【中学受験:理科】 「てこ」攻略基礎編:シンプルなルールで確実に得点できる!
2025/6/9
中学受験の理科では、「てこ」や「滑車」といった単元に苦手意識を持つ受験生が少なくありません。複雑に見える図や条件設定に戸惑い、どう解けばいいのか分からなくなってしまうのです。
しかし実は、「てこ」も「滑車」も基本ルールさえしっかり理解できれば、むしろ安定して得点できる非常に“おいしい”単元です。
◆ てこの基本ルール:「モーメントのつり合い」
てこの計算は、基本的にたった一つのルールに従っています。それは、
「時計回り(右回り)に回そうとする力」=「反時計回り(左回り)に回そうとする力」
というバランス(つり合い)です。
ここで出てくる「回そうとする力」のことを、モーメントと呼びます(高校以降ではより厳密な定義になりますが、中学受験では「モーメント=支点からの距離 × 力(重さなど)」という理解で問題ありません)。
つまり、「てこがつり合う」とは、逆方向に働くそれぞれのモーメントが等しいという状態のことなのです。
◆ 混乱の正体は「理解不足」ではなく「条件整理の不足」
てこの計算でつまずく受験生の多くは、ルールそのものが分かっていないわけではありません。実際には、問題の前提条件を正しく整理できていないことが原因です。
図の中で「どこが支点なのか」「どの力がどの向きにはたらいているのか」といった情報を整理しきれず、混乱してしまうのです。
そこで今回は、「棒の太さや重さは無視できる」という前提のもとで、段階的にモーメント計算の基礎から応用までを確認していきましょう。
【ステップ①】モーメントの基本:どうやって求める?
モーメントの基本式はとてもシンプルで、以下のように表せます。
「モーメント = 支点からの距離 × 力(重さなど)」
たとえば、以下の図のように支点から50cmのところに100gのおもりがかかっていれば、「50 × 100 = 5,000(モーメントの大きさ)」となります。この際、他の単位と間違えないようにモーメントとして求めた数字は丸で囲んであげるなどして、はっきりわかるようにしておくと良いでしょう。
このとき重要なのが、力の向きです。てこの右側にある100gのおもりは、支点を中心にして時計回りに「てこ」を回そうとします。したがって、この場合には「時計回りに5000のモーメントがはたらいている」と表現します。
【ステップ②】左右のモーメントがつり合うとは?
続いて、ごく単純なモーメント計算による、「てこ」のつり合いを考えます。
最も基本的な「てこ」の計算では、「棒の重さや形状」については完全に無視し、純粋に左右にかかっているおもりがどう働くかで判断します。まずは下の図をご覧ください。
この図にはたらいている力は以下の通りです。
・時計回り(右回り)のモーメント:30cm×200g=6000
・反時計回り(左回り)のモーメント:40cm×?g=6000
もし、このてこがつり合うのだとすれば、反対方向にはたらくモーメントは同じになるはずですから、上の式より「?=6000÷40=150g」と求めることができます。
「てこが全くできない」という受験生には、まずはこの基本を徹底的に教え込むことです。この関係を理解する前に下手に発展問題に手を出すと、複数の条件を整理することができずに混乱して苦手になります。集団塾で受験生の多くが「てこ」について苦手になるのは、進度の都合上、この基本の理解に多くの時間を割けないまま先に進んでしまい、「置いていかれる」子どもが一定数出てしまうからです。
【ステップ③】支点や力の位置が変わったら?
「棒の重さや形状は無視」という前提は同じでも、支点や力点の位置が変わると、図の見た目は複雑になります。しかしやることは変わりません。「支点からの距離 × 力」= モーメントの原則をしっかり使えば、すぐに解けます。
たとえば、下の図の場合、支点がこれまでのように真ん中ではなく、左端に来ています。
一見すると難しく見えますが、「モーメント=支点からの距離 × 力(重さなど)」という基本をしっかりおさえれば、おもりが下方向(時計回り)にてこを引っ張る力と、ばねはかりが上方向(反時計回り)に「てこ」を引っ張り上げる力がつり合ったときに「てこ」がつり合うことが分かりますから、仮にこの「てこ」がつり合っているとすれば、
・時計回り(右回り)のモーメント:20cm×100g=2000
・反時計回り(左回り)のモーメント:50cm×?g=2000
という計算が成立しますので「?=2000÷50=40g」と、ばねはかりがかけている力を算出することができます。
また、下の図のように、力点の位置と向きが異なる場合を考えてみましょう。下の図では、おもりは「てこ」の右端に乗っており、これを下からの力で支える形になっています。これも、「モーメント=支点からの距離×力(重さなど)」という基本に従えば、
・時計回り(右回り)のモーメント:60cm×50g=3000
・反時計回り(左回り)のモーメント:20cm×?g=3000
という計算が成立しますので「?=3000÷20=150g」と、下から支える力を算出することができます。
【ステップ④】両端で支えられているとき:支点を定める
最後に、「棒の重さや形状は無視」という基本条件は同じままで、両端がばねはかりによってつるされていて、支点の位置が判然としない場合を考えてみましょう。たとえば、以下のような図の場合です。
この図において棒がつり合っているとした場合、両サイドのばねはかりはそれぞれ何gを指すことになるでしょうか。
これについては、片方の支えている部分を「支点」と仮定した上で、通常のモーメント計算をすれば求まります。たとえば、ばねはかりAが支えている部分を支点とした場合、考え方は以下の図のようになります。
ご覧の通り、左端が支点となりますので、60gのおもりが下向きにてこを引っ張る力は支点を中心として時計回りのモーメントとなり、ばねはかりBが上向きにてこを引っ張り上げる力は反時計回りのモーメントとなります。よって
・時計回り(右回り)のモーメント:20cm×60g=1200
・反時計回り(左回り)のモーメント:100cm×?g=1200
という計算になりますから、「?=1200÷100=12g」と求まることになります。
また、ばねはかりBが支えている部分を支点として考えても考え方は同じで、以下の図のようになります。
ご覧の通り、今度は右端が支点となりますので、60gのおもりが下向きにてこを引っ張る力は支点を中心として反時計回りのモーメントとなり、ばねはかりAが上向きにてこを引っ張る力は支点を中心として時計回りのモーメントとなります。よって
・時計回り(右回り)のモーメント:100cm×?g=4800
・反時計回り(左回り)のモーメント:80cm×60g=4800
という計算になりますから、「?=4800÷100=48g」と求まることになります。
その結果、ばねはかりAは48g、ばねはかりBは12gとなりますが、その合計はおもりの重さである60gとぴったり同じになります。つまり、ばねはかりAとBがおもりの重さを両サイドでそれぞれ分け合うことになるわけですね。
すると、「ばねはかりA・Bにかかる力の比」は4:1となりますが、一方でおもりから「ばねはかりA・Bまでのキョリの比」は20cm:80cmなので1:4となり、下で示したように逆比の関係となります。
テキストなどではこれを重要な関係として示してあります。最終的には公式のように覚えて使いこなせるようになるのがもちろん望ましいのですが、少なくとも最初の理解については、計算の基本であるモーメントを使って上記のように出せるようにしておくと、考え方の全てに一貫性が生まれ、混乱が生じません。また、この関係は「棒の重さや形状を考えなければいけない場合」などには当てはまりません。内容を理解しないうちに、関係だけ覚えようとすると、ちょっとした条件の違いで全く対応できなくなってしまい、かえって混乱を生じる原因となってしまうので注意が必要です。
◆ 最後に:「てこ」は確実に計算できる得点源
今回は、「棒の重さや太さを無視できる」基本問題に限定して、てこのモーメント計算を段階的に確認してきました。すべての例に共通するのは、
モーメント=支点からの距離×力
つり合い=時計回りと反時計回りのモーメントが等しい
という、たったこれだけの原理です。
この基本を正しく身につけておけば、てこの標準的な問題はもちろん、後に続く「滑車」「輪軸」などの単元の理解にもつながります。また、てこは他の計算問題と比べると扱われる数字がシンプルで計算がしやすい面もありますので、理解できれば確実な得点源になります。応用問題や公式に入る前に、まずは基本の考え方を自力で導ける力を身につけましょう。
「てこが苦手…」という受験生こそ、今回ご紹介した内容をしっかり理解して、「てこって、意外と簡単!」という感覚をつかんでもらえたら嬉しいです。
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