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古典

『沙石集』「耳売りたる事」の現代語訳('23東京大学 文科・理科 出題)

2023/10/20

極力意訳を排除し、原文に忠実に現代語訳を行っています。

いわゆる文学的な読み方ではなく、語学的な読み方ですので、書いてあるままを解釈しており、現代語の文体との乖離があります。主語や他の成分もほとんど補っていません。

(無理に補わなくとも正しく読むことができれば、誤った解釈にはならないことに気づいてもらいたいと思っています。)

再現性の高い訳出であるため、現代語訳の対策、もしくは文法の確認目的でお役立ていただけると思います。


現代語訳

奈良に(の)、ある寺の僧侶は、耳たぶが厚いので、ある貧乏な僧侶がいて、「お与えください。あなたの耳を買おう」と言う(※1)。「はやくお買いください」と言う。「どの程度でお買いになるのだろうか」と言う。「五百文で買おう」と言う。「それならば」と言って、銭を取り出して売った。その後、(京都へ)上京して、占い師のもとに、耳を売った僧侶と一緒に行く。占って言うことには、「持って生まれた幸運はお有りでない」と言うときに、耳を買った僧侶が言うことには、「あの方の耳を、その代金はこのような額で買っております」と言う。「それではお耳によって、来年の春のころから、持って生まれたご幸運が成就して、ご安心でしょう」と占う。そして、耳を売った僧侶を、「耳だけは幸運の相がお有りだが、その他は見つけることはできない」と言う。あの僧侶(※2)は、その時まで暮らしむきがよくない人である。「このように耳を売ることがあるので、きっと貧窮を売ることもあるに違いない」と思い、奈良を出立して、東の方に住みました人は(が)、学生で、説法などをする僧侶である。

ある上人が言うことには、「老僧(私)を仏事に呼ぶことがある。自分は年老いて道のりが遠い。私に変わって、お向かいなさいよ。ただし、三日かかる道中である。想像すると、お布施は十五貫文に過ぎないに違いない(十五貫文と同等に違いない)。またここから一日の道中である所に、ある神主で徳がある人が、七日間逆修(生前に死後のために祈る修行)をすることがある。これも私を呼ぶが、行こうとは思わない。これは、一日に最低だと五貫、よくすると十貫ずつはするだろう。あなたはどちらにいらっしゃるのだろうか」と言う。あの僧侶は、「おっしゃるまでもない。遠路を凌いで、十五貫文などを取りますようなことより、一日の道中を行って七十貫を取りましょう」と言う。「それならば」と言って、もう一箇所には別の人に行かせる。神主のもとへはこの僧侶が行った。

既に海を渡って、その場所に到着した。神主は八十歳に及んで、病床に伏している。子供が申し上げたことには、「老体の上、病気が長く、無事はあてにしにくいですが、もしかしたらと、まず祈祷に真読の大般若(『大般若経』六百巻を省略せずに読誦すること)があって欲しいです」と申し上げる。「また、逆修は、どのようにも気配りし申し上げまして、そのまま引き継ぎ申し上げましょう」と言う。この僧侶が思うことには、「まずは大般若のお布施を取ろう。また逆修のお布施は手に入ったも同然だ」と思って、「簡単なことでこざいます。参上したからには(「ほどにて」を「時で」と訳しても良い)、ご命令に従うつもりだ。どれも会得している事である。特に祈祷は私の宗派の秘法である。必ず霊験があるに違いない」と言う。

「それでは、酒はお飲みになるか」と申し上げる。だいたいは良い上戸(酒呑み)であるが、「酒を愛すると言うのは、信仰が薄いだろう」と思って、「いかにも尊そうな様子であるだろう」と思って、「一滴も飲まない」と言う。「そうであるならば」と言って、あたたかい餅を勧めた。よって、大般若経の啓白(仏に申し上げること)をして、あの餅を食べさせて、「これは大般若の仏法の妙味、不死の薬でございます」と言って、病人に与えた。病人は尊く思って、横になりながら合掌して、三宝諸天(神々と仏・法・僧侶のこと)のお恵みと信じて、一口で食べたので(時に)、毎日食事を取っていなかったため、疲れた気分で、食べ損じて、むせた。女房や子供が抱き抱えて、あれこれしたが、どうにかできず、息絶えたので、かえってあれこれ申し上げるばかりのことはなく、「追善供養の時は、案内(供養をどのように行うかといった内容)を申し上げよう」と言って返した。

帰り道で、風や波が荒く、大波を凌いで、ようやく命が助かり、衣装以外を損失する。またもう一箇所の法要の運営は、布施がとにかく巨額であった。これも、耳の福を売った霊験かと思わずにはいられなかった(★)。全てのことが上手くいかない上、心も卑しくなった。


※1 原文「南都、ある寺の僧、耳のびく厚き、ある貧なる僧ありて、『たべ。御坊の耳買はん』云ふ。」となっているため、「云ふ」の格支配が現代語と大きく異なり、非常に訳出しづらい。「を」を接続助詞で解釈するとしても、「南都に」のニ格(デ格)が落ち着かない。強引に解釈するならば、「ある貧乏な僧侶がいて、ある寺の僧侶の耳たぶが厚いことを(ことに対して)、『たべ。御坊の耳買はん』と南都で発言する。」のような形になる。


※2 原文「かの僧」が耳を売った僧なのか耳を買った僧なのかは、次の具体的なエピソードが不運であること、もしくは(★)まで読まなくては判断に難しい。

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