大学教員をしていた立場からみなさんに伝えたいこと6(答案は奇麗に書こう)
今回は答案の書き方についてお話ししましょう。受験のテクニックについてのお話ではありませんが、受験の際には絶対重要なお話です。
みなさんは答案を書くとき、どのようなことに気をつけて書いていますか?
正解を分かりやすく書く。それは当たり前ですよね。
長年大学教員をしていたので、たくさんの定期試験答案の採点や入学試験の答案の採点をしました。その経験から、ずっと気になって仕方がないことがあります。それは答案の書き方です。マーク式の答案ならいざ知らず、記述式の答案の書き方がとても気になります。
ハッキリ言って:
・字が汚すぎる!
・汚すぎて、なんて書いてあるのかわからない!
・書き方がルールに則っていない!
数学や物理学の答案は、数式を答案に書く必要があります。数式は普通の文章ではありませんから字が汚いと何が書いてあるかわからないことがあります。普通の文章ならば、前後の文脈から字が汚くてもある程度のことが推測できるのですが、式はそうはいきません。
ブッチャケていいますが、入試の答案の採点時、間違いがあってはいけないので複数の教員で採点するのですが、答案をどのように判断していいのか困ってしまう場合がよくあります。その場合、大学にも因るとは思いますが、私の経験ではあまりにも字が汚いとか書き方が変だとかで一人の採点者で正解不正解の判断がしにくい場合、複数の採点者が見て何と書いてあるか検討します。そして、何と書いてあるのかわからないと判断された答案は、これも大学の方針次第だとは思いますが、場合によっては「誤答」とされてしまうことがあるかもしれません。本当はあっているのに字が汚いばっかりに減点されて、それが原因で不合格扱いになってしまうということがないとはいえないわけです。
具体的にどれくらい汚いのかとか、書き方にどんな問題があるとか気になりますよね。
これから幾つか具体的な例を挙げて説明してみようと思います。
【1.そもそも何てかいてあるのかわからない場合】
たとえば、下の2つの写真は、かつて大学の授業で宿題を出したときに出てきた答案の一部です。勿論いつの誰の答案かは最早不明であり答案そのものは破棄済みですが、参考のために写真をとってあったものです。(AIにも相談し、この字の画像から、これを書いた個人は特定されないであろうと判断しました。また、具体的に事実を見てもらうことが今回の内容で重要なことだと考えましたので、実際のものを写真で掲載する決断をしました。)
さて、これらの写真はなんて書いてあると思いますか。1枚目の写真はカッコの中はとてもきれいな字とはいえませんが、分からないわけではありませんよね。そう、「 x^3+x-7 」です。では何乗でしょうか?もちろん前後の式を見れば予想はつきます。でも、これだけ見せられるとわからないですよね。実は2乗のつもりです。でもこれが「2」に見えますか?
2つ目の式では「14x+」まではよしとして、そのあとの数字(?)は何でしょうか。これだけ見たって本当に何だか分からないですよね。たしか49と書いてあるつもりだったと思います。でも99にも見えますよね。あるいは、本当にここだけ見たら数字なのかどうかすら分かりません。
ちなみにAIになんて書いてあると思うか聞いてみたところ、1枚目の写真の場合、確かに2乗の可能性もあるがC乗にも見えるといっていました。
下の式は「 14x 」という項から推測すると14は7×2だから多分7の2乗である「 49 」じゃないかと判断しました。「でも、99にも見えますよね。」と答えていました。「 14x 」の項がなければ判断に困っただろうと思います。
【2.記号の書き方そのものが間違っている例】
また、下の写真のような答案をよく見かけます。これは 「2ルート x」のつもりだと思いますが、ルートの記号の書き方が間違っています。ルートの記号は本来「ルート」の頭文字のアルファベットの「アール ( r ) 」の小文字、あるいはラテン語の「radix」の頭文字が元なので、下のような割り算の筆算のような記号を使って書いているのは間違いです。意地悪な先生だったら「x÷2」と書いているのだと判断するかもしれません。(相当イヤミな先生だとは思いますけどね。)

でもこういう答案をよく見かけるし、見ると「わかってないなぁ」とガッカリしてしまいます。
また、ルートの記号の書き方にまつわる問題点をもうひとつお話しておきます。実際の答案ではありませんが、答案の中に下のような式をよく見かけます。
ルートの記号が間違っているのは上の写真と同じです。上の写真がルート x の2倍ならば、これはルート x の3倍だと思いますよね。実はそうではありません。x の 1/3 乗のつもりです。ルートの記号の書き方が間違いでなかったとしても、例えば
のような式が書いてあったとして、どう考えますか。右の式は誰が見ても x の 1/3乗だと判断するでしょうが左はどうでしょう。やはり ルート x の3倍にしか見えないですよね。でも、どちらも x の 1/3 乗のつもりでこのように解答を書く学生がたくさんいます。ちなみにこれらもAIに聞いてみると、最初の式はルートの記号の書き方が間違っているので、どちらともいえないとの回答、下の2つの場合、比較すれば右はxの1/3乗で左はルートxの3倍と判断しました。単体でみても左はルートxの3倍だと判断されてしまうようです。理由は1/3乗であれば3はルートの記号のくぼみの上に書くルールになっているからだということでした。左はそのルールに則っていないので、1/3乗とは判断してくれないようでした。まして、その前のルートの記号の書き方が間違っていたら話になりませんよね。
【3.アルファベットの文字の書き方の問題】
例を挙げればキリがありませんが、変数「 y 」もギリシャ文字の「 η (エータ) 」のように書く人がいます。高校の数学では「 η 」を使うことは少ないかもしれませんが、大学ではいろいろなところで「 η 」という文字を使います。
あるいは皆さんの中にはアルファベットの筆記体をご存じない方がいるようですが、「 z 」の筆記体のように「 y 」を書く人もいます。たとえば

これらはなんという文字を書いていると思いますか。これも実際の答案に書かれていたものではありませんが、すべてよく見かける字です。すべて「y 」と書いているつもりですが、AIに尋ねると左の3つは「z」の筆記体、4番目はギリシャ文字の「エータ」ではないかという返答でした。全く「 y 」だとは思ってもらえませんでした。このような誤解をされても仕方ないという文字だということです。さらにこんな場合もあります。みなさんは数式のなかで「z」をどう書きますか。例えば下の文字のどちらで書いていますか。
両方とも「z」のつもりですが、左は数字の「2」と間違えられる可能性が高いですね。たしかにキーボードの「z」は右のようなものではなく左のほうが近いですよね。しかし、数学で「z」を書くときは右のように書くべきだと思います。理由は多分ですが、数字の「2」と誤解されないようにするためということだと思います。実際、答案にどちらのつもりで書いているのかわからない場合がありますし、酷い場合は自分でも途中で「z」か「2」か区別が分からなくなってしまって計算間違いをしてしまったという答案を見かけたことがあります。一本短い線を付け加える手間を惜しんで誤解されたり間違えたりしたら意味がありませんよね。
ついでにもう一つ例を挙げると「x」の書き方にも気を付けなければいけません。数学ではよく「x」を
のように書くことをご存じですよね。英語の勉強ではそのような書き方では習わずに
のように書くことが標準だと思います。なぜ数学では通常の英語のような書き方をしないのでしょうか。いくつか理由はあるみたいです。一つ目はギリシャ文字の「χ(カイ)」と区別するため。統計学という数学では「χ2乗分布」という重要な分布を扱うとか、そのほか物理でもある量(例えば磁化率)を表すときギリシャ文字の「 χ 」を使うことがあります。x(エックス)もχ(カイ)も同時に式の中に現れる場合があります。そのとき同じような書き方で書くと誤解されてわけがわからなくなるかもしれません。その他にも掛け算記号と間違えられるかもしれないとか「4」を急いで書いて斜めになると同じように見えることがあるなど、とにかく人に誤解されるような書き方を避けるという意味があります。それでもあくまで英語で習った2つ目の書き方を採用する人がいますが、これはどうなんでしょうね。
いずれにせよ、数学の場合、誤解されるような文字を書くということは、正確に伝えたいことが伝わらないということになります。伝わらないということは致命的な問題です。この問題は数学のみならず、数学を使っていろいろなことを表現する理工系の世界では常識的な問題です。確かに今や手書きで字を書くことが少なくなってきました。そのせいで大学生になっても字を習いたての小学生のような字を書く人が増えてきました。でも、まだすべてを手書き抜きで済ませることはできません。特に理工系の場合は数式を使って問題の処理をする場合においては手書き抜きではなかなか難しいところがあります(最近はかなり手書きでなくてもなんとかなるようになりつつはありますが・・・)。少なくとも入学試験はまず手書きで解答することは間違いないでしょう。そのときに、汚いとか書き方が間違っているとかの答案を書いて誤解されると、たとえ正解が導き出されていたとしても不正解にされてしまうかもしれません。そうなっても仕方ないですよね。
なんでもそうですが、独りよがりはいけません。独りよがりではなく、だれが見ても誤解されないような答案を書くということは大切なことだと認識してください。
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