「読む技法」を読む
伊藤氏貴著「読む技法」を読む
この本で説かれている「読む技法」は、大学入試の数学(特に難関校や記述式の問題)を解く上で非常に強力な武器になる。数学の問題を解くプロセスは「読解・立式・計算」に分かれることが多いですが、多くの受験生が苦労する「読解(問題文の意味を正しく捉える)」と「論理の組み立て」において、この本のの考え方が直結吸う部分がある。具体的な活用ポイントを整理してみると、
1. 「問題文の条件」を集合と命題として整理する数学の問題文は、一見すると日本語ですが、実際には「定義」と「制約条件」の塊である。伊藤氏が提唱する「一字一句を疎かにしない読解」は、数学における条件の漏れを防ぐ。「かつ」と「または」の峻別: 本書が教える接続詞への感度は、数学の集合論的な厳密さに直結する。「任意」と「ある」の読み分け: 「すべてのxについて(任意)」なのか「あるxが存在する(存在)」なのかという、日本語の微妙な語尾の差に気づく力が養われるだろう。
2. 「構造」を把握し、解法のアルゴリズムを選択する本書では文章の「骨組み」を見抜くことを重視する。これは数学でいう「典型解法へのパターンマッチング」の前段階に似ている。情報の階層化: 問題文の中で「何が既知(前提)で、何が未知(求めるもの)か」を整理する力は、本書が説く「文の主従関係の把握」そのものである。抽象化: 具体的な数値を記号として捉え直し、問題の核心にある構造を抜き出す作業は、文章からテーマや論理構成を抽出する訓練と共通している。
3. 「論理的に正しい答案」を記述する力大学入試の数学、特に二次試験(記述式)では、「答えが合っているか」だけでなく「論理に飛躍がないか」が採点対象になる。逆(converse)の確認: 文章読解で「AならばB」が「BならばA」を意味しないことを意識するように、答案作成においても「同値性」を意識した記述ができるようになる。因果関係の明示: 「よって」「ゆえに」「したがって」という接続詞を、本書のルールに従って正しく使い分けることで、採点官に伝わる(=減点されない)論理的な答案が書けるようになる。数学に活かすためのアドバイス数学が苦手な原因が「計算ミス」ではなく「問題文の意味がわからない」「何をすればいいか方針が立たない」という点にある場合、この本はまさに特効薬になりそうである。まずは、過去問などの「問題文」だけを読み、「この問題の前提条件(公理)は何で、最終的なゴールは何と言い換えられるか」を、本書の技法を使って日本語で要約してみるのも一考だと思う。
もちろん、この本で扱われる最初の文章がちょっと古いが共通一次試験で出題された村上陽一郎著「自己の解体と変革」で、最後に扱われるのは東大の2008年に出題された宇野邦一著「反歴史論」であることもあり、大学入試の国語にも関連しているので、余裕ある受験生(新高3年生など)に読んでみてもらいたい本である。
理想論ではあるが、私の講座ではこのようなことができるような授業を(なかなか簡単ではないが)進められればと思っている。
せっかく、勉強するのだから受験にしか通用しない付け焼き刃的なものに手を出して、受験以降に役に立たないものに、時間とお金をかけるよりも、その知識は受験でしか使えなくても、上に書いたことを身についていたら、大学に入ってからも、もちろんそれ以降も使える武器になると思う。マナリンクや予備校の講師も、いろいり紆余曲折があっても、このような武器を身に着けている人が多いと思う。気になったら、お試しでも授業を受けてみてほしい。