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アクティブラーニングは万能なのか ― 「活動量」ではなく「思考量」が学びを支える

2026/7/3

「ラーニングピラミッド」の定着率には根拠が乏しい

近年、学校現場で「アクティブラーニング」の重要性が指摘され、多くの場所で取り入れられています。「アクティブラーニング」に関係する教育論や学習法の話題になると、しばしば登場するのが「ラーニングピラミッド(Learning Pyramid)」です。

そこでは、概ね以下のような「学習法ごとの定着率」が示されます。

この図を見ると、

「講義はほとんど意味がない」

「とにかくアクティブラーニングが最強」

「人に教えれば90%覚えられる」

という印象を受けるかもしれませんが、この割合を科学的事実として扱うことには大きな問題があると言われています。

ラーニングピラミッドは、アメリカのある教育・研修機関(National Training Laboratories[NTL])が広めたものとして知られています。しかし、現在までに、「実験条件」、「対象人数」、「測定方法」、「使用教材」、「テスト時期」、「統計処理」などを明示した原研究は確認されていません。実際、教育研究ではかなり以前から、「数値の根拠が不明である」という批判が続いており、あちこちの研究で、ラーニングピラミッドの示す定着率に根拠が乏しいことが示されています。

たとえば、ある教育雑誌に掲載された論文では「信頼できる実証研究が見つからない」ことや、「学習方法の序列ではなく、経験の種類を示した概念である」ことなどが指摘されています。[Lalley, J. P., & Miller, R. H. (2007). The Learning Pyramid: Does It Point Teachers in the Right Direction? Education, 128(1), 64–79.]

また、ある国際的な医学教育関係の学術誌に掲載された論文でも、「引用元が循環参照になっている」、「該当する出典が存在しない」、「数値が資料ごとに異なる」などの問題が指摘されています。[Masters, K. (2013). Edgar Dale's Pyramid of Learning in Medical Education: A Literature Review. Medical Teacher, 35(11), e1584–e1593.]

こうしたいくつかの指摘によれば、どうも現在広く流布している「ラーニングピラミッド」とその定着率は、出典の一つとして考えられているエドガー=デイルの理論(Edgar Dale『Audio-Visual Methods in Teaching』 もっとも、デイル自身はその著書の中で「講義(5%)」のような定着率は一切示していません。) や、かつてラーニング・ピラミッドに近い図を配布していたアメリカの教育・研修機関(National Training Laboratories[NTL])が示した不明瞭な数値、その後の様々な教育実践論が混ざり合っているうちに拡散したものと考えられています。

それでも「能動的学習」が重視される理由

では、「ラーニングピラミッドは間違いだから、講義だけで良い」のかと言えば、そういう話でもありません。

近年の認知科学では、「受け身の学習より、能動的に情報処理する学習の方が定着しやすい」という方向性自体は比較的支持されています。ただし、ここで誤解してはいけないのは、「アクティブラーニング」とは、必ずしも「身体的に活動すること」を指すのではないという点です。

教育現場では、

• グループワーク

• 発表

• ディスカッション

• 作業活動

などが「アクティブラーニング」と呼ばれることがあります。そして、こうした活動が「概念の理解」、「知識の応用力」、「問題解決能力」、「批判的思考力」などの養成に有効だと考えられています。

ただ、実際に教育現場に立っていた人間の感覚として申し上げるのであれば、こうした力を養成する際に重要なことは、単に「体を動かす」、「議論に参加する」などの活動自体ではないと感じています。より本質的なことは、「頭がアクティブに働いているかどうか」「思考が能動的に展開しているかどうか」ではないでしょうか。

近年の教育現場を見ていると、「アクティブラーニング」や「探究活動」であれば、認知能力や主体性や協働性などの非認知能力をより高めることが可能であり、一方で単純な講義や座学などはこうした力を養成しにくいので避けるように、という雰囲気が漂っているように感じます。

ですが、決してそんなことはありません。たとえば、静かに講義を聞いているだけに見えても、

• 「なぜそうなるのか」を考える

• 既習内容と結び付ける

• 自分ならどう説明するか考える

• 反例を想像する

• 因果関係を整理する

といった認知活動が学習者の頭の中で起きていれば、それは非常に能動的な学習です。たとえ生徒が黙って聞いているだけだったとしても、「頭がアクティブ」な学習は成立しえますし、こうした学習で力を大きく伸ばしてきた人たちも過去にたくさんいたはずです。

もちろん、こうした能動的な頭の使わせ方を生徒に働きかける「面白い・有意義な講義」と、ただ生徒の耳から抜けていくだけで全く頭に働きかけない「つまらない・あまり意味のない講義」の違いはありますので、講義全てが生徒の認知能力・非認知能力を養えるわけではありません。ですから、「講義・座学こそがアクティブラーニングよりも重要なのだ」などというつもりはありません。

一方で、参加者の思考が能動的に展開している「うまくいっている」アクティブラーニングであれば非常に効果的でしょうが、

• とりあえず話し合う

• ワークシートを埋める

• 役割分担だけ進める

• 発表だけこなす

など、「活動しているように見える」だけで、自分で頭を全く働かせていないアクティブラーニングであれば、当然のことながら学習効果は限定的になり、場合によっては講義以上に「何も得られない」ことはあり得ます。ですから「アクティブラーニングであれば認知能力・非認知能力ともに講義形式の授業よりも伸ばせるのだ」とも言えないはずです。

「形だけのアクティブラーニング」が危険な理由

近年の動向を見ていると、「主体的・対話的で深い学び」が重視される一方で、何となく「アクティブラーニングっぽい活動をしていれば良い」、「生徒の参加さえ増やせば良い」という誤解も生まれてきているように感じられます。

ですが、実際には、

• 雑談化する

• 一部の生徒しか能動的に考えていない

• 「参加した感」だけ残る

• 理解せずに作業だけ進む

というケースも少なくないのではないでしょうか。

認知科学的に重要なのは、

• どれだけ知識を検索したか

• どれだけ意味付けしたか

• どれだけ自分が持っている知識と結び付けたか

です。

つまり、「見た目が賑やかかどうか」ではなく、「脳内で深い情報処理が起きているかどうか」が本質的に重要なことになります。ですが、実際の現場でこうした効果的なアクティブラーニングが展開されているかどうかについては、かなり差があるのではないでしょうか。

たとえば、アクティブラーニングの実践法として「探究学習」という方法が学校現場に取り入れられてかなりの時間がたちました。探究学習は自ら課題を設定し、情報を集め、分析し、自分なりの結論を導く学習過程のことを指しますが、学習者である生徒はこの中で「課題設定」、「情報収集」、「整理・分析」、「まとめ・表現」、「振り返り」を行います。

そして、この探究学習を提供する側、つまり先生には、生徒がこれらを効果的に行えるように諸活動をマネジメントする必要があるのですが、探究活動は教員自身にも高いファシリテーション能力や研究的な視点が求められるため、実践には大きな負担が伴います。

そのため、こうした活動をサポートするには、先生個人の能力を超えて、学校全体として生徒の探究学習やアクティブラーニングがうまくいくようなシステムを構築しなければ、多くの生徒に効果的な学習を担保できないのですが、現状においてはこうしたシステムを全ての学校で整えているようには思えません。

もっとも、日本の教育現場全体で、アクティブラーニングが形骸化しているかを全国規模で統計的に結論づけた研究があるかどうかは分かりません。ただ、一部の研究ではすでにこうした問題関心から、特定の教育機関での導入実態や導入過程を調べる研究は進んでいるようで、こうした研究でも「アクティブラーニングを導入すること」と「効果的に機能する」ことは別問題であると考えるケースが多いようです。

学習内容によって、最適な学習法は異なる

間違いなく言えることは、「万能の学習法」は存在しないということです。「講義形式の授業」にしても、「アクティブラーニング」についても、それが効果的である場合には参加者の能力を大きく向上させますが、効果的でない場合には全く力を伸ばすことはできません。

そして、その学習が効果的になるか否かは、「先生の質」、「参加者の質」、「学習する内容とその方法」、「最終的な目標の設定」、「前提として要求される能力」など、様々な要素が関わって決定されるはずです。ある学校において優秀とされる教育者が、他の教育現場でもその力を十全に発揮できるかはわかりませんし、同様にある学校において優秀な生徒が他の環境でも同じように行動できるかはわかりません。(また、ある場所においてあまり優秀でないと考えられていた人が、別の環境において非常に大きな力を発揮するということも当然起こり得ます。)

つまり、ある学習法が効果を発揮するかどうかは、多分に「場の力」が作用するケースがあり得るのであって、「アクティブラーニングだから優れている」などというのは思い込みに過ぎないように思われます。

実際、一言で「学習」とはいっても、何を学習するかによって、効果的な方法は大きく変わります。

たとえば数学では、「解法選択」、「条件の読解と整理」などの力が必要になりますし、歴史では、「因果関係」、「地理的条件」、「時代背景」、「ストーリー理解」などの把握が重要になります。また、理科では「現象理解」、「図式化・モデル化」、「数式との対応」、「実験の意味理解」などの力が必要です。これらの力は、単純に講義を聞いてさえいれば身につくものでもなければ、ただ話し合いに参加すれば身につくといったたぐいの力ではありません。

つまり、必要な力を身につけるにあたり、「全部ディスカッションにすれば良い」、「全部アウトプットすれば良い」という単純な話ではないはずなのです。学ぶ内容ごとに、適切な学習法は異なります。

効果的な学習法とは

それでは、どのような学習を心がければより効果的に思考を深め、学力を高めることができるのでしょうか。現在、認知科学の分野で比較的広く支持されている考え方としては、次のようなものがあります。

① 受け身より「想起」を伴う学習の方が強い

ただ読み返すだけより、「思い出そうとする」方が記憶は強化されやすいことが知られています。これは「想起練習」と呼ばれ、多くの研究で支持されています。例えば、

• 小テスト

• 白紙再現

• 問題演習

などは、記憶を「検索する」行為になります。この検索負荷が、長期記憶を強化しやすいことは明らかになっています。

② 説明・アウトプットは理解の穴を発見しやすい

人に説明しようとすると、「うまく説明できない」ということがよく起きます。つまり、アウトプットは、その人の「理解したつもり」を発見する手段として極めて有効です。

ただし、「説明したから90%定着する」という意味ではありません。重要なことは、「説明しようとする過程で自身の思考が深まる」ことにあります。

③ 問題演習は記憶検索を促進する

問題演習には、

• 知識検索

• 条件整理

• 解法選択

• 再構成

という認知活動があります。つまり、問題演習を通してこれらの活動を行うことで理解と定着が促進されます。

逆に、ただ問題を解くだけや、「分からないから」とただ解説を眺めるだけでは、自力検索の負荷が小さくなり、学力の定着にはつながりにくくなります。問題を解く際に「この問題だからこの解法」と自分の記憶から引き出したり、解説を読む際に「この解き方はあの時に習った」などと記憶を引き出しながら進めることで、初めて学力の定着につながります。

④ 間隔を空けた復習が有効

認知心理学では、「間隔効果」はかなり古くから知られています。一度に長時間やるより、「忘れかけた頃に復習する」方が長期記憶につながりやすいのです。

いつ頃から記憶が抜け始めるかについては、有名なところではエビングハウスの「忘却曲線」が知られていますが、覚えなおす時期は必ずしも「〇日後」でなければいけないと決まっているということはないようです。実際、記憶の抜け始める時期には個人差や、内容的な差もあります。

ですから、学習した内容を定着させたい時には、「そろそろ記憶が抜けるかもな」と感じる時期、たとえば「学校帰りの電車の中」、「数日後」、「1週間後」、「数週間後」という形で復習間隔を空けて思い出すことを習慣化した方が、短期詰め込み型の学習よりも有効になりやすいと考えられています。

⑤ 自分の言葉で説明する方が理解が深まりやすい

単なる丸暗記ではなく、

• 要約する

• 言い換える

• 因果関係を説明する

といった活動は、理解深化につながりやすいと考えられています。これは、他人から与えられた情報をそのまま読むよりも、自分で答えを作り出す(生成)した方が、その情報を長く・正確に記憶できるという現象と関連していて、「生成効果」とも呼ばれます。

たとえば、国語の文章が「読めない」と感じる場合に、少しずつ各部分を要約したり、一度ある程度の解説を受けた後で、部分ごとに「この部分に書いてあったことを君の言葉で説明してみて」と説明させることで、より内容を深くとらえることができるようになったりします。

「活動量」ではなく、「思考量」が重要

ラーニングピラミッドに示されている定着率は、科学的根拠が曖昧なものですし、アクティブラーニングは必ずしも万能の学習法ではありません。一方で、こうした図が広まったり、現在の教育現場でアクティブラーニングがもてはやされるようになった背景には、「受け身だけでは学習は定着しにくい」という教育現場の実感があったように思います。

ですが、学力を定着させるうえで本当に重要なのは、「どれだけ(身体的に)活動したか」ではなく、「どれだけ考えたか」ではないでしょうか。座学でも深く考えれば能動的学習になりますし、活動主体の学習でも思考停止していれば意味は薄くなります。また、学習の内容によっても、それを定着させる最適な方法は異なります。

こうした点を踏まえつつ、「想起」、「アウトプット」、「問題演習」、「間隔反復」、「自分の言葉での説明」などを組み合わせていく機会を設けることが、現実的で効果的な学習につながるように思います。これらについては、自分自身で学習する際にも心がけて進めると、より効果的に学習を進めることができるでしょう。

また、「頭を能動的に働かせる」、「頭をアクティブにする」にあたり、本人の知的好奇心や学習への主体的な意欲は、大きな支えになります。こうした意欲を引き出せるのであれば、「座学」なのか「アクティブラーニング」なのかといった違いはあまり大きな違いではありません。

現在の教育現場における変化は、これまでの教育現場で達成できなかったことをなんとか解決したいという思いから生み出されていることは間違いないのですが、それが過度なアクティブラーニング信仰につながらないように配慮する必要があるようにも思われます。

学習法の名前や授業の形式にとらわれるのではなく、「学習者がどれだけ深く考えられるか」という視点から授業法や学習法を選択することが、本当に質の高い学びにつながるように思われます。

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