2時間考えても解けない問題は、考えても解けない
まず事実を言う。
中学受験の教材に載っている問題の大半は、解き方が確立された典型問題だ。「考える問題」という顔をしているが、実際には解法パターンが決まっている。だから教材に載っている。解法が定まっていない問題は、教材には載せられない。
ということは、2時間かけても解けない問題は、解き方を知らないから解けないのであって、もっと考えれば解けるようになるわけではない。
それでも子供は考え続ける。親が「算数は考える教科だ」と教えるから。学校でも塾でもそう言うから。その結果、解き方を知れば5分で終わる問題に2時間使って、1週間の学習量が壊滅する。
見切りとは何か
僕が「見切り」と呼んでいるのは、この判断だ。
「この問題は、考えて解くものではなく、解き方を覚えるものだ」
この判断ができる子とできない子では、学習効率が根本的に違う。できる子は詰まったらすぐ答えを見て解き方をインプットし、次に進む。できない子はそこで止まる。1問に2時間使って、他の10問が手つかずになる。
この差は頭の良さではない。「この問題はどういう性質のものか」を教わっているかどうかの差だ。
解の公式を誰も導けないように
数学の解の公式を思い出してほしい。x = (-b ± √(b²-4ac)) / 2a というあれだ。
学校の先生が最初の授業で導出を教えてくれる。でも大半の生徒は、翌週には忘れる。そして誰も困らない。なぜなら、公式を使えれば答えが出るから。導出を覚えていることと、問題を解けることは別の話だ。
算数の難問にも、同じ構造のものがある。なぜそう解くのかの理屈よりも、そう解くと答えが出るという事実を先に体に入れた方が効率がいい問題。そういう問題に対して「なぜか理解してから使いなさい」と言い続けるのは、解の公式を毎回導出してから使わせるようなものだ。
「見切り」を教えない理由
なぜ多くの指導者が見切りを教えないのか。
一つは建前の問題だ。「算数は思考力を育てる教科」という話を、塾も親も信じている。答えをすぐ見ることは、思考放棄に見える。だから言いにくい。
もう一つは、指導者自身が算数を得意としてきたケースが多いから、「考えれば解ける」という感覚を持っているからだ。最初から解き方の発想が浮かぶ人には、「考えてもわからない」という状態が想像しにくい。
でも実態はこうだ。偏差値60前後で止まっている子の多くは、典型問題の解き方が体に入っていない。考えても解けないのは、考える力が足りないのではなく、知識が足りないのだ。そこに気づいていないまま、「もっと考えなさい」と言い続けている。
では、深く考える力はどこで育てるのか
見切りを教えることと、考える力を育てることは矛盾しない。
僕がやっているのは、週に1問だけ「深考問題」を出すことだ。この問題だけは1週間かけて考えていい。他の問題はロボットのように解く。この1問だけは、どこまでも考える。
1週間考えた問題は、答えが出なくても頭に残る。ある生徒は、規則性の問題で規則が見つからなかったので、500個の数字を全部書き出してきた。それをやった子は次から、その規則を計算で出せるようになった。試行錯誤の跡が、知識になったのだ。
典型問題は覚える。深考問題は考え抜く。この分類ができるだけで、学習の密度が変わる。
親が今日からできること
子供が1問の前で30分止まっているなら、声をかけてほしい。「もう少し考えてみなさい」ではなく、「それ、答え見てもいいよ」と言ってほしい。
そして答えを見た後、解き方を口で説明させる。言えれば定着している。言えなければ、もう一度見る。それだけでいい。
「考えなさい」の呪いを一つ外すだけで、子供の1週間の学習量が変わる。
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