[北米での社長の仕事 2] 労務管理
前社長から経営を引き継いだ日、最初に釘を刺されたのは売上の話でも営業戦略でもありませんでした。
「労務管理だけは今すぐ本気で見直してほしい」
それが引き継ぎの第一声でした。
日本で当たり前だったことがここではまったく通用しません。人事異動、評価、昇給、残業や休日出勤、採用と解雇、雇用契約、社員研修、そして労働安全衛生(Health and Safety)などです。
着任時は、会社の仕組みのほぼすべてが日本のやり方をほぼそのまま持ち込んだものだったり、あるはずのルールがなかったりなどの状況でした。日本から来た駐在員の管理職が現地の法律をあまり気にせず、日本式の労務管理をほぼそのまま運用していたのです。
現地社員たちも、それが法律に反していることをうすうす感じながら、「日系企業だから仕方ない」と黙って受け入れていたようなところがありました。それをみて少し申しわけない気持ちになったのを覚えています。
日本から来る駐在員管理職には、おそらく任期があります。そしてほとんどの場合、その任期中の目的は「短い期間内に会社の業績を上げること」に置かれているでしょう。しかし労務管理は、社員と会社が直接向き合ういちばん大事な場です。
私の考えはシンプルでした。社員にはいつもこのように伝えていました。
「I want you to be happy first. That's how we make our customers happy.」
「社員が満足していなければ、お客さんを満足させることはできない」
幸い私には任期が決まっておらず、こういうところから先に着手できる余裕がありました。だからまず社員を守ることから始めようと決めたのです。これが結果的に会社を成功に導きました。
最初に、現地の労働基準法(Employment Standards)を一から読み込みました。現地人の専門の弁護士を私のコンサルタントにつけ、HR(人事部)マネージャーを新たに採用し、自分自身もかなりの時間を勉強に費やしました。そしてHRマネージャと協力して就業規則(Employee Handbook)は全面的に書き直し、評価制度から休暇の扱いまで、すべてを現地の法律に基づいて定め直しました。
そしてこれは決めて終わりではなく、HR担当者と一緒に、社員一人ひとりに直接説明する場を設け、その後も継続的に改善を続け運用しました。さらに、社員とのコミュニケーションもかなり頻繁に取るよう心がけていました(これについては別記事で紹介します)。
「カナダの会社なら当たり前」のことを一つひとつ実現していく。たったそれだけのことで社員の反応は明確でした。社員数60名ほどの小さな会社でしたが、2016年から2017年にかけては退職者はゼロとなり、社員満足度調査では全員が「2年後もこの会社にいる」と答えてくれるまでになりました。
このとき学んだのはシンプルな一つのことです。
「日本のやり方を無理に海外に持ち込んではいけない。現地では、現地の法律と現地のやり方に従う」
当たり前のようですが、これができていない日系企業は実は少なくありません。もちろん日本のやり方が優れていることもたくさんあります。ただしそれは現地の法律や慣習を侵さない程度にしておかなければいけないでしょう。
次回は、この労務管理の中でも特に難しかった「採用と解雇の裏側」についてお話しします。
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