[Professional Engineer 2] ~カナダでエンジニアとして信頼されるまで~
2025/7/29
「エンジニアとして世界で活躍したい」
「北米でエンジニアとして働くにはどんな資格が必要?」
そんな思いを抱く高校生や保護者の皆さんに向けて、今回はProfessional Engineer(P.Eng.)になるためのステップをわかりやすく解説します。
P.Eng.とは、カナダやアメリカなどで正式に認定された称号です。単なる肩書きではなく「法的責任を伴って設計・判断を下すことができる」州レベルの信頼を得た技術者です。
Step 1:大学で工学の学位を取得
カナダの大学を卒業する場合
P.Eng.への最短ルートは、CEAB(Canadian Engineering Accreditation Board)認定の大学プログラムを卒業することです。
たとえば、
- トロント大学
- ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)
- アルバータ大学
- ウォータールー大学
などがあります。
これらの大学でB.Eng.やB.Sc.Eng.などの学位を取得しましょう。
日本など海外の大学を卒業した場合
P.Eng.はカナダ国外の大学卒業者にも門戸が開かれています。ただし、以下のプロセスが追加されることがあります。
- 成績証明書や卒業証明書(英文)の審査
- 専門的な内容の筆記試験(technical exams)の受験
最近ではデジタル提出やオンライン認証も進んでおり、以前より申請しやすくなっています。
Step 2:4年間のフルタイム実務経験
学位取得後はEngineer-in-Training(EIT)として、最低4年間のフルタイムでの実務経験を積む必要があります。
実務経験の条件は、卒業した大学の課程と同じかそれに近い分野で、エンジニアリング・ジャッジメント(設計判断や技術的検討)を含む業務に従事していることです。
そしてそれはP.Eng.の監督下での勤務が望ましいです。
最近の大きな変更点(2023年改訂)として、カナダ国外での経験も正式に認定対象になりました! 以前ならカナダでwork permit(就労ビザ)などで滞在しカナダ国内で経験を積む必要がありましたが、今は日本にいながらエンジニアリングの経験を積むことができます。
これらの経験を積んで職歴を記した書類を提出し、職歴審査を受けることができます。
Step 3:試験(Examinations)
① 法律と倫理の試験(PPE)
Professional Practice Examination(PPE)はすべての受験者に必須です。
試験内容は、職業倫理、契約、法的責任、リスク管理に関するもので、多肢選択式の110問で構成されています。合格ラインは約65%と言われています。
この試験では専門知識ではなく社会的責任を負うプロとしての意識が問われます。
② 専門科目試験(必要な場合のみ)
学歴審査で不足ありと判断された場合は、特定の科目(例:材料力学、電気回路など)の試験を指定されます。
前述のCEABでは北米スタンダードの大学で学ぶべき科目や内容のリストがあり、特に海外大学を卒業した場合、ここに含まれている科目を履修していない場合があります。その際には専門科目の筆記試験が要求されます。
Step 4:Reference(推薦)
審査ではさらに3名の推薦者(Reference)が必要です。
あなたの学歴や職歴についてよく知っている人物が必要です。あなたのカナダでの職務経験を知るP.Eng.が指定できれば好ましいですが、やむを得ない場合はそうでなくても大丈夫です。
Referenceには、あなたの実務での判断力、責任感、技術力に関して回答してもらう質問用紙が送付されるので、記入して返送してもらう必要があります。
上司・同僚問わず、直接あなたの仕事ぶりを適切に評価できる人が適任です。
Step 5:申請・登録・ライセンス取得
すべての要件を満たしたら、州ごとの規制機関(例:PEO=Professional Engineers Ontario)に正式申請を行います。
承認されると以下のようなことになります。
(1) ライセンス番号が与えられます。あなただけの番号です。
(2) 公式スタンプ(seal、下の写真)が届きます。下の写真のように計算書や図面などにあなたがこのスタンプをおしてサインすれば、あなたは法的責任の一端を負うことになります。
(3) 名刺に「P.Eng.」というタイトルを記載できます。北米では正式にエンジニアを名乗れるのはP.Eng.取得者だけです。実際には持っていない人も設計などの仕事をしていればエンジニアと名乗ることが多いのですが、本来はこのP.Eng.ライセンス保持者だけに許されている特権です。
よくある質問(Q&A)
Q. カナダ国籍や永住権は必要?
→ 不要です。
以前はカナダ国籍やカナダ永住権が必要でしたが、現在は誰でも申請可能です。
Q. 合格率は?難しい?
→ 公表はされていませんが、2023年にはオンタリオ州だけで4,397人が新たに登録されており、コロナ後のリカバリー期に申請数が増加しています。
Q. どのくらいの期間がかかる?
→ 最短でも大学卒業から5年は見ておくとよいでしょう。
まとめ:責任あるプロを目指す、確かな道
P.Eng.は単なる資格、肩書きではありません。
高い倫理観を持ち、公共の安全のために設計等に責任を持ち、また他の技術者を導く信頼されるエンジニアの証です。
世界に挑む武器としてP.Eng.という選択肢があります。「海外ではたらきたい」「世界に通じるプロフェッショナルになりたい」と願うあなたにとって、P.Eng.は最高の入口になるでしょう。
あなたが未来の仲間として、ぜひこの道を歩んでくれることを期待しています。
P.Eng.取得に関する相談にも応じることができますので、ご連絡ください。
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