公立一貫校の合格戦略、教科書ワークから始めよ
全国の公立中高一貫校を受験する家庭と話していると、ある共通点に気づく。
「適性検査対策」という名の問題集を山積みにして、小学5年生の秋から焦り始めるパターンだ。書店の中学受験コーナーに並ぶ適性検査対策本を買い込んで、作文練習をして、思考力問題を解かせて——そしてほぼ全員が同じ壁にぶつかる。
問題が「読めない」のだ。
解き方以前の問題として、何を聞かれているのかが分からない。これが公立一貫校受験の本質的な難しさである。そしてこの壁の前で多くの家庭が「うちの子には思考力が足りない」と誤診する。違う。足りないのは思考力ではなく、基礎知識だ。
公立一貫校の問題が「読みにくい」理由
私立中学の入試問題には、ある種の様式美がある。算数なら旅人算、国語なら記述の字数制限、理科なら実験考察——ジャンルごとに「型」があり、その型を習得することで得点が積み上がる仕組みになっている。
公立一貫校の適性検査は、その逆を行く。
国語・算数・理科・社会を横断した複合問題として提示され、どの教科の知識を使えばいいのかが一見して判然としない。神奈川の横浜市立南高校附属中、川崎市立川崎高校附属中、相模原市立中等教育学校、それぞれ問題の形式が微妙に異なり、他県の問題となればさらに多様性が増す。
この「一貫性のなさ」こそが、公立一貫校入試の最大の特徴であり、最大の難所だ。
しかし逆説的なことを言う。この「読みにくさ」は、基礎知識さえあれば解消される。問題が複合的に見えるのは、各教科の土台が固まっていないからだ。算数の基礎知識があれば、算数部分の問いはすぐに識別できる。理科の基礎知識があれば、植物や天体に関する設問の意図が瞬時に分かる。
つまり公立一貫校対策の本丸は「適性検査の解き方」ではなく、「小学校6年間の学習内容の完全習得」にある。
小4・小5で終わらせる、という非情な原則
僕が全国の受験生を指導してきた中で確信していることがある。
公立一貫校を本気で狙うなら、小学4年生から小学6年生までの教科書レベルの内容を、小4・小5の段階で終わらせてしまうことだ。
使う教材は教科書ワーク、それだけでいい。
国語・算数・理科・社会、各学年分をひたすら進める。完璧でなくていい。丁寧でなくていい。多少雑でも構わないから、とにかく「一周させる」ことを優先する。綺麗なノートにまとめる必要もないし、すべての問題を正解する必要もない。目的はただ一つ、小学校で習う知識の全体像を早期に把握することだ。
なぜ早く終わらせることにこだわるのか。
理由は単純で、過去問演習に十分な時間を確保するためだ。そして過去問演習には、必ず前提条件がある。
過去問は「上滑り」する
過去問をやらせても意味がない時期がある。
基礎知識が固まっていない状態で適性検査の問題を解かせても、何が分からないのかが分からないまま終わる。答え合わせをしても、解説を読んでも、根本的な知識が欠けているために理解が定着しない。問題の表面を滑って、何も残らない状態——これが「過去問の上滑り」だ。
小学6年生レベルの学習内容が頭に入っていることが、過去問演習の大前提になる。この順序を間違えると、どれだけ問題を解いても偏差値は上がらない。時間だけが消費されていく。
逆に言えば、基礎さえ固まっていれば過去問演習は驚くほど機能する。
公立一貫校の過去問は、各都道府県の教育委員会や学校のウェブサイトで公開されているものも多い。首都圏の学校だけでなく、京都、岡山、広島、福岡——各地の問題形式に触れることで、適性検査という試験形式そのものへの耐性がつく。形式の多様性に慣れることが、どの問題が来ても動じない読解力を育てる。
知識の穴埋めは、過去問が教えてくれる
過去問演習を重ねる中で、必ず弱点が浮かび上がってくる。
生物の分類が曖昧だった。割合の文章題で詰まった。接続語の判断が甘かった。歴史の年号前後の文脈が抜けていた。
そこで初めて、不足している知識を補う教材に手を伸ばせばいい。最初から完璧な知識習得を目指して教材を積み上げるのではなく、過去問という「現実の問題」が示す弱点に対して、ピンポイントで手を打つ。
この順序——基礎の速習→過去問演習→弱点補強——が公立一貫校対策の最も合理的なルートだと、僕は考えている。
巷でよく見かける「小5から適性検査の問題集を解き始めて、小6で志望校の過去問に入る」という王道コースは、基礎が固まっていない子どもに対しては機能しない。基礎固めと並行して適性検査対策をするのは、地盤を固めながら同時に高層ビルを建てようとするようなものだ。まず地盤を固めろ、という話である。
明日から始める「非情な決断」
話をまとめる。
公立中高一貫校の入試で勝つための行動は、至ってシンプルだ。
まず教科書ワークを4年生分から買い揃えて、今すぐ始める。志望校の過去問は、小学6年生レベルの内容が一通り終わってから開く。過去問を解いて浮かび上がった知識の穴を、そのつど他の教材で塞いでいく。
それだけだ。
「思考力を鍛える特別な何か」は最初には要らない。大手塾の季節講習も、カリスマ先生の特別授業も、今この段階では不要だ。必要なのは、教科書レベルの知識を完全に頭の中に入れること、ただそれだけである。
拍子抜けするほどシンプルに聞こえるかもしれない。でも考えてみてほしい。この「当たり前」を小4・小5のうちに完結させられている家庭が、実際には何割いるだろうか。
適性検査対策本を積み上げながら、教科書レベルの知識が曖昧なまま過去問に向かっていく家庭が、今日も全国で良質な問題集を消費し続けている。彼らが巻いてくれる追い風の中を、基礎が固まった子どもは涼しい顔で走り抜けていく。
そういうゲームだ、公立一貫校受験は。
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