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「これだけやれば大丈夫」は本当に大丈夫?

2022/11/11

世の中には、「美味しい話」がたくさんあります。

「無料登録するだけで、月50万円稼げるバイトを紹介します」

「この〇〇を買っておくと、将来、100%値上がりします」

冷静に考えれば、そんなに美味しい話があるわけがないのですが、ちょっとしたスキがあると、案外簡単に美味しい話を信じてしまいます。

何かに悩んでいたり、焦っていたりすると、「信じたい」という願望が理性を上回るのです。

人とはそういうものです。


さて、それは受験勉強でも同じことです。

「これだけやれば大丈夫」という魔法の言葉が、あなたにささやきかけます。

「この参考書1冊やるだけで合格できるよ」

「このテクニックを使えば全問正解」

受験日が差し迫ってくると、藁にもすがる思いで、こうした言葉に飛びつきたくなります。

私にも覚えがありますから、気持ちはよくわかります。

ですが、いったん冷静になりましょう。

その「これだけやれば大丈夫」は本当に大丈夫でしょうか?



大学受験の漢文の参考書に、『漢文早覚え速答法』(Gakken)という本があります。

1991年に出版されて以来、多くの受験生に支持されて、80万部を突破した大ベストセラーです。

amazonの「高校古典教科書・参考書」のカテゴリでベストセラー1位になっていますので、知っている方・購入された方もいらっしゃるかと思います。

カスタマーレビューでも高評価を得ています。

『2023年度 共通テスト過去問研究 国語』(教学社)にも、この参考書を推薦している大学合格者の声が載せられていますし、YouTubeでも、漢文はこの参考書を勉強すれば早稲田大学に合格できる!という実体験が語られています。

これだけ評価されているのですから、『速答法』はよい参考書と言えるのでしょう。


ですが、こうした声を信じて、『速答法』だけやれば大丈夫!と安心してしまってもよいのでしょうか?

実際に『速答法』を手に取り、評価の声を全体的に眺めてみると、この参考書が「大丈夫」と言う発言は、一定の条件下にある人たちの発言であることに気付きます。

ここで、『速答法』を分析してみましょう。



1、本当の初心者向けではない

「漢文が苦手だったけど、『速答法』だけで点数が上がった」

「『速答法』だけで、共通テストで高得点が取れた」

といった話は、おそらくウソではないのだと思います。

ですが、amazonのカスタマーレビューにもある通り、この参考書には、超基礎の「レ点」「一二点」などの説明がありませんし、「置き字」や「再読文字」も問題解説文の中で簡単に触れられるだけになっています。

ゼロから漢文を習う際に必ず最初に学ぶであろう事項について、『速答法』では学べないことになります。

つまり、筆者は、全くの初心者を想定して『速答法』を書いたわけではなく、

「漢文は苦手だけども、超基礎事項については(無自覚的にでも)なんとなく覚えている」

といった読者に向けて、『速答法』を書いたということなのでしょう。

本当の本当に、全く漢文がわからないという場合には、他の参考書で勉強するべきです。

『速答法』は、漢文の基礎固めや実力養成というよりは、受験テクニック重視の参考書です。


2、句形の数え方に注意が必要

筆者は「10の“いがよみ”公式」という10個の句形だけ覚えればよいと言っていますが、一般的な句形の数え方をするならば数十個の句形が扱われていることになります。

例えば、「使役形」「受身形」「否定形」などといった句形のカテゴリを「“いがよみ”公式」とネーミングして、覚えるのは「10」個だけと数えているのですが、他の参考書では、「使役形」の中に「使」「令」「教」「遣」の4個があって~というふうに数えています。

つまり、『速答法』では「使役形」を1個、他の参考書では4個と数えています。

これだと、『速答法』の方が、あたかも極端に少ない句形だけで済むかのように錯覚してしまいます。

ベストセラーとして、よく比較対象にされる『漢文ヤマのヤマ』(Gakken)の句形は66個ですから、6倍以上の差があるように見えます。

『速答法』の扱う句形はかなり少なめで、これでは足りないという声もありますが、しかし、『ヤマのヤマ』と6倍以上も差があるかといえば、そうではありません。

6倍以上も効率的!とは考えない方がよいと思います。


3、問題集も必要

『速答法』は、実際の入試問題を使って例題や練習問題を設けているところはよい点なのですが、これだけでは、おそらく演習不足でしょう。

『速答法』で早稲田大学に合格したという前出のユーチューバーも、動画を最後まで視聴すると、実は、『速答法』の後に何冊か問題集を解いて勉強したと話しています。

そもそも、この早稲田大生の方は、『速答法』の勉強においても何度も繰り返して読み込んで勉強したようで、決して、1~2回読んだ程度で合格したのではありません。

『速答法』を繰り返し繰り返し読んで、しっかりマスターしたうえで、他の問題集にも取り組んで実戦力を養ったから、早稲田合格という結果を得られたということです。

『速答法』は、「漢文をゼロからスタートして、この1冊だけを1~2回読んだら、楽勝で早稲田の合格ゲットだぜ!」という魔法の参考書ではありません。

そういう人は、仮にいたとしても、超レアケースだと思った方がよいでしょう。


4、国公立二次試験の記述問題に対応できるとは思えない

共通テストでは満点がねらえると言われているのが漢文ですが、私大や国公立二次試験の記述問題は、それほど簡単なわけではありません。

『速答法』は、共通テストだけでなく、記述問題対策にも対応していると謳っています。

筆者は、記述問題では満点は取れないから、部分点を拾っていくべきというスタンスです。

確かに、全問記述問題の大学などもありますし、満点を取るのは極めて難しいでしょう。

ですから、筆者のスタンス自体は間違っていません。

ただ、そうした点をふまえて考えても、『速答法』の記述対策は、これを読んだら十分というわけではないでしょう。

なにより、十分な演習問題がありません。

しっかりと記述対策をするなら、『得点奪取 漢文 記述対策』(河合出版)で基本的な勉強をしたうえで、『入試精選問題集 漢文』(河合出版)や『漢文道場 入門から実戦まで』(Z会)・『難関大突破 新漢文問題集』(駿台文庫)などの問題に挑戦するといった手順をふんだ方がよいと思います。

さらに、志望校の過去問も解いてみましょう。

『速答法』だけで記述問題に対応できるとは思えません。



結局のところ、『漢文早覚え速答法』は、「これだけやれば大丈夫」な参考書かというと、ある条件下ではそうだと言えるかもしれませんが、他の条件下ではそうとは言えないということになります。

急いで共通テストの対策をしなければならないという方や、あまり漢文にリソースを割きたくないといった方のためには、一定以上の効果がある参考書ですが、本当の初歩から漢文を学びたい方や、句形の漏れを無くして万全の態勢で受験したい方、記述対策が重要になる国公立二次試験を受ける方などには不向きだといえます。

決して万能の参考書ではない、ということは知っておくべきです。

一般評価が高いからといっても、あなたに合った参考書だとは限りません。


漢文の基礎知識や句形を勉強するためなら、他にもよい参考書が出版されています。

取り組んでみるべき、評価の高い問題集も複数あります。

受験間近で焦っている場合でも、比較的に基本や句形を重視している『ヤマのヤマ』がよいのか、テクニック重視傾向の『速答法』がよいのかで、選択が分かれるでしょう。

テクニックを学びたいということでいえば、『最短10時間で9割とれる 共通テスト漢文のスゴ技』(KADOKAWA)という選択肢もあります。

受験生の皆さんは、その参考書が自分に合っているかを考えてから、挑戦するようにしてください。


また、「効率的」であることと「楽」であることは、イコールではありません。

状況や条件を考えず、「楽」そうだからという理由で勉強方法や参考書を決めてはいけません。

あなたにとって必要なことは何か、適切な行動は何かを、冷静に見極めてください。

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