【「これ、どこから抜いたの?」で見えてくる】国語力の本当の課題
国語の抜き出し問題で、生徒さんが答えた言葉に対して「それ、どこから抜いたの?」と聞くと、何の前触れもなく、いきなり話し始めることがよくあります。
「『しかし、彼は……』のところです」
ページも、段落も、行数も、何もかも飛ばして、ただ唐突に本文を読み始めるのです。
聞いている側としては、「えっ、どこの『しかし』!? ページの中に『しかし』なんて何個もあるんだけど……」と、おろおろします。でもご本人は聞き手の私が迷子になっていることには全く気がついていません。
だからこう伝えます。「先生は君の頭の中が見えないから、いきなり読まれてもどこか分からないんだよ。たとえば『右のページの、真ん中よりちょっと下にある【しかし】です』みたいに、絞り込んで案内してくれたら一発で伝わるよ」
この何気ないやり取りの中にこそ、国語力の本質が詰まっています。
私たちが日常で「国語力」と呼んでいるものの正体は、難しい言葉をたくさん知っていることではありません。「相手は何も知らない状態である」という大前提に立ち、その相手の頭の中に、自分が見ているものと同じ正確な地図を描いてあげられるかどうかなのです。
思い込みから脱却しよう
人間は放っておくと、自分が今見ているものを相手も分かっていると思い込んでしまう生き物です。特に子どもは、「自分の見ている世界=世界のすべて」になりがちです。
しかし、文章を読む受け取り手は、基本的にはあなたの頭の中について「何も知らない」状態です。
自分が何かを書いたり言ったりするとき、その「何も知らない相手」が、迷子にならずに理解できるか。自分の言葉という不確実な道具だけで、相手の頭の中に自分と同じ景色を再現できるか。そうやって、自分の視点から完全に離れて、受け手の立場から自分の言葉を眺め直す視点を持つことが必要になるのです。これを私は「他人の目を持つ」と呼んでいて、それこそが国語力アップの秘訣です。
算数であれば、「1+1=2」という共通の客観的なルールの上で話が進みます。しかし国語は違います。言葉という、人によって受け取り方が微妙に異なる曖昧なものを使いながら、相手とイメージを共有しなければならない、きわめてシビアなコミュニケーションなのです。
重要なのは、言葉のテクニックではなく「情報の絞り込み方」
よく「うちの子は説明が下手で……」という相談を受けますが、それは表現力だけの問題ではありません。どれだけ気の利いた言葉を使っていても、相手の視点を無視した文章は、ただの「言葉の羅列」であって、説明にはなっていないのです。
必要なのは、飾った言葉ではなく、情報の親切な絞り込み方です。
先ほどの「右のページの、真ん中よりちょっと下にある【しかし】」という説明がなぜ分かりやすいかというと、相手の視線を迷わせないための「段階的なナビゲーション」になっているからです。 まず「右のページ」「真ん中よりちょっと下」で大半を切り捨てさせ、目印を提示した上で、目的の場所へ誘導する。
この、ステップを踏んで相手の認知を誘導していく感覚こそが論理的思考力であり、国語の記述問題や要約問題で求められる力そのものです。自分が言いたいことをダラダラと書き連ねるのではなく、相手が一番スムーズに受け取れる順番に情報を手渡してあげること。これができる子の文章は、たとえ拙い言葉遣いであっても、抜群に読みやすく、説得力があります。
日常の会話こそが、「他人の目」を育てる一番の場になる
この「相手の頭の中に地図を描く力」は、一人で問題集に向き合っているだけでは、なかなか身につきません。なぜなら、問題集は「え? どこ? 分からないんだけど」と聞き返してはくれないからです。
だからこそ、家庭での何気ないやり取りの中で、子どもに「他人の目」を持たせてあげるのが一番効いてきます。
子どもと話していて、「え、急に何の話?」「誰のこと?」となる瞬間ってよくありますよね。本人はもう自分の頭の中で話が始まっているから、前提も登場人物も全部飛ばして話し始めてしまう。そのときに「お母さん(先生)は今その話を聞いたばかりだから、最初から教えて」と、意地悪ではなく、「私はその場にいなかったから、教えて」というスタンスで、相手(=他人の目)から自分の言葉がどう見えているかを意識させてあげるのです。
自分の頭の中から「自分だけの前提」を引っぺがし、何も知らない相手の目になって、自分の言葉を眺め直してみる。
その、他者に対する想像力の解像度を上げていくことこそが、結果として、文章を読むときに深い心情を読み解き、書くときに過不足のない記述解答を作るための、強固な土台になっていくのかもしれません。
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