小論文解答例 東京藝術大学
2019/12/22
悲しみや恐怖など、否定的な感情を与える芸術作品が好まれることがあるが、それはなぜか。具体例を挙げて論じなさい。ジャンルは問わない。
[’13東京藝術大学 美術学部 芸術学科]
今回も小論文、書いてみました。
解答例
否定的な感情を与える芸術作品が好まれるのは、そうした感情を抱えた作者あるいは鑑賞者の魂を昇華する役割を果たすからである。
宮沢賢治に「永訣の朝」という詩がある。病気療養の甲斐もなく亡くなっていく妹を想って綴られた詩である。賢治はなぜこの詩を書いたのか。それは妹の死を前に、こぼれ落ちて無情に消えてしまいそうな自身の思いに言葉をあてがい、詩という「形」としてそれを永遠に残したいという思いがあったからではないだろうか。自身の妹を思う悲しみを詩にすることで、そこに宿った妹への愛情を美しく永遠なものへと昇華したかったのだろう。
嬉しい、満たされているといった肯定的な感情は、特にそのままにしておいても問題はない。一方、否定的な感情というものはそのままにしておけばその人の生を揺るがし、生きづらくなってしまうため、何かしらの対処が必要である。芸術作品はそういうときに役割を発揮する。負の感情を作品に投影することで、人はその感情を昇華させることができる。そして、つらい世界の中でなんとか生き抜くためのよすがを得ることができるのだ。
ここで重要なのは、一度そうした負の感情が「作品」となってしまえば、それは作者の手を離れてしまうということだ。そこでは作品の内容が「事実かどうか」もあまり重要ではなくなる。その詩の中に閉じ込められている負の感情はすでに一般性を獲得しているからだ。よって死にゆく妹を悲しむ思いを描いた「永訣の朝」は、作者、鑑賞者に限らず、愛する人との別れやそれに類するあらゆる負の感情を経験した全ての人々の魂を揺さぶり、その感情から解き放たれ、救済されることを可能にしてくれるのである。
よって、作者あるいは鑑賞者の魂は、自身の感情を昇華してくれるような負の感情を描いた作品を求め続けるのだと考える。(757字)
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