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高校数学

何のための数学か -大学受験に必要な数学と大学教育に必要な数学-

2026/1/23

 みなさん(特に、大学の理工系学部進学を目指しているみなさん)は何のために数学の勉強が必要なのか、考えたことがありますか。

「そりゃ、受験科目のひとつに必ず数学があって、そのテストの点数が悪いと良い大学に入れないからでしょ。」

がその答ですか?

 なぜこんな話をするかというと、上の答はあながち全くの間違いとは言えませんが、それだけではないということを知っておいて欲しいからです。

 私は長いこと大学の工学部で数学の授業を担当していました。そのときの話ですが、数学があまり得意ではないという学生がいて、その学生に、

「これ、難しくてよく分からないんですけど…。」

と言われ、

「どういうところが難しいと思うの?」

と聞き返すと

「だって、これ、高校では教わっていないですから…。」

と言われたことがあります。その返事を聞いて、口では

「あぁ、そうなのかぁ~。」

と言いつつも、

「ん?どういうこと?だって、ここは大学なんだから高校では勉強していないことを勉強するに決まってるじゃないですか。高校ではまだ勉強してこなかったことを勉強するのが大学でしょうが…。」

と心の中では突っ込んでいました。このようなことを一度ではなく何度か経験しました。

しばらくの間、このようなことを言ってくる学生の真意がなかなか理解できなかったのですが、長いこと大学で教育に携わり様々な経験を積んできた結果、最近になってようやく一つの結論に至りました。

 どういうことかというと、大学生たちは大学(たとえば工学部)では、高校では勉強しないような工学系の専門知識を勉強するところであるということは、もちろんよく分かっています。しかし、数学は工学部で習うべき専門知識ではなく、数学は高校のときに勉強した内容ですべて完結していると思い込んでいるのではないだろうかということです。更にいえば、もう受験は終わったのだから数学を勉強する必要はないと考えているのではないかという気がしているのですが、さて、みなさんはどう考えていますか。

【理系学問に必要な基礎知識としての数学】

 数学という学問は、今もなお進化を続けている学問であり、高校で勉強した数学が数学の全てではありません。それは分かりますよね。そうでなければ、世の中に「数学者」などという数学の研究をする専門家なんか存在する必要がないわけですから。

 数学は色々な分野で利用されます。私が専門としている理論物理の世界でも、みなさんがほとんどご存じないような難解な数学を駆使して自然界の成り立ちを理解すべく研究が続けられています。当然、その他の理系学問でも重要な道具として数学が利用されます。理系と言っても様々な分野があるので、利用する数学も分野ごとに異なりますが、少なくとも高校で勉強した数学だけでは事足りず、さらにその上に成り立つ数学が必要です。つまり、それらの数学は高校で勉強する数学の上に成り立っているわけです。ですから、高校の数学は専門分野で利用する数学を理解するための基礎知識であり、理系に進みたい人間にとっては絶対に必要不可欠な知識なのです。理系学問を目指す者にとって高校で勉強する数学は、決して単に受験のために勉強をするわけではありません。大学に入ってからの勉強に必要な基礎知識だからこそ高校で数学の勉強しているのであって、それらの数学を使いこなせなければ、大学に入ってから理系分野の学問の専門知識を身につけることなどできるはずがありません。言い方をかえれば、「だからこそ理系学部の入試科目には必ず数学がある」のです。

【推薦入試など数学の試験がない入試方法で理系学部に進学するということ】

 最近は、高3の秋の段階で推薦入試などの多様な入試方法で大学進学を決める生徒が多いようです。それ自体は何の問題もないのですが、上述のように数学は受験のために勉強するものだという勘違いをしている人が推薦入試などで進学を決めると、入学後にものすごく苦労することになります。全員が苦労するとは言いませんが、経験上、推薦入試などで秋の段階で進学を決めて入学してきた新入生の多くが、ビックリするほど数学の基礎学力が欠如しており、苦労しています。

推薦入試で入学してくる学生によくありがちなのが:

1.もともと数学が苦手なので、数学の勉強がそれほど必要ない推薦入試を選んで進学してきた。

2.推薦入試で進学が決まったため、その後高校卒業までの間にまともに数学の勉強をしなかった。

etc.

というパターンです。いずれにしても、数学は受験のためだけに必要な勉強であり、進学が決まったら最早数学の勉強をする必要などないと勘違いしてしまっているわけです。なので、これらの勘違いをしたまま大学に進学してきた学生たちは、入学してから「話がちがう」と狼狽えることになってしまいます。何しろ、いきなり高校で数ⅢCまでシッカリ勉強していて、それらを完璧に理解できていることを前提として更に難しい数学の勉強や専門の勉強をさせられることになるわけですから…。

 実は現場の大学教員も本当に困っています。もちろん、真面目に勉強してきた学生もいます。ですから、そういう学生のために高度な数学を教えたい。でも、現実はそうはいきません。つまり、高校で習得済みであるべき数学的知識がない学生がいるので、多少は高校での数学を復習する部分が必要になります。しかし、そのような内容に重点を置くことはできません。そのような授業をすると高校でシッカリ数学を勉強してきた学生からは不満が出ます。第一、大学は高校の復習をするところではありません。一体どこに照準を合わせてどのような授業をすればいいのだろうか、ということになります。

【受験のために必要な数学と大学での勉強に必要な数学の違いとは】

 入学試験の問題には、解くのが難しい問題がたくさんあります。それは、合格・不合格の振り分けをしなくてはいけないからです。全員が解ける問題ばかりを入試問題にするわけにはいきません。そうかといって、難しすぎて誰も解けないような問題ばかりにするわけにもいきません。勉強してきた受験生と勉強してこなかった受験生、数学のセンスがある受験生とセンスがない受験生を、適度に振り分けることができるような入試問題の作成が求められます。だから数学の受験勉強をするには、あまり基礎的なところに時間を割いてばかりはいられません。ということで、受験数学の勉強はどうしても問題解法のテクニックの習得に走りがちになります。みなさんも多分その辺りで苦労していますよね。

 しかし、入試問題のような、解くために特別なテクニックが必要な問題を解くことができるようになることが大学に入ってから必要かというとそんなことはありません。入試問題は合格不合格を決めるために作られた特別な問題で、将来知っておくべき必要な知識を問う問題にはならないことが多いようです。大学に入ってから必要なことは、難解な問題を解くテクニックを身に付けるのではなく、その数学の持っている本来の意味をキチンと理解しておくことです。

 なので、高校でシッカリ数学の勉強をしたという場合でも、その勉強の仕方次第では大学入学後に大変な失敗をすることがあります。それぞれの数学(たとえば微分・積分)の意味をきちんと理解せずに、ただ入試問題を解くために必要なテクニックだけを身につけるという勉強の仕方をしていると、これも大きな間違いに繋がります。微分とか積分がどういう考え方に基づいた数学で、何か数学を用いて解決すべき問題に出くわしたときに、微分積分などをどのように利用すればよいのかということが分からないといけません。

 極端な例え話をします。実際にはそんな人間はいないとは思いますが、こういうことだと思います。

1000-150×6 という計算をしなさいという問題があったとしましょう。当然、加減乗除の演算規則を習った小学生以上であればみんな正解を出すことが出来る問題です。それは引き算とか掛け算という演算はどういう規則で計算すればよいのか誰でもみんな知っているからです。ところが、その演算のテクニカルな計算方法は知っているけれど、それらの演算が具体的にどんな意味を持っているのかを知らない人がいたとします。するとその人は

 「ある人が、150円のリンゴを6個買って1000円札を出したら、おつりはいくらになるでしょう。」

という問題が与えられたときに、1000-150×6 という計算をすればいいということが分からないということになります。まさか、現実にはそんな人はいませんよね。それは引き算や掛け算の計算規則だけではなく、それほど難しいことではないので、ちゃんと引き算や掛け算の意味も理解できているからです。

 ところが、高校で勉強する微分とか積分の話になると少し事情が変わります。つまり、微分積分の計算問題を出題されれば解くことができるけど、それが何を意味しているのか分かっていないという人がたくさんいます。みなさんはそんなことはないですか?

 微分すべき式を与えられれば微分して結果を出すことはできるけど、微分をどのように利用すればいいのか分からない学生がたくさんいます。このような学生は、さきほどの簡単な例でいえば、引き算・掛け算の計算はできるけど加減乗除の意味を理解していないのでお釣りの計算にそれらの知識を利用できないのと同じような人たちです。

 つまり、数学の授業で、この積分の計算をしてみなさいと先生に言われれば答は出せるけど、何か課題にぶち当たったとき、その課題を自分で解決する手段として実は積分を使って計算をすれば解決が出来るということに気づかないことになります。実際に専門分野に進めば、数学の先生がこの問題を解いてくださいなどということで積分の問題を解くという場面などはありません。すべて自分で課題解決をしなければなりません。そのためには、やはり数学の計算方法やテクニックだけではなく、その意味をキチンと理解しておく必要があるということです。

 大学受験を控えているみなさんは、もちろん入学試験に出てくるような問題を解けるようにならないといけないことは間違いありません。でも、数学の一つ一つの分野について、その意味をシッカリ理解しておくことも大切です。

 どうか高校で習う数学の意味をちゃんと理解しておいてください。

 そして、推薦入試などで合格したという場合でも、もう数学を勉強する必要がないなどという勘違いをしないで、大学に通い始めるまでのあいだに数学の勉強を怠らないように心がけてください。

 もし、自力でそのような勉強をする自信がないのなら、よろこんでお手伝いします。場合によっては、大学進学後もアドバイスしますよ!

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