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「暗算は危ないから筆算で」が計算力を殺す

2026/6/10

「うちの子、暗算でよく計算ミスをするんです。だから全部筆算で書きなさいって言っています」

お母様、お気持ちはわかります。そして申し訳ないのですが、その指示は逆効果です。お子さんの計算力の成長を、親の手で止めています。

今日は、中学受験の土台でありながら多くの家庭が対処を間違えている「計算力」の話をします。具体的な教材の種類、1日の練習時間、効果が出るまでの期間まで書きます。精神論は一切なしです。

暗算でミスする子への正しい処方箋

暗算でミスをする。この事実から導かれる結論は2通りあります。

結論A。暗算は危険だから、筆算に切り替えさせる。 結論B。ミスをしないレベルまで、暗算力そのものを鍛え上げる。

ほとんどのご家庭はAを選びます。安全に見えるからです。しかし入試本番を考えてみてください。中学受験の算数は、時間との戦いです。一行問題から大問の処理まで、計算は全行程に絡みます。すべてを筆算で処理する子と、大半を暗算で飛ばせる子では、試験時間50分のうち使える思考時間がまるで違います。

筆算は遅い。そして書く工程が増えるぶん、転記ミスという別のミスが生まれます。筆算は安全装置ではありません。低速走行しているだけです。

正解はBです。暗算でミスをするのは、暗算という行為が危険だからではなく、単に暗算の練習量が足りていないからです。

ここでひとつ質問です。お子さんは 15 × 12 を暗算できますか。11 × 11 や 13 × 13 の答えを覚えていますか。

できない、覚えていない。それなら話は単純です。才能の問題でも、注意力の問題でも、性格の問題でもありません。練習量の問題です。練習量の不足は、練習量で埋める。それだけのことです。

「私が小4の頃はできていた」という記憶の捏造

ここで多くのお母様が反論されます。「でも私は子供の頃、計算の工夫なんて自然にできていた気がします」と。

それは記憶の捏造です。

お母様も小学4年生の時点では、計算の工夫などしていなかったはずです。その後、塾の先生に宿題で延々とやらされて、できるようになった。そして「やらされていた期間」の記憶だけがすっぽり抜け落ちて、「私は自然にできていた」という美しい思い出が残っている。人間の記憶とはそういうものです。

お子さんが計算の工夫をしないのは、計算の工夫をする練習をしていないから。それ以上でも以下でもありません。

具体論。教材2種類、1日10分、3ヶ月

では何をやるか。教材は2系統です。

ひとつは、整数の四則演算を徹底的にやり込むドリル。足し算、引き算、掛け算、割り算を、3桁程度まで暗算で処理する訓練です。地味です。地味ですが、これが土台です。分数や小数の計算も、結局は整数計算の組み合わせでできています。土台の整数が遅い子は、その上に乗るすべての計算が遅い。

もうひとつは、計算の工夫を体系的に教える教材。東京出版のような中学受験算数の専門出版社が出している計算教材には、25 × 4 = 100 を核にした組み替えや、分配のテクニックといった「工夫の型」が詰まっています。工夫もまた、センスではなく型です。型は覚えて反復すれば誰でも使えるようになります。

やり方はこうです。

1日1枚か2枚。時間にして10分から15分。それ以上はやらせない。毎日続ける。これだけです。

「たったそれだけで間に合うんですか」と聞かれますが、間に合います。僕が最初に勤めた塾で、筆算ですら計算ミスを連発していた子たちにこのメニューを続けさせたところ、3ヶ月で学校のクラスで一番計算が速い子になりました。一人ではありません。やった子は軒並みそうなりました。1日10分の複利は、3ヶ月でそこまで届きます。

逆に言えば、3ヶ月かかります。1週間で効果を求めて「やっぱりうちの子には向いていない」とやめてしまう家庭が、一番もったいないパターンです。

時間が来たら、途中でもやめさせる

ここからが、このメニューの肝です。

制限時間を決めて取り組ませ、時間が来たら、たとえ問題が残っていても、そこで強制終了してください。「キリのいいところまで」は禁止です。

最初のうちは、お子さんはまだ遅いので、時間内に終わりません。残った問題を前に「えっ、ここでやめるの」という顔をします。それでいいのです。むしろ、それが狙いです。

人間は、中途半端に終わったことが気持ち悪い生き物です。残してしまった、悔しい、気持ち悪い。このモヤモヤが、翌日「今日は最後までやってやる」という内発的なエネルギーに変わります。

逆に、毎回最後まで終わらせて「全部できたね、すっきりしたね」で締めると、満足感とともにその日の学習は脳内で完結し、翌日への引きはゼロになります。すっきりは、学習においては敵です。

僕は授業でもこれを意図的にやります。あえて全部を説明せず、モヤモヤを残して終わる。気持ち悪さは、子供を勝手に机に向かわせる燃料です。親が「勉強しなさい」と言う回数を減らしたければ、満足させるのではなく、ほんの少し飢えさせることです。

明日からの非情な決断

まとめます。明日からやることは3つです。

「筆算で書きなさい」と言うのをやめる。整数ドリルと計算の工夫教材を用意し、1日10〜15分だけやらせる。時間が来たら、本人が嫌がっても途中で打ち切る。

たったこれだけのことを、3ヶ月続けられる家庭が驚くほど少ない。だからこそ、続けた家庭の子は、テストの残り10分で見直しをする側に回り、続けなかった家庭の子は、最後の大問を白紙で出す側に回ります。計算力は配点表に載っていませんが、実際には全問題に配点されている隠し科目です。

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