【数学】 途中式を書くことが最短のルート!あなたの途中式は「美しい」か?
2025/7/16
長いこと数学を教えていると、「答えが合っていれば式なんか書く必要はない」、「頭の中で計算できるから途中式はいらない」、「式を書くのが面倒くさい(多分これがメインの理由)」と感じて、なかなか途中式を書こうとしない人に出くわすことがよくあります。ですが、途中式を書く習慣は、中学・高校の数学力を本当の意味で高めるうえで欠かせないものです。
では、なぜ途中式を丁寧に書くことが大切なのでしょうか。この記事ではその理由と効果についてご紹介していきたいと思います。
【1、思考の流れを可視化できる】
数学の問題は、最終的な答えを出すだけでなく「どのようにしてその答えにたどり着いたか」を示すことが非常に大切です。途中式を書くことで、自分の思考の流れを客観的に確認できるようになります。
また、自分の思考のプロセスを可視化すると、以下のような利点があります。
・見直しをする際に思考過程を追えるので、確認がしやすい
・上下を見比べることで間違いの原因を特定しやすい
・途中で悩んだ場合でも、そこまでの思考プロセスをストックできる
(自分の頭の中に記憶しておく必要がない[メモとしての効果])
途中式を省略することは、目印をつけずに森や洞窟の奥に入っていくことに似ています。入っていく時には良いのですが、いざ戻ろうとした時に目印がなく、道に迷ってしまう。同様に、計算の見直しをする際にも、自分がどこで間違えたのか分からなくなったり、原因を特定するのに余計な労力と時間を使ってしまうことになります。
【2、自分の力を過信してはいけない】
「多くのことを同時に頭の中で苦も無く処理できる」、という人は実はそれほど多くありません。多くの人は、一度に大量の情報が入ってくると、戸惑ったり、忘れてしまったり、いつよりも持っている能力を低下させてしまいます。
たくさんの仕事がある場合、皆さんならどうしますか?そうですね、とりあえずこれまでに片付いた仕事は横において置いたり、メモを取ったりすることで、次の作業に移ることが楽な状態を作るろうとするはずです。難しいことや、大変なことは分割して少しずつ取り組んだ方が、はるかに作業がはかどります。
ですから、頭の中で複雑な暗算に苦労するくらいであれば、とりあえず書き出してしまって、それを見ながら計算しましょう。「途中式を書くと時間がかかる」という人がいますが、それはむしろ逆です。一部の例外的に計算が得意な人を除けば、難しい問題ほど途中式を書いて計算した方が速く、正確に終わります。
【3、しばらく後になっても「見直し」や「復習」がしやすい】
テスト勉強や入試対策では、「自分が以前解いた問題を見返すこと」はとても大切です。ところが、途中式が書いていないと、自分がどういう間違いをおかしたのかの確認がしにくかったり、時間がかかったりします。上記「1」で書いたことと重なりますが、途中式がしっかり残っていれば、過去の自分の考え方をたどることができます。
以前ご紹介した記事にも書きましたが、見直しをすることを前提に学習することを考えるのであれば、ノートはルーズリーフやレポート用紙などではなく、しっかりした「ノート」を使うべきです。また、式はせせこましく小さな字で書くのではなく、大きく、広く使って書くべきです。分数式などは分母に1行、分子に1行つかって2行使いで書きましょう。「ノートがもったいない」という発想は持たない方が良いです。ノートは、皆さんの学力を向上させるためにあります。学力向上を妨げるようなノートの使い方はむしろ害悪です。
【4、テストなどで途中点が入る(得点力が上がる)】
学校の定期考査のほか、高校入試や大学入試などでも、数学では部分点が認められるケースが多くあります。中学入試ですら、近年では途中の考え方を示させる学校などが増えてきています。最終的な解答を導くことができなかったとしても、途中式が適切に書かれていれば、部分点をもらえる可能性があります。
ですが、こうした途中点をもらうには、「ただ書いてあればよい」というわけではありません。そこに書かれている式などが、単なるメモではなく、最終的な解答を導くための思考過程だということが採点者に伝わらなければいけません。ところが、こうした思考過程を伝えることができる「適切な」途中式の書き方は、普段から訓練を積んでいない人にはできません。国語において、文章力がメッセージを伝える重要な手段であるのと同様に、数学においては数式を適切に示すことは、採点者に自分のメッセージを伝える重要な手段なのです。
もし、適切な形で途中式が書けなければ、どんなに頭の中で「わかって」いても、採点者にはそれが伝わらず、点数にもなりません。場合によっては、一度書いたイケてない式を消して、まともな式に書き直さなければならないなど、タイムロスにつながることもあるかもしれません。
【5、段階を踏んで思考を高めることが可能に(高度な問題に対処できる)】
数学や高校の数学では、ひとつの問題の中に複数のステップが用意されている問題が徐々に増えていきます。早い段階では連立方程式などではっきりとそれが出てきますし、その後、二次関数や二次方程式に入るころになると、いくつかのステップを踏むことなしに正解にたどり着くことはできません。
こうした複数の段階を踏む必要がある複雑な問題は、頭の中だけで処理しようと思っても、途中で抱えきれなくなって頭がオーバーヒートしてしまいます。これは、単に「解けない」というだけではなく、無駄な力を使いすぎることによって頭の疲労が蓄積し、結果的に問題を解くモチベーションを奪ってしまうことになります。また、途中式を書かずに「頭の中で処理」するクセがある人ほど、高度な問題でつまずきやすくなる傾向があります。
頭の中で処理したいのであれば、それこそ九九と同じくらいのレベルで頭の中で処理できなければいけません。それだけの力が備わっていないのに途中式を書かずに頭の中でだけ処理することは、「疲れるし」、「間違えるし」で、百害あって一利なしです。
【最後に:「急がば回れ」、途中式を書くことがゴールへの最短の道】
一見スマートに見える「暗算で解くスタイル」は、学習の初期段階ではむしろ遠回りになっていることも少なくありません。人間は、自分で思っているほどには優れた処理能力を駆使できていないのです。大事なのは、確実に理解を積み重ね、論理的に考える習慣をつけること。そのためには、途中式を書くことが最も効果的な方法です。
途中式を書くことは、単に「言われているからやらなければいけないこと」ではありません。「自分の考えを整理し、論理的に伝える力」を養う訓練であり、数学の思考力を育てる基盤となるものです。数学の成績が良い人を見ると、途中式が「美しい」人が少なくありませんが、これは彼らが「考え方を積み上げていくプロセス」を丁寧に理解しているからです。
ぜひ、数学の力をつける最短のルートをたどってほしいと思います。
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