究設備が充実している大学はほかにもあります。
専門的な知識も、さまざまな大学で学べます。
大切なのは、自分が明らかにしたい問いと、その大学で行われている研究が、どのようにつながっているかです。
例えば、志望大学の先生が発表した論文を読んだとします。
その研究では何が明らかになっているのか。
自分は、その研究のどの部分に関心を持ったのか。
その先生のもとで、何を学び、どのような問いを追究したいのか。
ここまで考えられると、大学を志望する理由は、単なる憧れや大学の知名度ではなくなります。
「この問いを研究したいから、この大学で学びたい」
という、学問的な必然性が生まれます。
これこそ、志望理由書で伝えたいことではないでしょうか。
先行研究は理系だけのものではない
ここまでの話は、理系の研究計画に限りません。
教育学、社会学、文学、心理学、看護学など、文系・理系を問わず重要です。
例えば、「日本の学校では、なぜ主体性が育ちにくいのか」という問いを考えてみましょう。
この問いについて研究するのであれば、まず「主体性」とは何かを考える必要があります。
教育学では、主体性はどのように定義されてきたのでしょうか。
これまで、主体性を育てるためにどのような教育実践が行われてきたのでしょうか。
そして、それらの研究では何が明らかになり、何が課題として残されているのでしょうか。
先行研究を読むことで、最初の問いそのものが変わることもあります。
例えば、
「どうすれば子どもの主体性を育てられるのか」
という問いから、
「そもそも学校教育は、子どもの主体性をどのように捉えてきたのか」
という問いへ進むかもしれません。
あるいは、
「子どもが自ら問いを立てようとするとき、学校教育の何がそれを妨げているのか」
という問いが生まれるかもしれません。
このように、先行研究は自分の考えを補強するためだけに読むものではありません。
自分の問いを疑い、問いそのものを深めるために読むものです。
私が志望理由書の指導で大切にしていること
私は、志望理由書を単なる受験書類だとは考えていません。
志望理由書を書くことは、自分がこれまで何に関心を持ち、何に違和感を覚え、何を明らかにしたいと考えてきたのかを振り返る機会です。
そして、その問いを学問の世界へ接続するために、先行研究を読みます。
私は、必要に応じて国内外の論文を調べ、研究の背景、方法、成果、限界について生徒さんと議論します。
もちろん、高校生が専門論文のすべてを理解できるわけではありません。
分からないことがあれば、そこから学べばよいのです。
大切なのは、分かったふりをしないことです。
また、先行研究を読んだからといって、そこに書かれた結論を無批判に受け入れる必要もありません。
なぜ、その結論が導かれたのか。
別の解釈はできないのか。
その研究方法で、どこまでのことが明らかになるのか。
こうした問いを持ちながら読むことが、研究者としての思考につながっていきます。
志望理由書は、大学に入るためだけの文章ではない
総合型選抜では、「どうすれば合格できる志望理由書になるか」を考えがちです。
しかし、私はそれだけではもったいないと思っています。
自分の経験から問いを見つける。
先行研究を読み、その問いを深める。
まだ明らかになっていないことを見いだす。
そして、その問いを追究するために必要な学びを考える。
この一連の過程そのものが、大学で学問をするための準備になるはずです。
志望理由書とは、自分の過去を立派に見せる文章ではなく、自分の問いを学問の未来へつなぐ文章です。
そのために、先行研究は極めて重要なのです。
今回、一次選考に合格した生徒さんにも、これからさらに自分の問いを深めていってほしいと思います。
これからも一人ひとりの経験と問いを大切にしながら、大学での研究につながる志望理由書・研究計画書の指導を続けていきます。
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