[Professional Engineerの仕事 1 ] ルールブックの解読
ある機械メーカーのカナダ現地法人でProfessional Engineer(P.Eng.)の見習いとして働き始めた頃、最初にぶつかる壁は、製品の設計・製造・設置などに関する「膨大な量のルールブックを読むこと」です。業界の安全標準や各州の条例などの原文を読み込み、その一文一文が何を意図しているのかを正確に汲み取ります。これが日々の仕事の出発点です。
これらの条文は法律の文章のようで、使われている単語や用語が難解で一文も長いものが多いです。そして単語ひとつの解釈で意味が大きく変わることがあります。だからこの段階では、先輩エンジニアに「この段落、どう読みます?」と聞いて回ることが欠かせません。専門家や政府の審査官から教わることも多く、現場で少しずつルールの読み方を身につけていきます。
ただ、ここで気づいたことがあります。先輩エンジニアや審査官も、実は解釈を間違えていることがあるのです。私は大学受験の頃から英語の文法や語彙の勉強を積み重ねてきましたし、社会人になってからも継続的に英語の勉強を続けてきました。そのおかげで、原文を文法的・用語的に読み解くことにはそれなりの自信がありました。そして実際、私の読み方が先輩たちの解釈と食い違うことがよくありました。
こうした議論は、正直なところとても刺激的です。私にあるのは英文解釈への自信だけで、現場の経験値では先輩や審査官に到底かないません。そんな相手に「その解釈、間違っていませんか?」と切り出すのは、正直かなり勇気がいります。相手は自分よりずっと長くこの業界を見てきた人だからです。
それでも、助動詞の使い方ひとつ、前置詞ひとつを根拠に自分の読み方を伝え、それが最終的に「たしかにそうだ」と認められた瞬間の充実感は何ものにも代えがたいものがあります。受験勉強や独学で英語を積み重ねてきた時間が、実務の場で誰かの判断を動かします。「勉強していてよかった」と心から思える瞬間です。
もちろん、逆に自分の解釈が間違っていたとわかることもあります。でもそれは、自分にとっては新しい発見以外の何物でもありません。なぜ自分の理解が誤っていたのか、正しい解釈の背景にはどんな業界の慣習や意図があるのかをきちんと理解し、次の仕事につなげていくのです。そうやって一つひとつの議論が、自分の血肉になっていく感覚があります。
議論をしても決着がつかないときは、第三者に意見を求めたり、ルールを策定している委員会に公式な文書で質問を送ったりします。曖昧なまま進めるわけにはいかない世界だからこそ、こうした地道な確認作業の積み重ねが、後の仕事の質を左右していくのだと思います。
次回は「計算書の作成と維持」について書く予定です。
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