#133 伊東先生の英作文教室➂
2024/4/10
今回は国立大の問題からの出題だよ。
いつも言っていることだけど、「和文英訳」とは日本文の語句を一字一句機械的に英語に置き換えていくことではない。
まずは日本文の意味を正しくつかんだ上で、英語として通じるように訳さないといけないんだね。
じゃあ今日は、詩織さんと麗華さんに自分の答えを黒板に書いてもらおう。
具体的な答案を添削することで、和文英訳の勘どころがみんなにも見えてくるはずだ。
* * *
«詩織さんの答案»
まず①の「~という」を同格のofで表現しているところなんだけど、残念ながらこれは「機械的な直訳」になってしまっているね。
⑴彼が死んだというニュースに私たちは驚いた。
これは同格のofを使って
We were surprised at the news of his death.
と訳していいんだ。なぜかと言うと、newsは後ろにこうしたofを使うことが認められている名詞だから。
でももちろんすべての名詞に「後ろに同格のofが来る」ことが認められているわけではない。同格のofを取る名詞というのは極々限られているんだ。具体的には辞書や文法書で調べて確認しておいてほしいんだけど、placeはそうした名詞ではないので、「大学というところ」をthe place of the universityとするのは不自然になるんだね。
さっき言ったように、日本語の字面にとらわれるのではなくて、「大学というところ」という表現がどのような意味なのかをしっかりと考えてほしい。こういう難関大レベルの和文英訳では、原文の意味の取り違いはまさしく致命的になるからだ。
ヒントとして、次の2つの日本文を比較してみようか。
⑵大学というところは自分自身を発見するところである。
⑶大学は自分自身を発見するところである。
この2つの日本文に、意味の差が感じられるだろうか?僕の感覚ではほとんど一緒なんだけど、みんなはどうかな?
もちろん、本当に厳密には僅かな意味の差はあるのかもしれない。でもね、そんなあまりにも小さいニュアンスの差は気にしないでいい。大学入試というのはね、文学作品の翻訳の世界とは違うんだから。
それともう一つ重要なのは、原文の➀はいわゆる「総称表現」になっているということ。つまり、「全ての大学は(大学というものは)自分自身を発見するところである」というニュアンスなんだね。このニュアンスを英語でどう表現するかは大切だよ。文法で勉強しているはずだけど、主語の名詞を無冠詞複数形にするのが最も自然な英語だ。
Universities are ~.
じゃあ次に、「自分自身を発見するところ」の英訳に行こう。詩織さんは
the place to find myself
と訳しているね。placeの後ろに形容詞用法の不定詞が来るのはOKだ。でも、myselfは訂正が必要だよ。さっきも言ったように、この文は「全ての大学」を対象にした総称文なので、「自分自身」が指すのも「私自身(myself)」だけのはずはないね。「自分自身」も総称的に解釈すべきなので、「総称のyou」の~self形を使うべきだね。
もう一つ、ここでの「発見する」はfindではなくfind outが適切なんだけど、ちょっとこの2つの英文を比べてみよう。
⑷I found an article about the accident.「その事故についての記事を見つけた(発見した)」
⑸I found out some information [a new fact] about the accident.「その事故についての情報[新事実]を知った(発見した)」
1語のfindは、「何かある物を探し求めて見つける(発見する)」ということで、findの目的語になる物は「目に見える具体的な物体」であることが多い。「財布を見つける」ももちろんfind a walletとなるね。
それに対して、重要熟語のfind outでは、目的語は「情報・事実」になるのがふつうだ。だから、⑸ではfind some information [a new fact]だと間違いになるんだ。
さて問題文に戻って、「自分自身を発見する」とは、言い換えると「自分自身についての情報・事実を発見する」ということだね。まさか「財布を発見する」ように「自分自身を発見する」という意味ではないからね。
というわけで、「自分自身を発見する」には
find out about yourself
という表現がふさわしいということになる。find outは自動詞として使って、前置詞aboutの後ろにyourselfを書いている点に注意だ。
find out (some information) about yourself
と省略を補うと分かりやすいね。
あと細かい訂正だけど、the placeだと、「自分自身を発見するところ」は世界中で「大学」だけというニュアンスになってしまうね。theを使わなければ、「自分自身を発見するところはいくつかあって、大学はそのうちの一つ」というニュアンスになるよ。
Universities are places to find out about yourself.
では②に進もう。
まず詩織さんの答案について言えるのは、英訳では「大学」という限定された場所についての話であるということがハッキリわかるような書き方になっていないということだね。
原文の「与えられた」「受け入れる」という出来事は、あくまでも「大学」という場所の中でのものなんだけど、英訳ではそういう限定的な意味が読み取れなくなってしまっている。なので、できれば➁の英訳にはそうしたことも盛り込めるとベターだね。
次に気になるのはwasという過去形なんだけど、日本語の「~た」を機械的に過去形に訳してしまうのは良くないよ。
⑹昨日は風が強かった。
⑺宿題終わったから、遊びに行っていい?
⑻お腹減った。
⑼(探しているものが見つかって)ここにあった!
⑽人からもらった物は大切にしなさい。
⑹は単に過去のことを述べているので、もちろん過去形でOK。
It was windy yesterday.
⑺はどうだろう?「終わった」は過去形finishedでいいだろうか?
I’ve finished my homework, so can I go out to play?
詳しくは文法で勉強しているはずだけど、「現在とつながりのある過去の出来事」は現在完了形で表現するんだったよね。
⑻はまさか
I was hungry.
ではないよね。日本語の「お腹減った」は「今お腹が減っている」ということだから、
I’m hungry.
と現在形を使わないといけない。
⑼もよく考えてみれば変な日本語だよね。「ここにあった!」というのは、もちろん「過去にはここにあったけど今は無い」という意味じゃない。
Here it is!
この表現は全体で熟語的な会話表現だけど、現在形が使われていることに注意だ。
さて、⑽がまさに今回の問題文に直接関係するものなんだけど、
Treat with care what you received from others.
のように過去形を使ってしまうのはよくないんだ。なんでかというと、英語の過去形は「現在とは切り離された過去の出来事」を表すための形式だからだ。⑽の「もらった」は、そうした「現在とは切り離された過去の出来事」を表しているというよりも、「もらう」という行為が完了していることを強調しているだけであり、
Treat with care what you have received from others.
と訳した方がいいというわけなんだ。
ちなみに、⑽の文は
「人からもらう物は大切にしなさい」
と言い換えても意味はほとんど変わらない。なので、
Treat with care what you receive from others.
というように、現在形を使って訳してもOKだ。
ではでは、ようやく詩織さんの答案に戻ろう。原文の「与えられたもの」も今と同じように考えられるので、
To accept what is [has been] given ~.
の方がいいね。
それと、誰にgiveされたのかを表現した方がいいので、
To accept what is given to you ~.
のようにto youを付け足しておこう。
「無判断に」は難しく見えるかもしれないけど、噛み砕くと「判断することなく」ということ。なのでwithout judgingはよく訳せているんだけど、一つ惜しいのは、judgeは基本的に他動詞なので目的語を書いた方がいい。
To accept what is given to you without judging it ~.
あと、答案では原文の「~だけ」が訳されていないので、
To only accept what is given to you without judging it ~.
のようにonlyを加えておこう。
最後に、この答案では主語になっている不定詞がやたら長くなってしまっているので、できればIt ~ to do構文を使って、
It is insufficient to only accept what is given to you without judging it at university.
と書くとバランスのいい英文になるね。
* * *
«麗華さんの答案»
麗華さんの答案の➀についてだけど、この英訳では「話のテーマ」が原文とずれてしまっているね。
原文の➀のテーマは、主語の「大学」なんだけど、答案ではその「大学」が文末に置かれてしまっている。
基本的に英文ではテーマは文頭に出てくる傾向にあるので、詩織さんの答案のようにuniversityを主語の位置に持って来るか、あるいは
At university you ~.
のように、at universityを文頭に置けば、文のテーマが「大学」であることが示されることになる。
文の主語はyouでOK。
あと、ここのuniversityに不定冠詞aは不要です。at a universityだと「実際に存在する不特定の一つの大学」がイメージされるらしいんだけど、無冠詞のat universityはもっと抽象的な「制度としての大学教育を受けている」というニュアンスになります。ここは大学全体を総称的に捉えているような文脈だから、無冠詞の方がいいだろうね。
find yourselfではなくfind out about yourselfの方がいいことについてはもう説明したね。
At university you find out about yourself.
それじゃあ➁に行こう。
ちょっと細かい話になるんだけど、onlyは基本的に直後の要素を修飾するので、ここではgetの左に書く方がより原文に忠実だ。
get only what ~「与えられたものだけを無批判に受け入れる」
only get what ~「与えられたものを無判断に受け入れるだけ」
さっきの詩織さんの時にも指摘したけど、②も「大学」という範囲の中での話であることは明示するのが望ましいので、それも踏まえるとこんな感じに訂正されることになるよ。
It is not adequate to only get what others give to you without judgement at university.
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