「考える問題」を考えすぎてはいけない——算数にも「覚えていい解法」がある
親も教師も、子供にこう言う。算数は考える力を育てる教科だ、と。
その言葉が、子供の学習を遅らせている場合がある。
「考える教科」だと思っているから、子供は問題の前で止まる。考え続ける。答えが出なくても、答えを見ることに罪悪感を持つ。その結果、1問に2時間使って、その週の学習が前に進まない。
「算数は考える教科」という言葉は、半分は本当で、半分は誤解を生む。
解の公式を毎回導出する人はいない
数学の解の公式を思い出してほしい。
中学校の授業で先生が一度、あの公式の導出を教えてくれる。なぜあの形になるのかを、丁寧に説明してくれる。でも大半の生徒は翌週には忘れる。そして誰も困らない。
なぜか。公式を使えれば問題が解けるから。導出を覚えていることと、答えを出せることは、別の話だからだ。
算数の中にも、同じ構造の解法がたくさんある。なぜそう解くのかを理解しなくても、そう解けば答えが出る。そういう解法を「覚えていい解法」と呼ぶことにしている。
「覚えていい解法」が存在する根拠
これは少数派の考え方だと自覚している。
算数業界では、解法の丸暗記は否定的に見られることが多い。「考えずに覚えるだけでは本当の力がつかない」という立場だ。
ただ、現場を見ていると違う景色がある。
偏差値70以上の子たちは、全部考えてはいない。考えることと覚えることを、問題に応じて使い分けている。一方で偏差値65前後で止まっている子たちは、全部考えようとしている。その差が積み重なって、差になる。
神奈川の名門校の先生が、ある場で自分の指導法としてこのアプローチに触れていたと聞いた。開成の先生も、かつて生徒に「まず世の中の定理と解法を全部覚えろ、考えるのはその後だ」と言っていたとされている。現場で実績を出している人たちが、同じ方向を向いている。
覚えることで、考えられるようになる
逆説的に聞こえるが、解き方を先に覚えた子の方が、後から深く考えられるようになる。
解き方を体に入れた子は、問題を解くことができる。解けると「自分は算数ができる」という感覚が生まれる。その感覚が生まれると、解説を読んだとき、今度は理解できるようになる。
つまり順番だ。理解してから解くのではなく、解けるようになってから理解が追いつく。
塾の解説を読んでも理解できない子が一定数いる。その子たちに「解説をちゃんと読みなさい」と言い続けても意味がない。解き方を覚えて解けるようにした上で、初めて解説が意味を持ち始める。
ではどこで「考える力」を育てるのか
覚えることを優先するということは、考えることを捨てるわけではない。
問題には種類がある。覚えた解法を使えば解ける問題と、そうでない問題だ。後者に対してだけ、じっくり考える時間を使う。
僕がやっているのは週に1問だけ深考問題を出すことだ。その問題だけは1週間かけて考えていい。他の問題は素早く処理する。この使い分けができると、考える力と処理速度が同時に育つ。
典型問題を覚えることで処理速度が上がり、浮いた時間を難問の思考に使える。トップ層の子たちが自然にやっていることを、意識的に仕組みとして取り入れるだけだ。
「覚えていい」と言える講師が少ない理由
これを明言する講師が少ないのには理由がある。
「算数は考える教科」という建前が根強い。覚えることを肯定すると、思考力の放棄に見える。親に説明しにくいし、業界内では白い目で見られることもある。
でも結局、成績を上げることが目的だ。そのために何が効くかを正直に言えるかどうか。そこだけだと思っている。
親から「理解させてほしい」と言われることがある。そのときは「わかりました」と言いつつ、子供の成績を上げる。成績が上がれば何も言われなくなる。子供にとっても、解けない問題の前で何時間も止まるより、解けるようになった方が間違いなくいい。
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