「解説を聞けば分かるのに、自分一人だと解けない」——その原因は、理解力だけの問題ではありません
「先生の説明を聞いているときは分かるんです。でも、一人で問題を解こうとすると分からなくなってしまいます」
学習相談や日々の指導の中で、こうした悩みに出会うことがあります。
解説を聞けば納得できる。途中式を見れば「そういうことか」と思える。ところが、同じような問題を目の前にすると、最初の一歩が出てこない。
このような状態が続くと、本人も不安になります。
「さっきは分かったはずなのに」
「ちゃんと説明を聞いていたのに」
「自分は数学が苦手なのかもしれない」
しかし、ここで考えたいのは、解説を聞いて理解できることと、自分の力で問題を解けることは、必ずしも同じではないという点です。
今回は、この違いと、指導の中で大切にしたい考え方についてお話しします。
1.解説を聞いて「分かる」のは、決して無意味ではない
まず、解説を聞いて理解できること自体は、立派な前進です。
先生が考え方を説明すると、問題の条件と解き方がつながります。自分では気づかなかった着眼点が分かり、途中式の意味も理解できるようになります。
ただし、解説を聞いているときには、先生が解くための道筋を示してくれています。
「ここに注目するんだよ」
「この数字を式に当てはめるんだよ」
「次はこの計算をするんだよ」
こうしたヒントがある状態と、何も手がかりがない状態とでは、問題に取り組む難しさが違います。
解説を聞いているときには納得できても、自分で解く段階になると、どこに注目すればよいのか、何から始めればよいのかを判断しなければなりません。
つまり、必要なのは解き方を理解することだけではなく、自分で解き方を選び、実際に使えるようにすることなのです。
2.「解き方を知っている」と「解き方を使える」の間には距離がある
例えば、数学の問題で先生が途中式を一つずつ説明してくれたとします。
生徒は説明を聞きながら、「なるほど、この順番で計算するのか」と理解します。
ところが、次に似た問題を一人で解こうとすると、手が止まってしまう。
このとき、単純に「説明を聞いていなかった」「集中していなかった」と判断するのは早いかもしれません。
考えられる原因はいくつかあります。
解き方の手順は分かったものの、最初に何をすればよいか判断できない。
なぜその式を立てるのか、理由まで十分に理解できていない。
一つひとつの計算はできても、複数の手順を組み合わせると混乱する。
解説を見れば思い出せるものの、何も見ずに解き方を再現する練習が足りていない。
もちろん、原因は生徒によって異なります。これらすべてが当てはまるわけではありません。
だからこそ、必要なのは「もっと問題を解きなさい」と一律に指示することではなく、どの段階で手が止まっているのかを確かめることだと考えています。
3.私が指導で大切にしたいのは、「どこまで自分でできるか」を確かめること
解説を聞いて理解できた問題について、もう一度自分の力で解いてみる。
このとき、すぐに答えが出なくても、焦って正解を教える必要はありません。
まずは、どこまでできるのかを見ていきます。
問題文の意味は理解できているのか。必要な公式や考え方は思い出せるのか。最初の式は立てられるのか。それとも、計算の途中でつまずいているのか。
つまずいた場所が分かれば、次に取り組むべき課題も見えやすくなります。
例えば、最初の式が立てられないのであれば、問題文から必要な情報を取り出し、式に結びつける練習が必要かもしれません。
一方で、式は正しく立てられるのに計算を間違えるのであれば、計算手順や符号の扱いなどを重点的に確認する必要があります。
同じ「解けない」という状態でも、必要な指導は違います。
そして、正解できなかったことだけを見るのではなく、自分でできたところと、助けが必要だったところを分けて考えることも大切です。
できている部分が明確になれば、本人も次に何を頑張ればよいのかを理解しやすくなります。
4.すぐに正解を教えるよりも、考えるためのヒントを少しずつ減らしていく
指導では、分からない問題に対して解説を行うことも必要です。
ただし、解説を聞いて正解できたからといって、その問題の学習が完全に終わったとは限りません。
そこで大切にしたいのが、ヒントの出し方です。
最初は先生が考え方を説明する。次は、解き始めるためのヒントだけを伝える。そして、少しずつ自分で考える範囲を広げていく。
このように、必要な支援を段階的に減らしていくことで、自分で解き方を選ぶ経験を積むことができます。
もちろん、すべての問題を最初から一人で解かせればよいわけではありません。難しすぎる問題に長時間悩み続けると、何を考えればよいのか分からなくなってしまうこともあります。
大切なのは、本人の理解度に合わせて、必要なところで支えながら、自力でできる部分を少しずつ増やしていくことです。
そして、解けなかった問題は、時間を置いてもう一度取り組んでみる。
そのときに自分の力で解けたなら、解説を聞いて理解した内容が、少しずつ使える力に変わっていると考えられます。
5.「できない」と決めつける前に、つまずいている場所を見つけよう
解説を聞けば分かるのに、自分一人だと解けない。
この状態は、本人にとっても、見守る保護者の方にとっても、もどかしいものだと思います。
しかし、そこで「理解力が足りない」「勉強量が足りない」と結論づけてしまう必要はありません。
もちろん、練習量が必要な場合もあります。ただ、練習を増やす前に、どの部分でつまずいているのかを確認することで、より効果的な学習につながる可能性があります。
解き方を思い出せないのか。問題文の条件を整理できないのか。式を立てられないのか。計算の途中で間違えてしまうのか。
一つひとつを確かめながら、本人に合った方法で練習を重ねていくことが大切です。
そして、昨日はヒントが必要だった問題を、今日は自分で解けた。
そんな小さな変化を積み重ねることが、学習への自信にもつながっていきます。
「分からない」を「分かった」にするだけでなく、「分かった」を「自分でできる」に変えていく。
私は、その過程を大切にした指導を目指しています。
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