脳みそはスタミナだ——試験50分で全問「考えて」いたら、解けるはずの問題まで落とす
中学受験の算数で、こんな子がいる。
模試では偏差値50前後。計算は丁寧。ノートもきれい。授業中に手を挙げて答えようとする。「考える力がある子」と先生には言われている。なのに、本番の試験で点が取れない。
原因は、考えていることそのものにある。
試験中の「脳みそ」は有限である
50分の試験で、算数の問題は30問前後出る。
その30問を、最初の1問目から最後の1問まで「うーん、どうやって解くんだっけ」と考え続けたとしよう。前半の簡単な問題にも、後半の難問と同じ密度の思考を注いでいく。
どうなるか。
後半、本当に「考える必要がある問題」に差し掛かった時点で、脳みそがクタクタになっている。スタミナが切れた状態で難問に臨む。当然、解けない。
これは頭が悪いのではない。燃料の配分を間違えているだけだ。
「考えてはいけない問題」が存在する
試験問題には、大きく2種類がある。
ひとつは、考える問題。複数の条件を組み合わせて、筋道を立てて解かなければならない問題。思考力と発想力が問われる。
もうひとつは、考えてはいけない問題。暗記と手順で機械的に解ける問題。「この形が来たら、この手順を踏む」という反射で処理できるもの。
大半の中学の試験で、後者は全体の40点〜50点分を占めている。
この「考えてはいけない問題」で考え始めた瞬間、その子は試験に負けている。その問題を解けるかどうか以前に、後半の難問に使うべき脳みそを前半の簡単な問題に消費しているからだ。
偏差値50台が詰まる本当の理由
偏差値50台で停滞している子に、問題を解かせてみると分かることがある。
解けない問題があるのは当然として、解けているはずの問題で妙に時間がかかっている。「これはもう知ってる問題のはずなのに、なぜ考えているんだろう」という場面が頻繁に起きる。
原因は単純で、「知っている」と「反射できる」は別物だからだ。
授業で習った。理解もした。でも手順が体に入っていない。だから毎回「えーと、これってどうやるんだっけ」と考え直している。それが試験中の脳みそのムダ遣いになっている。
偏差値60を超えている子との差は、才能でも発想力でもない。「考えなくていい問題を、考えずに処理できる問題の数」の差だ。
「手踏み始め」を見せた理由
僕が授業で使う独自の計算表に「手踏み」「手踏み始め」というものがある。水量変化の問題に特化した表で、数値を当てはめれば答えが機械的に出てくるように設計されている。
生徒に見せると、最初は怪訝な顔をする。「こんな表が必要なの?」という反応だ。
必要なのだ。
この表の目的は、「考えなくていい状態を作る」ことにある。水量変化の問題が来たら、表を開いて数値を埋める。それだけで答えが出る。考える余地がない。
一見、思考力を育てていないように見える。でも逆だ。
水量変化の問題で脳みそを使わなくていい状態にすることで、より複雑な条件が絡む問題、本当に発想力が必要な問題に集中できる。武器を持たせることが、戦略的な脳みその使い方を可能にする。
授業中に生徒に言ったことがある。「ひト君は考えなくていい。表が考えてくれるから」と。
これは冗談ではない。真剣にそう思っている。
反射になるまでやり込む、という基準
では、「考えなくていい問題を考えずに処理できる」状態はどうやって作るか。
答えは単純で、見た瞬間に解き方が頭に浮かぶまでやり込むことだ。
宿題の量ではない。宿題の完成度の話だ。
1問を10秒で解けるようになるまで繰り返す。そのレベルになって初めて「反射できる」状態になる。1分かかるようなら、まだ「考えている」状態だ。試験で同じ時間がかかる。
「でもそれって量をこなさないとできないんじゃないですか」と言う人がいる。
違う。少ない問題を完璧にやり込む方が、たくさんの問題を雑にこなすより圧倒的に効果がある。10問を反射レベルにする方が、50問を「まあ分かる」レベルにするより試験で点が出る。
明日から親がすべき「非情な確認」
お子さんが宿題をやっています。問題を解いています。「今日もちゃんとやった」とノートを見せてくれます。
そこで一つだけ確認してほしいことがある。
その問題を、もう一度同じ問題を解かせてみてください。制限時間は1問30秒。
解けますか?すらすら手が動きますか?
手が止まるようなら、それはまだ「分かった」段階で止まっている。「できる」にはなっていない。試験では「できる」しか点にならない。
算数の勉強は、「分かった」の積み上げではなく、「できる」の積み上げだ。この区別がついている家庭と、ついていない家庭では、同じ時間勉強しても1年後の偏差値に10以上の差がつく。
良質な勉強量を積んでいる気がするのに成績が上がらないのは、ほぼこれが原因だ。
脳みそはスタミナだ。使い切ったら終わり。試験で勝つのは、正しい場所に正しい量の脳みそを使える子だ。考えなくていい問題を考えないための準備を、今日から始めてほしい。
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