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基本問題を完璧にした子が一番速い

2026/6/16

その「反復・実践」、本当に終わっていますか

塾から配られる宿題のプリントを見て、基本問題のページをそっと飛ばしている家庭は、想像以上に多いものです。

組み分けテストが近づいている。配点を考えれば、練習問題や実践問題に時間を割くほうが理にかなっている。実際、上位クラスになればなるほど、宿題の指示そのものが反復の練習と実践から始まります。基本問題は授業中に類題を一問解いて終わり、家庭で改めて確認することはほとんどありません。

この判断は、表面上はまったく合理的に見えます。ただ、僕は毎年、この合理性を覆すことになります。基本問題を飛ばしてきた子の答案を見ると、ほぼ例外なく、同じ場所で同じように手が止まっているからです。

なぜ基本を飛ばすと偏差値60で詰むのか

予習シリーズに代表される中学受験の教材は、ある一点において非常に誠実に作られています。基本問題で身につける技が、そのまま練習問題や実践問題の中で部品として使われる、という設計です。

例えば、いくつかの数の最大公約数を求める手順は、基本問題の中で単独の技として繰り返し練習させられます。ところが練習問題になると、この技は単独では出てきません。aとbをかけるとある数になる、その組み合わせをすべて答えなさい、というように、最大公約数を求める作業は、より大きな問題の中に部品として埋め込まれます。

ここで何が起きるか。基本問題の段階でこの技が自動化されていない子は、練習問題を見た瞬間、二つの負荷を同時に処理することになります。一つは、初めて見る問題の構造を理解すること。もう一つは、その中に埋め込まれた基本技を、思い出しながら実行することです。

頭の良い子であっても、この二重の負荷は重いものです。結果として、問題の構造を理解する前に、部品の実行でつまずきます。そして「この問題は難しい」という結論にたどり着きます。実際に難しいのは問題の構造ではなく、部品のほうなのですが、子供にその区別はつきません。

これが、偏差値50台で頭打ちになる子に共通する構造です。偏差値60の壁というのは、実は壁ではありません。すでに踏んでいる足場のほうが崩れているだけの話です。

「A→B→C→D理論」という設計図

僕は生徒に、問題のランクをA、B、C、Dという順番で説明しています。Aが基本問題、Bが練習問題、Cが実践問題、Dがいわゆる難問、捨て問の候補です。

ルールは単純です。Bを解きたいならAを完璧にする。Cを解きたいならAとBを完璧にする。Dを解きたいならA、B、Cを完璧にする。これだけです。

Dつまり偏差値60を超えるための初見の難問に出会ったとき、子供の頭の中にある作業領域、いわゆる思考のメモリは限られています。A、B、Cの部品が自動化されていなければ、その実行に思考のメモリを消費してしまい、Dという未知の構造を分析するための余力が残りません。逆に、A、B、Cが完全に自動化されている子は、Dという未知の問題に思考のメモリをすべて投入できます。偏差値60を超えてから先、パターンの再現では戦えなくなる領域で、初めてここに差が出ます。

完璧の基準は「瞬殺」できるかどうか

ここまで読んで、うちの子はA問題なら解けると思った方は多いはずです。それは間違っていません。ただ、解けることと、完璧であることの間には、思っている以上の距離があります。

僕が言う完璧とは、正解できるという意味ではありません。問題を見た瞬間、考える前に手が動く状態のことです。最大公約数を求める手順であれば、数字を見た瞬間に解法の枠が頭に浮かび、何をすればいいかを考えずに書き始められる。そこまで来て、初めて完璧と言えます。

この距離を縮める方法は、地味なものしかありません。1日に数問、毎日。週末にまとめて50問やる方式とは、似ているようでまったく別物です。1回の授業で10分から15分、それを週に2回ほど積み重ねるだけで、基本処理の速度は数ヶ月単位で明確に変わります。

少し皮肉なことを言うと、この程度の量で済むという事実そのものが、多くの家庭にとっては受け入れがたいようです。偏差値を上げるには、もっと量の多い、もっと難しい問題集が必要だと考えてしまう。基本問題の反復という、地味で、子供が「もうできるのに」と飽きそうな作業を、毎日積み重ねられる家庭は驚くほど少ない。だからこそ、それを続けた家庭との差は、半年後にはっきりと現れます。

D問題を戦略的に見捨てるという判断

A→B→C→Dの理論には、もう一つの使い方があります。本番の試験で、D問題を解かないという判断を、後ろめたさなく下せるようになることです。

合格最低点を超えるために必要なのは、満点を取ることではありません。A、B、Cの問題を取り切ることです。多くの学校の入試は、A、B、Cの問題だけで合格最低点に届く設計になっています。Dの問題は、上位校においては差をつけるための部分であり、解けなくても不合格には直結しません。

ところが、偏差値50台で停滞している子ほど、試験中にDの問題に時間を吸われます。手強い問題ほど挑戦したくなる気持ちは理解できます。ただ、その時間でB、C問題を一問でも見直していれば、加点できたかもしれません。これは典型的な、原因が見えにくい失点です。

捨て問を見極める力は、知力ではなく戦略の問題であり、訓練すれば身につきます。そして、この判断ができるようになるための前提条件も、やはり同じです。A、B、Cが完璧であること。完璧でなければ、どれが捨て問でどれが取るべき問題なのか、子供自身に判断する基準すら存在しません。

明日から、宿題の順番を変えるという決断

ここまでの話を家庭で実行するための決断は、一つしかありません。新しい単元の練習問題に進む前に、その単元の基本問題が瞬殺できているかを、まず確認することです。

これは、塾から出される宿題の指示と、しばしば矛盾します。上位クラスの宿題は、反復と実践から始める前提で組まれているからです。その指示に忠実に従い、基本問題を一度も家庭で確認しないまま、練習問題と実践問題だけを積み重ねていく家庭は、毎年、塾にとって良質な養分になっています。本人も保護者も真面目で、宿題はきちんと終わらせる。それでも偏差値は50台で揺れ続けます。

塾の指示を無視せよ、とは言いません。基本問題のページを、宿題リストの最後ではなく最初に置き直すだけで十分です。そして、そのページが瞬殺できるようになるまで、次の単元の練習問題には進ませない。これは進度を遅らせる決断のように見えますが、実際には、二重の負荷で立ち止まる時間を丸ごと削除する決断です。

もっと難しい問題をやらせるべきではないか、という不安はよくわかります。ただ、その不安に従って練習問題を増やし続けた結果が、今の偏差値であることも、同時に認めてほしいところです。

どの単元の、どの基本問題が瞬殺できていないのかを洗い出し、A→B→C→Dの順番で学習計画を組み直したいという方は、マナリンクの僕のプロフィールから相談してください。現状の答案や宿題の進め方を見せていただければ、優先順位をつけることができます。基本問題に戻るという地味な決断ほど、家庭だけで踏み切るのは難しいものです。

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