接頭語 sub は、~の下に、と解釈して良いのか? (その1)
英単語の語源を解説した市販本がベストセラーとなっており、昨年私も1冊アマゾンから取り寄せた次第です。その中で接頭語 sub について扱った項があり、sub は、~の下に、下から上に、を表すとの解説が行われ、複数の単語が掲載されていました。
米国アマゾンのサイトに飛び、<english etymology 英語 語源(学)>で検索すると多数の英語語源辞典の類いが検索されますが、その手の本を(おそらく内緒の!)ネタ本として日本語の本も繰り返し企図されるのでしょうね。
実は、英単語、更にそれを遡ってのフランス語、ラテン語では、接頭語や接尾語を語幹の前後に加え、或いは語幹自体も適宜組み合わせての合理的な造語が行われて来ました。即ち、その様な造語のあり方 - 後にゲルマン語起源の英語にも応用されて来ました - を知れば、単語の大まかな意味も分かり記憶の助けとなるだろうとの発想は誰でも思いつくのが自然です。明治の文豪森鴎外(本名 森林太郎)も、学生時代に回りの級友が単語を頭ごなしに只ひたすらに記憶しようとしていたが、造語の背景を知れば容易に覚えられるのだがと語っています。
例えば医学生物学では初期に学習する vasopressin バソプレッシンですが、vaso + press + in = 血管+圧力+語呂合わせの?の接尾語 in、ですので、血圧を上げる物質だろうとすぐに判ります。vasopressin は脳下垂体後葉から分泌されるホルモン(別名:抗利尿ホルモン antidiuretic hormone, ADH)なのですが、腎臓のボウマン嚢 Bowman's capsule で最初に作られる原尿と呼ばれる薄い尿から水分を再吸収して尿を濃縮し、血液の浸透圧(水分量)を一定に保つ重要な機能を持ちます。この様な理解で vasopressin の名を覚えることが出来るでしょう。因みに何らかの原因に拠り vasopressin の血中濃度が低下する、或いはその標的器官である腎臓の(遠位)尿細管が機能不全となると尿崩症(にょうほうしょう)が起き、大量の薄い尿が出ます(前者は中枢性尿崩症、後者は腎性尿崩症)。まぁ、喉がカラカラになり、血液は濃縮されて大変なことになります。
しかしながら、この方法で簡単に図式的に解釈可能な語 -医学含めて学術用語は近世の造語ゆえに大方がこれに該当します- は実は限定されており、スンナリとは行かない単語も存在します。その手の<語源から英単語を覚えよう>本や動画サイトを見ても結局判ったような判らない様な説明が多いですし、説明の困難な<都合の悪い単語>はさりげなく排除されることになります。その種の語の成立を解釈するには、後世の特殊な意味の派生を知るか、或いは更に年代を遡り、その根源に近づき知る必要があります。まぁ、造語されてから時間が経過していますので言語の宿命としての新たな意味の派生や揺れ動きが起きている訳です。
接頭語 sub の話に戻りますが、例えば単語 subversion は動詞 subvert の名詞形で、vert = turn ですので、sub + vert で、下に転ずる、の意味から転覆する、させる、の意味であると推測するのはまだ容易です。The rebel army is attempting to subvert the government. 反乱軍は国家転覆を目論んでいる、の例文があります(Cambridge Dictionary から)。
(次回に続く)
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