東大英語を読もう(2023年) 1
2023/3/20
英語長文の読解方法について、ベテラン講師の視点から説明していこう。今日用いるのは東大の問題だ。東大は、我が国では一、二を争う最高峰だが、その英文には素直なものが多く、問題の出題のされ方も正統派で、決してひねくれたところはない。しかしながら、正確に読み解かない限り、真の理解には達するのが難しい、といった英文だ。これを解説していこうかと思う。なお著作権の問題もありそうなので、ここでは英文は記さない。下記リンクから問題文を入手されたし。受験生諸君、頑張って見られよ!
https://www.yomiuri.co.jp/nyushi/sokuho/k_mondaitokaitou/tokyo/mondai/img/tokyo_zenki_eigo_mon.pdf
では、私の解説を読みながら、令和5年の東大の英語の問題を見てみよう。大問1のIn the 2010sから始まる長文問題だ。まずは第1パラグラフだ。ここでは、「今昔構文」と「明瞭化の原則」を説明しつつ、読み進めよう。
[1]第1パラグラフ
・今昔構文
まず、私のいう「今昔構文」なるものを説明しよう。今昔構文とは、過去と現在とを対比するもので、「昔は~だったが、今は…だ」といったふうになることが多い。過去と現在の内容は逆接的であることが多く、書き手の視点は飽くまでも現在にある。例えば、
Usually, I drink tea at breakfast; today, I’ll have coffee.
こういった感じの文だ。「いままでずっと朝食には紅茶だったけど、今日はコーヒーを飲もうかと思うよ」といった意味だ。そして飽くまで話し手の視点は今日コーヒーを飲もうかと思っていることにある。だから、この後に続く文は「なぜ今日はコーヒーが欲しいのか」ということへの説明となる。
・明瞭化の原則
英文には、述べられて内容を明瞭化していこうとする傾向がある。例えば、皆さんもよく知っている不定詞の副詞用法だ。いくつもの用法があるが、そのイイタイコトはただ一つ、「明瞭化」だ。
He went to London to study English.
He grew up to be a great poet.
He was sad to hear the news of her death.
He must be crazy to go out in this stormy night.
用法名を言えば、上から順にそれぞれ「目的」「結果」「原因」「理由」となるが、どれもこれも結局は述べられている内容の明瞭化を表している。He went to Londonと言われても、いまひとつ情報不足で、聞き手は「だから?」「なんで?」と思ってしまう。そこで話し手は「英語を勉強するためだよ」と情報を捕捉することで、内容が明瞭になる。He grew upと言われても、やはり情報不足で「それで?」「だから?」と聞き手は思ってしまう。だから話し手は「それで偉大な詩人となったんだよ」と言えば、聞き手は「そうなんだ、それはすごいね」となって、情報不足が解消され、内容が明瞭化される。それ以降の例文も、He was sadやHe must be crazyと言われても、情報が足りず、何が言いたいのかがよくわからない。だから話し手は不定詞を用いて情報を追加することで、話の内容を明瞭化し、聞き手もそれでようやく落ち着くのだ。英文の流れは、情報不足を補うことによる内容の明瞭化にある、と言えそうだ。
先ほどの例文でも、today, I’ll have coffee.と言えば、聞き手は「なんで?」とでも思うかもしれないので、話し手は情報を追加して話の内容を明瞭化していくのだ。
Usually I drink tea; today I’ll have coffee. We’ve run out of tea now!
「ずっと紅茶だったけど、今日はコーヒーだよ。だって紅茶、切らしちゃったから」
こうなれば、話の内容は明瞭化されて、聞き手の疑念は解消されるだろう。ここで会話は一段落となるのだ。
以上、今昔構文と明瞭化という視点から考えれば、この第1パラグラフの内容もわかるだろう。冒頭にIn the 2010s,とあり、最後の文にはNowとあるので、ここで今昔構文が見いだされる。書き手の視点は飽くまでNow以降にある。we’ve started to worry about something new: too little timeだ。さて、読み手はいきなり「心配なのは時間が足りないことだ」と言われても、何の事やらピンと来ないだろう。そこで書き手は第2パラグラフで、時間不足への懸念について縷々説明することになる。これが明瞭化だ。つまり、第1パラグラフの趣旨としては、「いまや我々は時間不足について心配し始めているのだ」となって、詳しいことが知りたくなった読み手は第2パラグラフへと誘われるのだ。
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