[Professional Engineer 1] ~カナダでエンジニアになるということ~
2025/6/24
「将来はエンジニアになりたい」と思っている高校生や「子どもには理工系の道もいいかも」と考える保護者の方へ。
この記事シリーズでは北米で非常に重要なステータスとされる「Professional Engineer(略称:P.Eng.)」について紹介します。
日本の「技術士」とはだいぶ違う?
日本にも「技術士」という資格がありますが、正直なところ日本国内での知名度やステータスはそれほど高くありません。取得しても業務の幅が大きく広がるわけではなく、資格を持っていなくても同様の仕事をしている技術者は多くいます。
一方、北米(カナダ・アメリカ)においてProfessional Engineerは正式にエンジニアと名乗って仕事ができる重要な資格です。学士号(B.Eng.やB.Sc.Eng.など)を持ち、実務経験を積み、試験に合格した後に、初めてこの称号を名乗ることができます。
ライセンス番号とスタンプが届く!
P.Eng.に正式に登録されると、ライセンス番号の入った証明書と名前入りの公式スタンプ(seal)が送られてきます。このスタンプは、自分が設計や検証を行った図面や計算書に押すことができます。サインとスタンプをした書類は「このエンジニアが責任をもって設計した」ことを示し、法的にも重要な意味を持ちます。
つまり軽い気持ちでスタンプは押せません。重大な責任が伴います。
P.Eng.だけができること
公共の安全性に関わる設備は行政機関に登録されることが必要で、そのための書類にP.Eng.のサインが必須です。
たとえばカナダのオンタリオ州では、エレベータ、耐圧容器、遊園地の遊具、ガスなどの燃料関係などの設計計算書や図面で、必ずP.Eng.のサインが求められます。
設備会社で社内にP.Eng.を持つ人がいればこういう場面でサインができます。社内にいなければ社外のエンジニアリング会社に外注することになります。
また、Engineerという肩書きを正式に名乗れるのも本来はP.Eng.ライセンスを持っている人だけです。医師、弁護士、教師などと同じで、P.Eng.のライセンスを持っている人だけが「エンジニア」と呼ばれることが許されます。ただし現実には無資格者もエンジニアを名乗っていることが多いです。
それだけの価値のある資格ですから、同じエンジニアリングセクションではたらくライセンスなしの人と比べて給与水準が高いです。経験年数5年以下のP.Eng.でも年収10万ドルを超えることは珍しくありません。
ライセンス維持もラクじゃない
ライセンスは取得して終わりではありません。ライセンスを取得した後も、毎年の更新と研修が求められます。ライセンスを維持するためには最低でも以下の3点が必須です。
各州の登録団体へ年会費($300程度)の支払い
継続教育(PEAKなど)を受講し、CPD(継続職能開発)記録を提出
エンジニアリング賠償責任保険への加入
これは、常に最新の知識と倫理観を持って職務にあたるための大切なルールです。
実際の仕事は?
P.Eng.の主な仕事は設計です。といってもただCADを使うだけではありません。
計算書や図面がルール(建築基準法など業界の安全標準や、条例での規制など)に合っているかをチェックします。また自分で設計計算を行うこともよくあります。
計算書や図面に問題ないと判断できたら、書類にスタンプを押してサインし、州当局に申請書パッケージを提出します。
提出された内容に関して当局の審査官から多くの質問がきます。ルールの解釈をめぐって議論になることもあり、審査官を納得させることができなければ設計を修正します。
最終的に審査官がすべてを納得し正式に承認が得られればP.Eng.の仕事はひとまず完了です。その設計にしたがった製品やプロジェクトが世に出ることになります。
これらの仕事を高いレベルでこなすためには、常にルールブック(例えばASMEやCSA規格、建築基準法など)の最新情報を把握する必要があります。また場合によってはルール改訂のための委員会活動に参加することもあります。
まとめ:P.Eng.はエンジニアの資格
北米でP.Eng.のライセンスを持つということは、「州の機関からこの人は安全・倫理・専門性をもって設計を任せられる」と認められている証です。責任は重いですが社会的信用も高く、キャリアとしての満足感はとても大きいです。
これから理工系を目指す高校生、特に海外ではたらきたいと考えている人にとって、P.Eng.は将来の選択肢としてとても魅力的なはずです。
続編では、P.Eng.ライセンスの取得方法を紹介します。
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