オンライン家庭教師マナリンク

解法暗記はダメ、は本当か——チャート式と中学受験の奇妙な矛盾

2026/6/5

「解法暗記はダメです」

塾の先生も、受験本の著者も、YouTubeの中学受験インフルエンサーも、判で押したようにこう言う。考える力を育てましょう。解法を丸暗記するだけでは応用が利きません。理解を深めることが大切です。

僕はこれを聞くたびに、ひとつの疑問が頭をもたげる。

じゃあ大学受験は何なんだ、と。

チャート式は「解法暗記」の塊である

青チャートを開いたことがある人なら分かるはずだ。あの本の使い方は、基本的に「例題を繰り返し解いて、解法を血肉化する」である。解説を読んで、手を動かして、何も見ずに再現できるまでやり込む。それがチャート式の正しい使い方だ。

東大・京大・医学部を目指す高校生が全員やっている方法が、解法暗記である。

なのに中学受験の算数では、同じことをやると「考える力が育たない」と言われる。

この矛盾を、誰も正面から語らない。

「解法暗記がダメ」という言説の正体

結論から言う。解法暗記はダメではない。暗記の密度が足りないだけだ。

もう少し丁寧に言い直そう。世間で「解法暗記はダメ」と言われている状態とは、実際には「解法を表面的になぞっただけで、血肉化できていない状態」のことを指している。問題が提起している。批判されているのは暗記という行為そのものではなく、暗記しきれていないことだ。

典型的な失敗パターンはこうだ。

問題を見る。解説を読む。なるほど、と思う。ノートに写す。「分かった」と感じる。次のページへ進む。

そして翌週、同じ問題が出る。解けない。

これは暗記したのではなく、理解した気になっただけだ。チャート式を正しく使っている受験生は、例題を「なるほど」で終わらせない。何も見ずにスラスラ書けるまで、繰り返す。それが「血肉化」である。

解法丸写しの何が問題なのか

「うちの子、宿題の実践問題が解けなくて、答えを丸写しになってしまっています」

保護者面談でよく聞く言葉だ。これを聞いた時に「解法暗記がダメな証拠だ」と思う人は、問題の所在を間違えている。

丸写し自体は、悪ではない。問題は、丸写しした解法が「使えるレベルまで定着していない」ことだ。

解法を写した。それを見ずに再現できるかどうか確認した。できなかった。また写した。できるまでやった——これが本来の流れだ。ほとんどの子供はここを省略している。写して、終わり。1回写せば「やった」になっている。

1回写しただけで定着するのは、よほど記憶力が鋭い子だけだ。平均的な小学生には、反復が必要だ。反復の量が足りないから、ちょっとひねった応用問題で詰まる。「解法暗記はダメ」と言われる現象の正体は、ほぼ全てここに集約される。

「考える」と「解法を使う」は矛盾しない

もう一つの誤解を解いておく。解法を覚えることと、考えることは、対立しない。

例えば、線分図の書き方を反射的に引き出せるようになった子供は、問題文を読みながら同時に図を書ける。手が先に動く状態だ。これが「考える」出発点になる。

逆に、線分図の書き方自体を毎回「どうだっけ」と思い出しながら描いている子は、手順を思い出すことに認知的リソースを全部使ってしまい、問題の構造を考える余裕がない。

解法が血肉化されていない子に「もっと深く考えなさい」と言っても意味がない。考えるための道具が手に入っていないからだ。

「解法暗記がダメ」は誰に向けた言葉か

最後に、この言説がなぜ繰り返されるかを考えてみる。

「解法暗記で乗り切ろうとする子」というのは実在する。問題の構造を一切理解せず、パターンだけで力任せに解こうとするタイプだ。でもそれは、上位の子供たちの話だ。偏差値65以上の層が「もっと本質的に理解しないと最難関には届かない」という文脈で語られる言葉が、そのまま偏差値50の家庭に流れ込んでくる。

偏差値40台・50台の子供が解法暗記で詰まっているのは、「暗記しすぎているから」ではない。「全然暗記できていないから」だ。

世間の受験アドバイスの大半は、よく伸びる子供の勉強スタイルを後から観察して記述したものだ。できる子は自然に深く理解する。だからといって、深く理解することが成績を上げる原因なのかは別の話だ。

処方箋を間違えないでほしい。今やるべきことは、解法をとにかくやり込んで、問題を見た瞬間に手が動くレベルまで定着させることだ。それが終わってから「もっと深く考える」は始まる。

順番を間違えると、基礎ができていないまま「思考力」を鍛えようとして、何年も空回りする。見ていると分かる。その家庭の子供は、いつも難しそうな顔をして、答案用紙は白いままだ。

このブログを書いた先生

このブログに関連するオンライン家庭教師はこちら

中学受験におすすめの指導コース

7,500
90(全1回)
小学5・6年生
  • 工業分布問題ができない
  • 省エネでポイントを押さえたい
  • 中村のレッスンを一度試してみたい
コースの詳細を見る
国語(小学生)月額コース
小学生の漢字専科【漢字に強くなろう】元小学校教師が徹底コーチ
タイプ別
無料体験あり
小学生の漢字専科【漢字に強くなろう】元小学校教師が徹底コーチ
22,000/月
1回60(月4回(週1回目安))
小学1〜6年生
  • 漢検や中学受験に向けて、漢字や熟語を確実に覚えたい!
  • 海外在住・帰国生・インター生で、漢字にじっくりふれる機会が少ない!
  • 漢字の勉強の仕方がわからない、漢字を覚えるのが大変!
コースの詳細を見る
国語(小学生)月額コース
国語記述問題が得意になる 記述力アップのコツ 添削付き
三者面談あり
無料体験あり
国語記述問題が得意になる 記述力アップのコツ 添削付き
30,000/月
1回60(月4回(週1回目安))
小学4〜6年生
  • 記述問題が苦手で、解答欄が空白になることが多い
  • 何をどう書いていいのかわからない
  • がんばって書いたのに、✖になってしまう
コースの詳細を見る
2,000
45(全1回)
小学1〜6年生
  • 「一度まりか先生の授業を体験してみたい!」という生徒様
  • 指導コースに設定されていない学年・内容の授業を受けてみたい生徒様
  • 中学受験対策・集団塾サポートなどを希望される生徒様
コースの詳細を見る
理科(中学生)月額コース
【中学受験・理科】暗記で終わらせない!小学生理科の基礎固め
タイプ別
無料体験あり
【中学受験・理科】暗記で終わらせない!小学生理科の基礎固め
18,000/月
1回60(月4回(週1回目安))
小学1〜6年生
  • 中学受験理科の基礎が抜けている生徒さん
  • 色々な分野の暗記が苦手な生徒さん
  • 塾や他の教科を優先してしまい後回しにしている生徒さん
コースの詳細を見る

この先生の他のブログ

ヒロユキの写真

中学受験で宿題をやらない子の「一応やった」の正体

2026/7/18
中学受験で宿題をやらない子は、宿題をやっていないとは言いません。「一応やった」と言います。この一語が出た時点で、その日の学習はほぼ成立していないと考えて、まず間違いありません。僕は毎週、いろんな家庭の子と画面越しに向き合っています。そこで何百回と聞いてきた言葉が、これです。一応。とりあえず。だいたい...
続きを読む
ヒロユキの写真

中学受験の算数で点数が安定しない理由|解き方がバラバラだから

2026/7/18
中学受験の算数で点数が安定しない。偏差値が55と45を行ったり来たりする。この相談を受けたとき、僕はまず、お子さんの実力を疑いません。疑うのは、解き方に型があるかどうかです。同じ単元、同じレベルの問題で、取れる日と取れない日がある。これは実力の波ではありません。毎回ちがうやり方で解いているから、毎回...
続きを読む
ヒロユキの写真

作文の文字数が足りない|伸ばすな、3個書いて1個捨てろ

2026/7/18
作文の文字数が足りないという相談を受けるたびに、僕は同じことを言います。伸ばそうとしているから足りないんです、と。三百六十字以上四百字以内。この手の指定に対して、子どもは書きたいことを一つ思いついて、書き始めて、二百五十字あたりで止まる。そこから絞り出すように、無理やり百字を足す。この足された百字が...
続きを読む
ヒロユキの写真

国語の選択肢の選び方|迷ったら言い過ぎと書いてないを疑う

2026/7/18
国語の選択肢の選び方で迷うお子さんは、消去法を「感覚」でやっています。なんとなく違う気がする、なんとなく合っている気がする。この状態のまま六年生になると、記述は書けるのに選択肢だけ落とす、という不思議な成績表ができあがります。コツは二つだけです。言い過ぎと、書いてない。この二つを疑う。それだけで正答...
続きを読む