ちょっと変わった?辞書紹介
2025/8/24
こんにちは。優生です。
以前、以下のブログ記事にて、英語の語彙習得の基本的な文献紹介をさせて頂きました。
【英語】語彙習得の文献案内
https://manalink.jp/teacher/13892/blog/1626
上記の記事は主として高校生を対象として、辞書や単語帳の選び方、および勉強法のベーシックな部分を記したものです。
今回の記事は、「ちょっと変わった?辞書紹介」と題して、上述の記事では紹介しきれなかったユニークな辞書や、語彙習得のお役立ち情報を紹介しようと思います。
どちらかと言えば上級者向け、と言うより、語学に対する意欲の高い人向けです。
それではご覧ください。
① 物書堂アプリ
MacのパソコンやiPhone, iPadを持っているなら、物書堂のアプリが便利です(残念ながら、この記事を書いている時点ではWindows、アンドロイドの環境では動きません。決してデバイス購入の勧めではないことにご注意ください)。
コンテンツを一つずつ購入するタイプの電子辞書で、英語ではウィズダム、オーレックスなどのメジャーどころの辞書が入っているのは勿論のこと、研究社の『新英和大辞典』などの大辞典クラスの辞書や、『英語の数量表現辞典』などの風変わりな辞書、オックスフォードの学習者向け英英辞典など、かなり多彩な辞書が入っています。
特に大辞典は紙で買うとかさばるので、電子で買うメリットが大きいです。紙代が浮く分安く買えたりもします(例えば私が持っている小学館『ロベール仏和大辞典』の場合、物書堂で買うと5,900円ですが、紙で買うと何と30,800円(いずれも税込み)。英語の辞書の場合ここまでの差はないですが、ケチな人にはオススメです笑)。中辞典を紙で買って、大辞典を電子で買う、といった形で使い分けるのもアリ(過去のブログでも言っていますが、紙には紙の利点があるので)。
そして電子ならではの利点として、見出し語だけでなく、「成句」「用例」でも検索ができます。これが本当に便利で、「用例」検索で例えば “happily” と検索すると、“happily” の項目の例文だけでなく、他の項目(たとえば、“after”)の用例として載っている “They lived happily ever after.”「そして、その後幸せに暮らしましたとさ」(おとぎ話の終わりの決まり文句)がヒットしたりするのです。これは表現学習の上ではたいへん有用で、意欲的にインプットを求める学生には有効です。
用例検索では英語だけでなく日本語でも検索できる(例えば、「幸せ」と打てば、日本語訳に「幸せ」を含む例文が全てヒットする)ので、英和辞典を事実上の和英辞典としても使えます。これも、電子ならではのメリットと言えます。
② 大修館『和英表現辞典』(松井恵美、M・リン・レックライン 共著)
通常の和英辞典の場合、例えば「助ける」と引くと help, assist, save, rescue などの英単語がズラッと並んでいて、単語ごとの使い分けや、細々とした語法やニュアンスが分かりづらい、といったことはよくあります。
そのような悩みを解決するのが本書で、例えば「いたたまれない」と引くと、以下のような内容が書いてあります(以下の内容は本書の帯に記された [内容サンプル] にあるものです)。
【いたたまれない】
恥ずかしくていたたまれない思いだった。
I was so embarrassed that I felt like running away.
人々の視線を感じていたたまれなかった。
I couldn’t stand remaining there with all the people staring at me.
<注>いたたまれない理由として、ただきまりが悪くて(embarrassed)居心地が悪い(uncomfortable)こともあれば、実際に道徳的な間違いを犯し、恥じ入って(ashamed)いたたまれない場合もある。「恥ずかしい」の内容に注意。
このように、単語単位で日英語を対照させるのではなく、「表現」(つまり、文)単位で例が示されているので、日本語では同じ単語で表現される内容の訳し分けや、類義語(synonym)のニュアンスを学ぶことができるのです。
上記の例の
人々の視線を感じていたたまれなかった。
I couldn’t stand remaining there with all the people staring at me.
などは、「いたたまれない」に対応する形容詞が英語には含まれていないため、単語単位で日本語を英語に訳すやり方では一生思いつかない表現と言えます。
大学入試の和文英訳にせよ、実際の英会話にせよ、こうした部分が鍵になることは多々あるので、それを明示的に学べる本書は有用と言えます。
③ 創元社『英語のことわざ』(秋元弘介 著)
英語のことわざ(proverb)に焦点を当てた辞典。書店に行けばそれなりに種類があり、どれも良いのですが、由来や文法などの説明が豊富なのが本書。収録されていることわざの数は大したことがない(B6版168ページと聞けば分量の想像は付くはず)ですが、量を求めるだけならネットで調べれば済む話なので、「量より質」の観点で本書を推薦します。
ことわざは教養を培うだけでなく、単語帳で習うような英単語が含まれていたり、重要な文法事項が潜んでいたりする(e.g. “Out of the mouth comes evil.”「口は災いの元」:場所を表す副詞句を用いた倒置)ので、語学学習上も有用です。読み物としても使えるので、パラパラとめくり、面白い表現を見つけたらチェックして、覚えてしまうと良いでしょう。
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