Vol.11 コソボ編 一つの国、二つの文字、三つの宗教――旧ユーゴの記憶をたどって
バルカン半島の中心に位置する小さな国、コソボ。
2008年に独立を宣言した、ヨーロッパで最も新しい国のひとつです。
けれど、この国の誕生は決して平穏なものではありませんでした。
かつてユーゴスラビア連邦の一部だったコソボでは、民族や宗教の違いから紛争が起こり、1999年にはNATOの空爆という痛ましい戦いの舞台にもなりました。
その背景には、アルバニア系とセルビア系の人々が長く共存してきた歴史、そしてそれぞれが「自分たちの土地」と信じてきた深い文化的ルーツがあります。

歴史的に見れば、コソボ紛争は「民族紛争」として語られることが多いですが、
その根っこには、政治・宗教・経済の不均衡や、
「国家とは何か」「アイデンティティとは何か」という深い問いが潜んでいます。
たとえば授業の視点から見ても、
これは「世界史」だけでなく、「現代社会」「倫理」「政治経済」といった教科にもつながるテーマです。
・国際連合やNATOが果たした役割
・国家承認をめぐる国際法の議論
・民族アイデンティティと文化の尊重
こうした内容を、“現実の人々の物語”として理解できる教材が、コソボという国なのです。
そしてもう一つの学びのポイントは「希望」。
コソボの若者たちは、紛争の記憶を語り継ぎながらも、英語で夢を語り、ITや音楽で世界とつながろうとしています。
「戦争を知らない世代」が、自分たちの国をどう築いていくのか。
その姿は、平和を“与えられるもの”ではなく、“自分たちで作るもの”として捉える大切さを教えてくれます。
教科書で学ぶ「独立」や「紛争」という言葉の背後には、
その地で生きる一人ひとりの「選択」と「希望」があります。
コソボを知ることは、“平和のリアル”を自分ごととして考えるきっかけになるはずです。

ユーゴスラヴィアの複雑性
かつてのユーゴスラヴィアは「7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字、1つの国家」と形容されるほど多様な要素を含んでいました。
コソボを含めた旧ユーゴスラビアは、かつて指導者チトーのもとで一つにまとまっていました。
彼は「民族の違いよりも“共通の未来”を見よう」と呼びかけ、東西冷戦の狭間で独自の道を歩みました。
しかしチトーの死後、均衡は崩れ、ユーゴスラビアは六つの国へと分かれていきます。
コソボはその“最後の分かれ道”として、交わる歴史の縮図となりました。
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✈️ 次回予告
Vol.12では、旧ユーゴのもう一つの物語――クロアチア編へ。
戦火を越えて甦った世界遺産の街・ドゥブロヴニクで、「文化が人を癒やす力」を探ります。