#82 伊東先生の英文解釈教室④(前半)
2022/5/5
今回もなかなか骨のある英文で、使われている単語は難しくないけど、英文の構造を正しく見抜き、それを自然な日本語に訳し、しかも内容もしっかりと理解するのは結構大変だ。こういう英文を頭を捻って読み解くことこそが、僕たち日本人が英語を学ぶ醍醐味なんじゃないかと思う。「英語は単語だ」ということを言う人は今も昔もいるんだけど、それが如何に浅はかな考えかというのは、こういう本格的な英文に取り組めば嫌でも分かる。
さてでは➀から。SVの確定が英文解釈の最重要項目だというのは僕がいつも言っている通り。かと言って、Sを読み終わらないうちに焦ってVを探そうとする人もいるし、そういう教え方をする先生もいるんだけど、まあ一時期だけ使う方便としてはありでも、やっぱり最後まで、つまり入試本番までそうしたやり方で行くのは邪道だな。焦らなくてもどうせVはどこかに必ず出てくるんだから、落ち着いてSにまずは集中すればいい。
One ofで始まっているので、三人称単数のOneがS。もちろんof以下をひっくるめてSと考えてもいい。
ofは「部分のof」と言われるもの。ofの後ろには特定化された複数名詞が来るはず。
the most basic spiritual principlesのmostは、形容詞basicを最上級にするために使われている。spiritualは「精神的な」という意味の形容詞。後ろのprinciplesを修飾している。ここは、basicの最上級であるmost basicという形容詞と、spiritualという形容詞がダブルで名詞のprinciplesを修飾していることになる。
ここのphilosophiesを「哲学」と訳した人はいないだろうか?そもそも学問としてのphilosophyは数えられないはずだから複数形になっているのはおかしい、と考えられた人はかなりの英語センスの持ち主だ。そう考えて辞書を引くと、
これは「ウィズダム英和辞典」の説明だけど、4つの語義を1つずつ当てはめていくのはうまいやり方とは言えない。今の僕たちが調べたいのは「philosophyの可算名詞の場合の意味」だよね。よく見ると、語義番号のすぐ後ろにUとかCという記号が書いてある。これは何かと言うと、
C=可算名詞(Countable)
U=不可算名詞(Uncountable)
このように、辞書では名詞が「可算名詞」と「不可算名詞」のどっちであるかを記号で示している。同じ名詞でも意味によって可算・不可算が違う時は、各語義番号の後ろで1つ1つ丁寧に示している。
「ウィズダム英和辞典」だと、語義番号1はUなので違う。ちなみにこれが学問としての「哲学」だね。
2と3はCなので、このどちらかが僕たちの求める意味のはず。
4はUなので無視してOK。
というわけで、本文の複数形philosophiesは「生き方・信条」と「一般理論・哲学体系」のうちのどちらかということまでは分かったことになる。もちろんまだ本文を読み始めたばかりだから、この時点でどっちなのかを決めることはできない。もう少し先を読んでから決めることにしよう。
isを見た瞬間に、僕たちは「あっ、One (of ~)のSに対応するVが出てきた」と思えればOK。
the idea ofと続いているので、この瞬間に➀全体は「第2文型」と確定する。第2文型と分かること自体に意味があるのではなくて、「S=C」という知識を本文に応用できることが重要なんだ。SのOne ~ philosophies「多くのphilosophyにおける一番基本的な精神的原則のうちの1つ」の詳しい説明がisの後ろで展開されていくと考えつつ先を読んでいく。
the idea ofのofは「同格」を表す。つまりideaの中身がof以下に書かれている。
opening your heart to “what is”とあるけど、このwhat isが➀で一番難しいと思う。この意味を正しく取れた人は相当の英語力の持ち主だと言える。まずはwhat isは前置詞toの後ろにあるので名詞的な表現と考えることから始めよう。分かり易く「名詞的な表現」と言ったけど、専門的に言えば「名詞」「名詞句」「名詞節」のどれかということになる。isはVなので、そうするとwhatはSと考えていいことになる。そうすると、what is全体で「名詞節」ということになるよね。このwhat isがすごい(?)のは、ふつうならあるはずのCが無いという点だ。つまり、このbe動詞は、補語無しで使われている「第1文型」の動詞ということになる。もちろんWhat is in the box?「箱の中には何があるの?」を第1文型と分析することはできるけど、ふつうそうした存在を表すbe動詞は後ろに場所を示す副詞的な表現を伴う。でも本文のwhat isの後ろには場所を表す副詞表現も無い。
そこで辞書を引いてみよう。be動詞を辞書で調べるなんて普段はまずないと思うけど、果たして後ろにCも場所の副詞表現も来ていないbe動詞の意味を正しく調べられるだろうか?
青枠の中がbeの動詞用法の説明箇所
動詞用法のbeに細かい字で2ページの説明が充てられている。探すのが大変そうだけど、この辞書では、こうした多義的な基本語については最初に「語義の目次」と言えるものが用意されていて、これを上手く使うことでお目当ての語義番号を素早く検索することができる。
まずは
SVC
SV+
SV
という3つの大きな区分がある。この「+」記号は副詞などの修飾語的要素を表す。僕は使わないけど修飾語を表すMの記号と同じ意味だと思ってほしい。
僕たちの探しているwhat isのisは、Cも副詞表現も後ろに無いんだったね。だからこの3つのうちではSVの使い方をされているbe動詞ということになる。SVの右に「自3存在する」と書かれている。つまり、SVにおけるbe動詞は「自動詞」であり、語義番号3で説明されていて、代表的な日本語訳は「存在する」であることが示されているんだ。
この「語義の目次」のおかげで、僕たちは語義番号1と2をいちいち見るという面倒なことをせずに、すぐにお目当ての語義番号3に飛ぶことができる。
本文のwhat isと同じように、ここに挙げられている4つの例文のbe動詞も、後ろにCや副詞表現は来ていない。これで確信を持って、what isのisは「存在する」という意味で訳すことができるわけだ。
それにしても、God is.なんて本当に面白い英語だと思わない?高校生の時だったかな、僕はこのGod is.という一見不完全な英文が「神は存在する」という意味を表していることに感銘のようなものを受けたことを今でも覚えている。
次のデカルトの文とシェイクスピアの作品のセリフはかなり有名だ。もちろんデカルトは実際に英語でこう書いたわけではなくて、原文のラテン語を英訳したものなんだけど。
さて、ではいよいよwhat isの解釈に取りかかるよ。isの方は分かったので、あとはこのwhatが何者かということなんだけど、可能性としては「疑問詞」と「関係代名詞」の2つがある。
ではまず「疑問詞」と考えてwhat isを訳してみよう。すると「何が存在しているか」という訳になるね。この訳自体はおかしくないけど、視野を広げてopening your heart to “what is”を訳してみよう。「『何が存在しているか』に対して心を開く」となるけど、ちゃんと意味が通っているだろうか?あんまりスッキリと何を言っているか分かったという感じはしないんじゃないかな?
では次に、whatを「関係代名詞」と仮定してwhat isを訳すと、「存在する物」となる。それを踏まえてopening your heart to “what is”を訳すと、「『存在する物』に対して心を開く」。今度はどうだろう。さっきの訳よりも意味が通っているんじゃないかな?もちろんここだけでは意味が抽象的なのでまだ完全に分かったという感覚ではないと思うけど、とりあえずwhat isは「存在する物」と考えて先を読むことにしよう。
instead of ~は「~の代わりに、~ではなく」という意味の熟語の前置詞。
insisting that life be a certain wayのbeについて文法的に説明できる人はかなり英語のできる人だと言える。これは見た目は原形だけど、正確には「仮定法現在」と呼ばれるもの。文法の授業で習っているはずだから、怪しい人は文法参考書を調べて確認しておこう。
ⓐShe insisted that he always come home early.
ⓑShe insisted that he always came home early.
insistの後ろのthat節では必ず「仮定法現在」、簡単に言うと「動詞の原形」を使うと思っている受験生は多いけど、それは誤解だ。that節にふつうの現在形や過去形が使われることもある。
ⓐのcomeは100%原形だ。まあ正確に言うと仮定法現在だけど。主語が三人称単数でcomeと書かれている以上、現在形の可能性は0%。現在形でなければ原形しか可能性は無いよね。「要求」を意味するinsistの後ろのthat節では動詞の原形、正確に言えば仮定法現在を使う。さっきも言ったように、これは文法の授業で必ず習う知識だ。ⓐは「彼はいつも家に早く帰ってくるよう彼女は要求した」と訳せればOK。
ⓑのthat節では過去形cameが使われている。過去形と言っても、これは仮定法過去ではなくてふつうの過去形だ。「彼はいつも早く家に帰ってきていると彼女は主張した」が正しい訳。ⓐのthat節は「彼女の要求の内容」であり、つまりは「まだ実現していない出来事」を言っているんだね。だからこそ文法で言う「仮定法現在」を使う必要があるわけなんだけど。それに対してⓑのthat節はふつうの過去形が使われているので、一言で言うと「すでに実現している出来事」が表現されている。そうすると、ⓑのinsistは「要求」の意味を表しているとは言えない。なぜなら、そもそも「要求」の内容とは「まだ実現していない出来事」のはずだから。「すでに実現している出来事」を「要求」するのはおかしなことなんだね。そこでⓑのinsistは「主張」を表していることになる。
…という僕の今の説明は間違っているわけではないんだけど、個人的にはあまり好きな説明じゃない。
insist=➀要求する ②主張する
これだと、お互いの関係性をぶった切って複数の語義をただ羅列している単語集のようで、無味乾燥な単語学習になってしまうから。
むしろこう考えた方がスッキリするんじゃないかな。insist自体は「自分の意見を強く言う」くらいの意味で、自分の意見の中身が「まだ実現していない出来事」ならthat節で仮定法現在を使い、自分の意見の中身が「すでに実現している出来事」ならthat節ではふつうの現在形・過去形を使っているだけだというようにね。
ⓐShe insisted that he always come home early.
直訳「彼がいつも家に早く帰ってくるというまだ実現していない出来事を彼女は自分の意見として強く言った」
意訳「彼はいつも家に早く帰ってくるよう彼女は要求した」
ⓑShe insisted that he always came home early.
直訳「彼がいつも家に早く帰ってくるというすでに実現している出来事を彼女は自分の意見として強く言った」
意訳「彼はいつも早く家に帰ってきていると彼女は主張した」
こういう本質的なことを考えずに、insistには「要求する」と「主張する」という別々の2つの意味があり、またなぜか分からないけど前者の場合のthat節では仮定法現在を使い、後者の場合のthat節ではふつうの動詞を使うという言語的事実をただ丸暗記するのは、もちろん受験を突破するという目的から考えればそれでもいいのかもしれないけど、それはおよそ知的な英語学習とは言えないと思うんだけどね。だいたい、なんでもかんでも訳も分からずに丸暗記するしか能の無い受験生を大学側が欲しいと思っているとも思えない。もちろん語学である以上、暗記しなくてはいけないことが多いのは否定はしないけど、頭を使って考えるべきところを丸暗記で誤魔化すことを続けていると、必ず英語の学力は伸び悩んでしまうということは間違いなく言えると思うよ。辞書に載っているinsistの2つの訳である「要求する」と「主張する」の共通点を受験生が実際に突き止めるのは確かに難しいかもしれない。でも、突き止めること自体が大切なのではなく、「この2つの意味の共通点は何だろう?」と疑問に思い、その答えを探ろうとする姿勢を持っていることが大切なんだ。その姿勢さえあれば、自力でその答えにたどり着けるかどうかは大した問題じゃない。自分で考えて分からなければ、参考書を調べたり、教師に訊けばいいだけだ。自分の頭を使って本質を探ろうという姿勢のある人は、英語という言語の深いところに潜っていくことのできる人なんだ。そういう人は必ず英語を得意科目にすることができる。ダメなのは、自分の頭で考えることを放棄して、表面的なところをただの丸暗記で済ませようとする学習態度だ。そういう人はどれだけ勉強しても、英語が分かるようにはならないし、そもそも英語学習の醍醐味・楽しさを味わうこともできないだろう。
さて、話を戻して、➀の最後のinsisting that life be a certain wayだけど、「人生とは特定のあり方であるべきだと主張する」と訳せればいいね。もちろん「人生とは特定のあり方であるよう要求する」と訳してもいいけど、日本語としてやや不自然な感じがするから、「べき」を補った上で「主張する」という訳語を使ったわけなんだ。意訳すると、「人生とはこうであるべきだと主張する」といった感じだ。
instead ofの前後の2つの動名詞が意味的に対立していると考えると、ここで筆者が何を言っているかが分かり易くなる。
opening your heart to “what is” ↔insisting that life be a certain way
「存在する物」に対して心を開く↔人生とはこうであるべきだと主張する
insistingの後ろのthat節は、「人生とはこうあるべき」という理想を述べていると言えるよね。では「理想」の反対は何だろう?そう、「現実」つまり「実際の物事の状態」だね。つまり、さっきは直訳で「存在する物」と訳しておいたwhat isが、こうして他の表現と対比的に考えることでより意味の輪郭がはっきりしてきたと言えるんじゃないかな?「存在する物」とは、この文脈では「理想とは対比される実際の現実、物事のありのままの姿」の意味だと考えてよさそうだ。
これでやっと➀が終わったと思いきや、まだ未解決の問題が残っていた。1行目のphilosophiesは「生き方・信条」と「一般理論・哲学体系」のどっちの意味なのか、という問題があったよね。
➀の全体は
「多くのphilosophyにおけるもっとも基本的な精神的原則の1つが、人生とはこうあるべきだと主張するのではなく、現実そのものに対して心を開くという考え方である」
と言っているわけだけど、これはどうやら「一般理論・哲学体系」といった学問的な話というより、「生き方・信条」という、個々人の生活により密接な話題の話と考える方がいいんじゃないだろうか。多くの「一般理論」や「哲学体系」は、そもそも「人生とはこうあるべきだ」という生き方の理想を述べるようなものではないよね。むしろそうしたことを述べがちなのは「生き方・信条」の方のはずだ。
参考までに、「生き方・信条」の意味のphilosophyの英英辞典の定義を見てみようか。
philosophy: a set of ideas about how to live
簡単に言うと「人生観」ということだね。philosophy of lifeと言うこともあるけど、philosophyだけでも「人生観」という意味を表せることが分かる。ちなみに日本語には「人生哲学」という言い回しもあるね。
My philosophy is to live and let live.「私の人生哲学は、自分が生きたいように生き、他人にもその人が生きたいように生きることを認めるというものです」
His philosophy of life is to treat people as he would like to be treated.「自分がそうされたいと思うように他人に接するというのが彼の生き方だ」
My philosophy is very simple ― enjoy life!「私の人生観はとても単純です。それは『人生を楽しもう!』というものです」
…なんと、もう時間になってしまった!授業1コマで1文しか扱ってないというのは我ながらすごい(?)けど、次回続きを読んでいこう。次の授業までに、②の文のコンマはどういう働きをしているのかを考えておいてほしいな。そして自分はこのコンマをどう処理して訳したのかも確認しておいてね。
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