アンカーポイントを拾えない子は、なぜ動画授業を見ても伸びないのか
動画を見た。ノートに写した。問題を解いた。
それで偏差値が上がるなら、世の中に受験で苦労している子などいない。
「うちの子、予習シリーズの動画ちゃんと見てるんですけど、テストになると解けなくて……」
この相談を受けるたびに、僕は同じ質問を返す。
「動画を見るとき、何をメモしていますか?」
たいてい、答えに詰まる。
動画授業は「見た」だけでは何も起きない
予習シリーズをはじめとする映像授業のコンテンツは、それ自体の質は高い。解説は丁寧で、ステップも踏んでいる。
ただし、それは「受け取る側に準備がある」場合の話だ。
動画を流しながらノートを写すだけの子がやっていることは、授業の実況中継を録音しているのと変わらない。情報は通過しているが、脳に留まっていない。
問題は「見ているか」ではなく、「何を拾っているか」だ。
アンカーポイントとは何か
僕が授業で使う言葉に「アンカーポイント」がある。
錨(いかり)、つまり船を留めておくための杭のようなものだと思えばいい。問題を解くとき、そのアンカーさえ押さえておけば、あとの計算は自然に流れていく。逆に、そこを素通りすると、似たような問題が来るたびに毎回迷子になる。
過不足算で言えば「本数を揃える」。取り違い算で言えば「全体の差÷1つの差=個数の差」。
これだけだ。この1点を本当に自分のものにしているかどうかで、3週間後の組み分けテストの結果が変わる。
丁寧な解説を全部メモした子よりも、アンカーだけを太字で丸囲みした子の方が、3週間後に解ける。これは断言できる。
「パターン学習→基礎」という順番の話
世の中の算数指導は「まず基礎概念をきちんと理解させてから解法を教える」という順番を正しいものとして疑わない。
僕はこの順番を間違いだと思っている。
全体像が見えていない状態で細部を説明されても、どこが重要でどこが省略可能かが分からない。結果として、全部が同じ重さで頭に入ってくる。
過不足算も差集め算も取り違い算も、初めてその単元に触れる子にとっては「全部似たような図を書く何か」に見えている。
そこに丁寧な基礎説明が加わっても、地図のない土地に詳細な注釈を付けているようなものだ。まず地図を渡せ、という話である。
解法パターンを先に完璧に仕上げてから、「なぜこの公式が成立するのか」という基礎に降りていく。この順番の方が、体感では3倍速く定着する。
動画授業の正しい聴き方
では、動画授業をどう使えばいいか。
答えは単純だ。講師が「ここが大事」「この公式を使う」「このパターンが出たら」と言った瞬間を拾うことに全集中する。
それ以外の説明は、流して構わない。
具体的には、動画を見ながら「アンカーメモ」を作る習慣をつけさせる。
この問題は何算か
鍵になる操作は何か(「本数を揃える」「全体の差を足す」など)
引っかかりやすいポイントはどこか
この3点だけでいい。ページを埋め尽くす必要はない。
A4用紙に3行書けたら、その動画授業は「消化した」と見なしていい。
短期記憶型の子への補足
ここで一つ、親御さんに知っておいてほしいことがある。
「その場では解けるのに、3週間後には忘れている」という子は、地頭が悪いのではなく、短期記憶が強い特性を持っている場合が多い。
パッと聞いてパッと覚えられる反面、定着に時間がかかる。これはその子の弱点ではなく、単なる記憶の特性だ。
この特性に対処するのは「もっとたくさん勉強させる」ではない。「忘れた頃を狙って復習する」計画を外側から仕掛けることだ。
組み分けテストの2週間前に、過去に扱ったアンカーメモをもう一度見直す。それだけで、3週間かけて忘れた内容が数時間で戻ってくる。短期記憶が強いということは、再学習のコストも低いということだから。
強みとして使えばいい。
結論
動画授業を見ても伸びない子に足りないのは、視聴時間でも復習量でもない。
アンカーポイントを拾うという習慣と、それを使って問題と向き合うという順番だ。
「全部理解しようとしている」ことが、実は一番の非効率だと気づいた時、勉強の質が変わる。
どこが船の錨で、どこがただの景色かを見分けること。この技術は、算数に限らず中学受験の全科目に通用する。
お子さんの動画授業の見方を、一度親子で確認してみてほしい。「どの部分をメモした?」この一言から始められる。
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