基本的な考え方から解法を考える【2020京大 理系数学 問1】
2020/3/2
今回は,私の指導の肝である「基本的な考え方」を使って実際に問題を解いていく過程を紹介します.
今回はせっかくなので最新の入試問題から,2020年京都大学理系数学の問1を解説します.多くの予備校は今年の京大数学の内容を難化したと評価していました.確かに,多くの受験生にとっては難しかったかもしれません.しかし,解法のパターンではなく,基本的な考え方に基づいて問題に取り組めば,今年の問題もこれまでの問題と変わらない難易度で解くことができます.
それでは実際に見ていきましょう.
問題
a,bを実数とする.方程式z^3+3az^2+bz+1=0の3つの解が複素平面上で1辺√3aの正三角形をなすとき,a,bの値と3つの解を求めよ.
京大らしいシンプルな問題です.多くの予備校はこの問題を,複素数が正三角形をなすという複雑な設定でもきちんと処理できるかを見る問題と評価しています.しかしながら,京大の題意は少し違うだろうと私は思います.
この問題を解く際に用いる考え方は,「問題の仮定に注目する」と「問題を単純化して考える」この2つです.
以下では複素数zの共役複素数をz*で表すことにします.
まず,a,bが実数であるという仮定に注目します.こういった仮定は間違いなく問題を解く際に必須となる条件です.そのため,どうすればその仮定を使えるのかをまずは考えます.この問題の場合には,f(z)= z^3+3az^2+bz+1とすると,a,bが実数であることから,
(f(z))*=f(z*)が成り立ちます.特にf(α)=0ならf(α*)=0です.
そのため,ある複素数が解になれば,その共役も解になります.さらに,3つの解は正三角形をなすため,すべてが実数ということはあり得ません.したがって,3つの解は,実数解α,複素数解β, β*となります.
多くの予備校の解答ではこれは当たり前のように処理していますが,この問題の重要な点はむしろこちらだと思います.
さて,ここで状況を整理してみましょう.1つの解は実数なので,1つの頂点は実軸上にあります.図示すると添付した1つ目の写真のようになります.
さてここで,「問題を単純化して考える」という考え方を使います.すなわち,この問題の状況が簡単にならないか,簡単な状況だったら解けないかということを考えます.
では,三角形の重心が原点だったケースを考えてみましょう.写真のように2つの可能性がありますが,このような点を解とする方程式はお馴染みではないでしょうか.
そうです.z^3=±1という方程式の解です.写真のように各頂点の座標は1の三乗根ωと正三角形の外接円の半径を用いて簡単に書けます.
つまり,三角形の重心を平行移動して,z^3=±1に持ち込んでしまえば良いということになります.では三角形の重心や外接円の半径を求めましょう.まず,外接円の半径は正三角形の一辺が√3aであることを使えば幾何的に簡単に分かります.計算すると円の半径はaとなります.重心の座標は1/3(α+β+β*)ですが,これは解と係数の関係を用いれば,-aと計算できます.そうすると実は随分綺麗な設定になっていて,三角形をaだけ平行移動すれば,f(z)はz^3±1という式と一致します.あとは係数比較をすれば簡単に計算できます.詳細は解答例を添付しましたのでそちらをご覧ください.
さて,この問題はからくりが分かってしまえば,かなり綺麗でシンプルな問題になっていたことが分かります.つまり,複雑な状況をきちんと計算する能力なんて見ておらず,問題の見掛けに騙されずに,シンプルな状況の問題と同じだと気付けるかを見ています.(個人的には非常に京大らしい問題だと思います.)
医学部など一部の例外を除き,難関国立大学の数学の入試問題は,このように問題に対する捉え方,考え方を見るような問題が多いです.見たことのないような問題に遭遇しても,このように考え方をベースに問題に取り組むことができれば,動揺せずにきちんと正解を導けるようになるでしょう.