「読む・書く・考える」スピードのチグハグから来る困難
私たちは問題を考える際「読んで情報を整理する」「考える」「考えながら(計算しながら)答案を書く」という一連の流れを、意識せずに互換性のあるスピードで処理しています。
この、各タスクをこなすスピードがチグハグになっている可能性が、特性をお持ちのお子様には多い傾向があります。
今日は2タスクの処理スピードが異なる場合の具体例を挙げ、何が起こっているのかを分かりやすく解説していきます。
<例①>書くスピードと考えるスピードがチグハグ
例えば式の展開をする時、通常は展開後の形を脳内でイメージしてから実際に書き出していきます。そして、その差は上達する程小さくなります。
では、この2つのスピードがチグハグだった場合はどうなるでしょう?
◆考えるスピードに対して書くスピードが速い場合
そのようなお子様をよく観察してみると、思考する事はいったん脇に置いている事が多いです。考えずにとりあえず書くので、式の展開は公式を使うよりも分配法則の方が楽ですし、方程式を解く際は、同類項があってもバラバラのまま移項してしまいます。問題全体を俯瞰して見る事は苦手なため、今ご自身が答案のどのあたりにいるのかはすぐに見失ってしまいます。
《このタイプの特徴》
ちょっとした暗算が苦手で無駄な途中計算が多い
公式を使いこなすのが苦手
(手が覚えているため)公式や単語を思い出すトリガーが不明確
解答の途中で迷子になる など
上記の逆のパターンはどうでしょう?
◆書くスピードよりも考えるスピードが速い場合
実はこれ、問題を解くという状況以外なら「普通の人間」でも当たり前の事です。思考と違って「手を動かす」というのは物理的作業になるため、当然ですが手の動きは考えている事(今の感情など)に追いつけません。
今回はそれではなく、問題を解く=「これはこうかな?」と考えるスピードが、書く事よりも圧倒的に速い場合のお話です。(IQがやたら高いのに成績が良くない、といった例が挙げられます)
《このタイプの特徴》
解答欄を間違える
途中式が少ない
改行の際にミスが多い
読み飛ばしが多い
(書く手が追い付かないが故に)書く事自体を負担に感じている
(※目から入ってくる情報の処理スピードも関連してくるため一概には言えません) など
書くよりも速く答えが出るなら良いではないかと思われるかもしれませんが、当のご本人には相当なストレスがかかります。
思考の方が先に行ってしまうと、例えば一問目の答えを書く頃には頭が二問目を考えているといったチグハグが起こり得ます。このチグハグは「回答欄を書き間違える」といった形で表出する事があります。
さらに理数系の計算においては「途中式がない」答案になりがちです。途中式が書かれていないだけで答えが合っているとは限りません。すると「見直しをしようにも見直せる途中式がない」といった困難が生じるわけです。
証明問題が登場する中2後半以降、答案が長くなるにつれ、途中式そのものが重要なフラグになる事が多くなりますが、自身の思考過程がまばらにしか書かれていない答案だと、より深い思考を必要とするようになった時にやはり理解度はどんどん浅くなってしまいます。
<例②>読むスピードが考えるスピードを圧倒する場合
例えば、ものすごく斜め読みが得意で情報(数値)などを瞬く間に拾ってしまえるお子様がいらっしゃいます。このパターンは頭の回転そのものが速いため、私が知る限り、ある程度のレベルまでは問題なく解けてしまう場合が多いです。頭の回転が速いという事は手も追い付いていないのですが、書く事が億劫でも暗算で何とかできてしまったりします。ところが、発展問題になると途端に手が止まります。視覚的情報のインプットが速すぎるがために、より深い洞察力が必要になる段階で思考過程を処理しきれなくなってしまうのです。
《このタイプの特徴》
標準問題は難なくこなせるが発展でつまずく
問題の音読が聞き取れない
漢字などの誤読が多いにも関わらず正解する など
対処法
上記に挙げたのはほんの一例です。実際には、もっと複雑な要因が組み合わさってお一人お一人に特有の困難が生じています。もちろん、特徴のいくつかが当てはまったとしても、発達特性と診断される程ではない可能性も大いにあります。そして、私見ですがどのパターンにも即効性のある対処法というものはありません。
では、何故この記事を書くのかと言うと、知っていただきたいからです。
即効性はなくとも、周りの大人が、お子様の脳内で何が起こっているのかを知ろうとされる事こそが対処法の第一歩なのです。
これをお読みの保護者様や講師の方は「通常の処理スピードで当たり前に問題なくやってきた」側ではないでしょうか。当たり前すぎて、そんなチグハグが存在する事に思いが及ばないままお子様と接していらっしゃるかもしれません。それはお子様にとって不利益でしかないのではないでしょうか。
現に、何度言ってもなかなか計算途中を書かなかったり、書くのを嫌がったりする姿勢は、時にやる気のないように映ってしまいます。
そうして、ほんの少しでもお子様のチグハグに気付けたなら、
次はご本にそのことを自覚していただくのが一番良いと私は考えています。
それは「あなたは普通ではない」と伝える事ではありません。「ちょっと書くのが速いね」「頭の中が先に行ってるかな?」と声をかけるだけでも変わります。特に診断や疑いなどなく、単にケアレスミスが多いお子様にも、この気付きは非常に有効にはたらきます。
私たちが意識せずに思考してから書くという手順を踏んでいるのと同様に、ご本人も抱えていらっしゃるチグハグに無自覚である事がほとんどですから、お母様や一緒に勉強している講師に自分の特徴を教えてもらい、改善の仕様を一緒に考えてもらえる機会はある方が良いに決まっています。
書くのが億劫な原因がチグハグにあるのなら、どうすれば少しでも前向きに書けるようになるかを一緒に考えましょう。計算ミスを減らすために書く必要性を説明し、億劫だと感じる気持ちに寄り添いながら、書く作業に意識的に取り組んでいくよう声をかけるしかありません。
読むのが速いお子様は間違いなく音読は向いていませんから、強制せずにおきましょう。また、書く事が面倒だという気持ちを受け入れつつも、発展問題でつまずいてしまう要因がそこにある事を自覚していただきます。特にこれまでの努力が並大抵ではない場合も少なくありません。今出来ている事はしっかりと褒めてあげながら、ステップアップのためには思考過程を丁寧に書き残す必要があるのだと伝えましょう。
~あとがき~
「スペクトラム」と表される個々に千差万別の事象を、パターン分けして並べるのはやはり難しいですね(;^_^A
かく言う私も、結局のところ自分自身の脳がどうはたらくのかを思い起こしながら、「普通はこうかな?」と想像できる範囲を基準に書いています。人間は誰しも、普通はこうでしょう?という己の中の常識に縛られている井の中の蛙なのでしょう。
だからと言って、そこに終始していては支援は生まれません。
学習という限られた行動において「もしかしたら、自分とは少し異なる処理の仕方なのかな?」という視点があれば、教える側・教えられる側双方が、少しだけ楽になるかもしれません。