線分図が書けない原因は「ひらめき待ち」
線分図が書けない子の多くは、実は描き方を知らないわけではありません。問題文を読んだ瞬間に解法がひらめくのを待ってしまい、その「待ち時間」がそのまま手の止まる時間になっているだけです。偏差値40から50台で停滞しているご家庭ほど、この「待ち」を本人の集中力や才能の問題だと誤解しています。
「線分図が書けない」は技術ではなく順序の間違い
線分図というのは、本来、思考の結果ではありません。思考のための道具です。ところが多くの子は、この順番を逆に覚えています。問題文を読む、頭の中で状況を組み立てる、解法らしきものがぼんやり見えてくる、それをようやく線分図という形に翻訳する。この順序だと、2番目のステップでつまずいた瞬間にすべてが止まります。図を描く以前に、解法そのものが見えていないからです。
全国の入試問題、特に旅人算や流水算、相当算といった単元では、文章を読んだ瞬間に図へ変換できるかどうかで、解答までの時間に圧倒的な差がつきます。偏差値60を境に問われる問題の質が変わるのは、まさにこのあたりからです。60未満の問題には、典型パターンを覚えていれば図がなくても処理できるものが多く含まれます。ところが60を超えると、初見の設定や複数の条件が絡む文章題が増え、頭の中だけで処理しようとすると必ずどこかで矛盾が生じます。線分図を描く習慣がない子がこのラインに近づくと、それまで通用していた「考えれば何とかなる」が、突然通用しなくなるのです。
ここで多くの保護者が陥るのが、もっと難しい問題を解かせれば慣れるだろうという発想です。残念ながら、これは逆効果です。図を描く習慣がないまま難度を上げると、混乱する材料が増えるだけで、思考はむしろ固まります。必要なのは難度ではなく、図を描くという動作そのものを、思考の入口に固定し直す作業です。
考える前に手を動かす、というドーピング
僕が生徒に伝えているのは、極端に言えば「考えるのをやめなさい」ということです。問題文を読み終えたら、まず線分図でも表でも、その単元で使う型をとにかく紙に書く。これが線分図だと判断してから描くのではなく、判断する前に描いてしまう。
問題文を読み終えたら、設定に応じた図の型をまず描く
分かっている数値は、考える前にすべて図の上に書き込む
図の中で空欄になった部分が、求めるべき答えになる
例えば、AとBが同時に出発して向かい合って進む、という設定が出てきたら、向かい合う矢印の線分図を反射的に描きます。距離が2000m、Aの速さが分速60m、Bの速さが分速40mと分かっているなら、その数字をとにかく図の上に書き込む。この時点で、何を求めればいいかまだ分かっていなくても構いません。
書きながら気づくのは、図の中に空欄が一つだけ残ることです。その空欄こそが、求めるべき値であり、解法そのものです。今回の場合なら、2人が近づく速さは2人の速さの合計ですから、2000 ÷ (60 + 40) = 20。20分後に出会う、という答えが図の埋まり方からそのまま出てきます。線分図をずっと書いていると、解き方は大体固まってきます。書きながら固めていく、というのが正確な表現です。考えてから描くのではなく、描きながら考える。この順番を逆転させるだけで、フリーズしていた手が動き出します。
消しゴムを封印すると、思考が前に進む
もう一つ、線分図が書けない子に共通するのが、図を綺麗に整えようとする癖です。定規を使って線をまっすぐに引き、間違えたら消しゴムで消して書き直す。一見、丁寧で良い習慣に見えますが、これは思考の流れを物理的に止める行為です。
間違えた図は、消さずにそのまま残してください。新しい図は、その隣にもう一度描けばいいだけです。消す手間と時間は、思考が中断するコストとしてそのまま差し引かれます。さらに、間違えた図を残しておくことで、何が違っていたのかを後から見返すことができ、次に同じ単元が出てきたときの引き出しが増えます。綺麗なノートは見栄えはいいですが、思考の記録としてはほとんど機能していません。
明日からの非情な決断
線分図が書けないことを、ひらめきの問題だと考えている限り、状況は変わりません。ひらめきを待つ子は、待っている間ずっと手が止まっています。そして手が止まっている時間は、テストでは0点として記録されます。
今日から、お子さんが文章題の前で固まったら、こう言ってあげてください。考える前に、まず描いて。それだけです。綺麗に描けなくても構いません。消さなくても構いません。図が完成した時には、答えはすでに半分以上見えているはずです。
ノートが汚れることを嫌がるなら、それは図が機能している証拠だと思ってください。
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