高校漢文のための読書案内
2022/11/6
ときどきですが見かける「漢文が好き」という生徒さんは、どうして漢文が好きなのでしょうか?
単純に、漢文が得意科目で高得点が取れるからという生徒さんもいるでしょうが、そもそも「中国の歴史に興味があるから漢文も好き」という場合も多いのではないでしょうか?
『三国志』や『キングダム』から興味を持って、中国史が好きになり、ついでに漢文も好きになったという例は、あるあるだと思います。
逆に、漢文は好きだけれど中国史は嫌いという生徒さんは、あまりいないのではないかと。
そうすると、まずは中国史に興味をもってもらい、ある程度、歴史背景などを知ったうえで漢文の勉強をしてもらって、漢文も好きかも~漢文で高得点、という段階をふんでみるのもよいかもしれません。
そこで今回は、高校で漢文を学ぶ際に読んでみることをお薦めしたい本を、いくつかご紹介したいと思います。
1、司馬遷『史記』(訳本各種)
中国古代の歴史書として有名な『史記』は、複数の出版社から日本語訳が出されています。
ちくま学芸文庫(全8冊・全訳)、岩波文庫(全5冊・列伝のみ)、平凡社ライブラリー(全3冊・列伝のみ)、角川ソフィア文庫(全1冊・名場面精選)などが、比較的入手しやすいです。
数ある中国の歴史書のなかでも、『史記』は読んでいて非常に面白い歴史書です。
『史記』の文章は、高校の教科書や大学入試の問題にも採り上げられることがありますので、訳本を読んでおくと、試験を受ける際にも役立つかもしれません。
漫画『キングダム』の元ネタも、たくさんあります。
『史記』の内容は、本紀・表・書・世家・列伝によって構成されていますが、そのうちの列伝は、バラエティーに富んだ人物たちの伝記になっています。
列伝は物語色が強くて読みやすい部分なので、列伝の一部だけでも読んでみるとよいでしょう。
あるいは、角川ソフィア文庫版は、教科書にも載っているような名場面を精選していて、訓読文・書き下し文・訳文もそろっているので、高校生の入門編としてはこれが一番よいかもしれません。
角川ソフィア文庫版は、ビギナーズ・クラシックスという中国の古典のシリーズの一冊です。『史記』以外の中国古典の訳本もありますので、読んでみるとよいと思います。
2、陳舜臣『小説十八史略』(全6冊、講談社文庫)
『十八史略』とは、伝説時代から南宋(~1279年)に至るまでの中国の歴史を要約した、子供向け教科書的な書物です。
明治期以降、日本の漢文教科書にも多く採用されてきました。
故事成語もたくさん出てきます。
『小説十八史略』は、小説家の陳舜臣氏が、『十八史略』で扱われている範囲の時代を小説化したものです。
この本は、中国史入門者にうってつけの本で、私も高校生の頃に読みました。
同じく、陳氏が書いた『中国の歴史』(全7冊、講談社文庫)も初学者向けで、こちらでは中華人民共和国の成立までを扱っています。
中国の通史・概説書などは、研究者が執筆したものがたくさん出版されていますが、読み物として簡単で面白いものというと、陳氏の『小説十八史略』『中国の歴史』が最適ではないかと思います。
漢文だけではなく、世界史の中国史の勉強にもなります。
ここから入って、より学問的なことを知りたくなったら、専門家の書いたものに手を伸ばしてみるという順番で読んでいくのがよいでしょう。
ちなみに、『十八史略』の訳本も出版されており、そちらも漢文学習の参考になります。
『史記』と同じく、角川ソフィア文庫版がお手頃です。
3、司馬遼太郎『項羽と劉邦』(全3冊、新潮文庫)
こちらも有名な小説です。
始皇帝の死から、秦が滅んで漢が建国するまでの項羽と劉邦の戦いが描かれています。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」「王侯将相寧んぞ種あらんや」「背水の陣」「鴻門の会」「垓下の戦い」「四面楚歌」「項王自刎」
などの故事成語・名場面が目白押しです。
漢文の教科書にもがっちり登場します。
中国史上でも非常に有名な項羽と劉邦の戦いを、日本を代表する歴史小説家が描いた本作品は、出版から40年ほど経った今でも読み続けられている名作です。
4、吉川英治『三国志』(全10冊、吉川英治歴史時代文庫)
日本人の中国史好きのなかで最も人気があるのは、なんといっても三国志でしょう。
後漢末期の黄巾の乱を平定すべく登場する英雄たちが、やがて、魏・呉・蜀の三国を建国して天下統一を争う時代です。
『三国志』を題材とした小説・漫画・ゲームは数知れず存在し、それらから中国史に興味を持った人たちは多いと思いますが、そのベースになっているのが、吉川英治氏の小説『三国志』です。
この吉川三国志と、それをもとにして描かれた横山光輝氏の漫画『三国志』、コーエーテクモゲームスのゲーム三国志が、一般的な日本人の三国志観を作り出したと言ってもよいのではないかと思います。
私が中学生の頃、私のまわりでは、この三つの三国志がなぜか流行していました。
今の生徒さんたちにとっては、三国志はどんなふうな存在なのでしょうか?
さて、吉川三国志から、さらに遡っていけば、中国の明代に書かれた小説の『三国志演義』に行き当たります。
世界史教科書にも登場しますね。
この『三国志演義』は、歴史書である正史の『三国志』とは違うところがありますから、それに基づいている日本の小説などにも、歴史事実とは相容れない部分があります。
ですが、とりあえずは、吉川三国志などで雰囲気をつかみ、興味が出てきたら、いろいろと調べてみたらよいと思います。
インターネットにも、三国志好きな人たちが発信している情報があふれていますので、検索してみてください。
「三顧の礼」「苦肉の策(計)」「水魚の交わり」などの故事成語は、漢文を学ぶうえでも知っておきたいところです。
「水魚の交わり」は、漢文の教科書にも登場した例がありますし、2018年度センター試験でも知識が問われました。
5、その他
宮城谷昌光・北方謙三・浅田次郎氏などの小説も人気があります。
春秋・戦国時代、三国志、水滸伝、モンゴル、清朝以降などを対象にした、たくさんの作品がありますので、1~4で足りない方は、ぜひ探してみてください。
以上、紹介してきた本は、比較的入手しやすく入門に適した中国史関連本になります。
小説の場合は、歴史事実と異なることも書かれていますので、あくまでも小説としてお楽しみください。
それでも十分に、歴史の知識や雰囲気をつかむことができるはずです。
漢文を勉強するうえでも、きっと役立つでしょう。
故事成語や漢詩・中国学関連の専門家が書いた書籍などについては、また別の機会にご紹介したいと思います。
漫画や歴史劇についても、ご紹介していく予定です。
今回とりあげた小説などが難しいと感じる生徒さんは、漫画から読み始めるのがよいかもしれません。
様々なメディアを駆使して、漢文と世界史(中国史)の勉強を楽しんでください。
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