主語 subject は本当に<主語>なのか?
2022/4/22
意味不明のタイトルと思われた方も多いかと思います。英語の主語とは動作の主体であって、常に、誰々が~をする、~の状態である、と主語、意思主体を強く意識するのが英語の特徴であり、日本語の様に主語を頻繁に省略して曖昧性に生きるケシカラン言語とは全く異なるのだ、と、我々は英語学習の最初から強調されて来ました。まぁ、私も初めて英語に触れた中1の時に感じましたが、初学者にしてみれば、英語はいちいち I だの You などを頭に立てる七面倒臭くてしつこい言葉だぜ、ともなりますね。
しかしながら、sub の話に戻しますが、主節 main clause に対する従節 subordinate clauseの関係から見ると、subject は実は<主語ではなくて従語>と訳すべきではないか、との素朴な疑問を覚える生徒さんもひょっとして居るのかも知れないと、今回のタイトルに据えた次第です。
https://www.etymonline.com/word/subject
ここに拠れば、
subject = sub "under" + ject "throw" で、~の下に投げかける、~の下に据える、投げかけられたもの、との分かり易い意味であり、何かテーマとして考察や議論される、或いは研究されるもの、the thing that is being discussed, considered, or studied 詰まりは日本語で言う<主題、題目、テーマ>ですが、意味的には受け身のものとなります。
実際のところ、受験にも頻出する表現ですが、be subject to sth (sth: something)で、~の下にある、熨(の)される、の意味から、特に何か好ましくないものを経験する、被る、の意味になります。下記の例文が成立します。
In recent years, she has been subject to attacks of depression. (Cambridge Dictionary から)
≒ In recent years, she has been experiencing (or suffering from) attacks of depression.
近年、彼女は鬱の発作に悩まされて来ている。(註:副詞 recently や副詞句 in recent + years, days, etc. は、副詞 lately と同様に完了形と共に用いられるのが一般的です)
文法用語の subject (SVO などのSです)も、"person or thing regarded as recipient of action, one that may be acted upon 動作の受け手と見做される、或いは動作がその上に為される人や物事、と、同じく、受け身の意味になります。
これはどう言うことかと言うと、まず<主題>即ち、これから~について話します、と subject を最初に出し、次いでそれがどの様な加工を受けるのかを付け加えて文章を完成させる話になります。日本語に於いて主語とされるものは、実は話題提供の題目を示す言葉(これから~について話します、~に関しては)であるとの説も有力ですが、英語(とおそらく他の印欧語)もそれに近い起源を持って居るのか、と、ここに私は改めて思い直しました。
Cambridge Dictionary の定義の1つは、文法用語としての意味として、subject (GRAMMAR) : the person or thing that performs the action of a verb, or is joined to a description by a verb: 動詞の動作を遂行する或いは動詞が描写するものに結び付けられる人や事物、と定義しています。要するに動作や叙述の主体者としての定義です。この定義は我々が英語教育の現場で強調される主語 subject の定義そのものですが、これはいつのまにか、本来受け身の対象であるものが逆転して能動側に転じたと考える事も出来ます。
以上の様な、英語(そしておそらくは他の印欧語の)表現或いは概念上の、受動と能動の逆転or 交替現象、或いは同値、は他にも見られることなのですが、機会があればまた触れたいと思います。
- ここまで書いて来て、鎌倉時代頃の日本語表現、お前、減気か?(へばっているのか?)が、後世、お前、元気か?の意味に180度転じたことが頭に浮かびました。言いたいことは実は同じなままです。
vice versa (ウィケ・ウェルサ)逆もまた真なり、の様で。
この先生の他のブログ
条件節を導く接続詞の用法として if + were to do の表現があります。これは、ひょっとして起こるかもしれないが実際には起こりそうに無いと話し手が考える場合に formal な表現として使われるものです。いわゆる仮定法の表現の1つですが仮定の状態を強調する表現になります。もし仮に~だとした...
前々回、前回の繰り返しにもなりますが、これまでの内容を纏めると、 A is to do sth. (sth = something) で、① Aは~する約束になっている、~する手筈となっている、することになっている、未来がそれに向けられている、手配されている、定まっている-これらは皆広義の未来表現で...
(前回からの続き)<本家の> Oxford English Dictionary, 2nd edition の be の項の解説では、------------------------------------be16. With the dative infinitive, making a futu...