なぜ宿題を減らすのか〈算数の設計図③〉
僕の指導では、塾の宿題を減らします。全部やらせません。これを聞いて、手を抜いているのではないかと思われる方がいます。今回は、なぜ減らすのかを正面から書きます。
このシリーズでは、算数をひらめきに任せません。経営工学を学んだ講師が、解法を設計の問題として扱ったらどうなるか。その記録です。
教材は、全部やる前提で作られていない
まず事実から確認します。大手塾のテキストは、最上位クラスの生徒が全問こなすことを想定した分量で作られています。
これは批判ではありません。上限を高く設定しておくのは、教材として正しい設計です。問題は、その分量をすべての生徒が同じようにこなそうとすることです。
まだ基礎が固まっていない段階の子が、同じ量を同じ密度で追いかけるとどうなるか。1問あたりにかけられる時間が足りず、解説を読んで分かったつもりになって次に進みます。翌週には忘れています。
全部に手をつけた結果、どれも身についていない。これが最も多い失敗です。
時間は有限で、しかも計算できます
ここで、経営工学の発想が入ります。
お子さんが1週間に算数に使える時間は、何時間ありますか。学校があり、塾があり、他の科目があり、睡眠が要る。実際に手を動かせる時間は、多くのご家庭で思っているより短いはずです。
その限られた時間を、宿題の問題数で割ってみてください。1問あたり何分使えるか。この計算をすると、全部やるのが物理的に無理だと分かる場合がほとんどです。
できないことを計画に入れているから、崩れます。崩れると自己嫌悪が生まれ、やる気が落ちる。量を減らすのは、この悪循環を断つためでもあります。
何を残し、何を捨てるか
では、どう仕分けるか。基準は単純です。
まず、自力で正解できた問題に印をつけます。これは既にできているので、もうやりません。できる問題を繰り返すのは、気持ちがいいだけで得点は増えません。
次に、残った問題のうち、解説を読んで5分で理解できないものを外します。今の学力から遠すぎる問題に時間を使うのは、投資効率が悪すぎるからです。
残るのは、あと一歩で解けそうな問題だけです。ここに時間を集中させます。伸びしろが最も大きい領域だからです。
捨てた問題は、失われません
ここが重要なので、はっきり書きます。
中学受験のカリキュラムは、同じ単元が繰り返し登場する構成になっています。5年生で出てきた割合は、6年生でまた出てきます。形を変えて何度も戻ってくる。
つまり、いま捨てた問題は永遠に失われるのではなく、次に会ったときに解ければいいのです。そのとき学力が上がっていれば、5分で理解できる問題になっています。
今日わからないものを今日わかろうとして時間を溶かすより、確実に取れるものを固めて、次の周回に回す。これが螺旋型カリキュラムの正しい使い方です。
減らした時間を、何に使うか
宿題を減らすのは、楽をするためではありません。空いた時間を投資し直すためです。
投資先は2つです。1つは弱点の補強。答案から失点の型を特定し、その単元だけを集中的にやります。もう1つは処理速度です。計算と基本問題を毎日10問、時間を測って解く。目標は1問1分未満。
この2つは、宿題を全部やっている限り絶対に時間が取れません。ですが、テストの点数に最も直結するのはこの2つです。
減らして、空けて、集中させる。総学習時間を増やさずに得点を上げる方法は、これしかありません。
塾と喧嘩する必要はありません
最後に補足します。宿題を減らすというと、塾の方針に逆らうように聞こえるかもしれません。
そうではありません。塾のカリキュラムは優れています。問題は、それをどう運用するかです。同じ教材を使っていても、どの問題に時間を配分するかで結果は変わる。僕がやっているのは、塾を否定することではなく、塾を最大限活用するための配分設計です。
明日から親がすべき、非情な決断
今週の宿題の半分に、赤線を引いてください。今回はやらない、と決めてください。
塾から配られた課題を親の判断で減らすのは、勇気が要ります。不安にもなります。ですが、全部に手を出して全部が中途半端になるより、半分を確実に自分のものにした方が、点数は上がります。
やり切れなかった罪悪感より、確実にできる分量を回せた達成感のほうが、お子さんを前に進めます。
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