#148 伊東先生の英文解釈教室⑥(後半)
2024/12/4
さて、⑴では「名詞構文」が大きなポイントだったけど、⑵でも実は「名詞構文」が現れている。そこに気付いて適切に訳せるようになることが、英文解釈上級者への大きなステップになります。
The actions of menを琢磨君は「男性の行動」と訳している。でも実はここのmenは性別を問わず「人間」を意味する用法なんだ。
「人間」を意味する総称的な不可算名詞manはさっきの⑴で出てきたけど、ここの可算名詞複数形menもほとんど同じ意味だと考えてOK。
manなんていう、中学生でも知っている単語のこうした意外な使い方を知って、「ふーん」と思って済ますか、ちゃんと辞書を引いて知識を蓄えようとするかの姿勢の差が、結局は英語ができる人とできない人の差だと言ってもいいのかもしれない。(多くの英語学習者が、こうした知識の宝庫と言える辞書を使わない現状を放置したまま、それどころかその事実に気付くことさえなく、「なぜ日本人は英語ができないのか」という問題が論じられていることに、何とも言えない虚しさを感じます・・・)
今の英和辞典は本当によくできていて、英語学習者に実に色々なことを教えてくれる。語義番号2が今の問題文に出てきたmenに当たるもので、語義番号3がさっきの⑴で出てきた不可算名詞manの用法に当たるものだ。
どちらの語義にも「性差別的」とあるのは、ふつうは「男」を意味するmanという単語で、女性も含めた「人間」を表現することは、woman「女」を軽視しているような印象を与えるからだ。なので、manで「人間」を意味するこうした使い方は、現代では避けられる傾向がある。
be said to ~「~と言われている」は学校でも必ず習う基本表現。
facultyは少し難しいかもしれない。「心身の能力」という意味で使われています。
He made a will while in full possession of his faculties.「彼は頭のしっかりしているうちに遺書を書いた」
この例文のfacultiesは「精神の働き」といったような意味だ。
reasonも中学生でも知っている単語だけど、ここでははたして「理由」という意味でいいのかどうか。
the faculty of reasonを「理由の能力」と考えても意味が通じないと思ったら辞書を引く。
「そうか、ここのreasonは『理性』という意味か。じゃあthe faculty of reasonは『理性の能力』ということか」と考えるところまではいいんだけど、一旦立ち止まって考えよう。reasonが「理性」の意味であるのはいいとして、じゃあ「理性」とは一体何なのか、ちゃんと分かっているだろうか?
もちろん国語辞典で「理性」の意味を確かめるのも1つの方法なんだけど、せっかく英語の勉強をしているんだから、英英辞典で調べてみることにしよう。
reason: the power of the mind to think in a logical way
一言で言うと、「理性=論理的思考能力」ということになる。ちなみに、mindは「心の知的な働き」に焦点を当てた単語で、「心の情緒的な働き」を前面に出すheartとは対照的な単語です。
もちろん「論理的とは何か」ということも大きな問題だとは思うんだけど、「論理的思考能力=筋道の通った考え方ができること」くらいに考えておけば問題無い。
問題文1行目では、「人間の行動は、理性という能力(=論理的思考能力)に支配されていると言われていた」ということが述べられていたことになる。噛み砕いて言うと、人間の行動の背景には、その行動に至るまでの筋道があるということだね。
では2行目。those of animalsのthoseはさっきの⑴の「名詞の繰り返しを避けるthat」の複数形で、ここではthe actionsの代わりに使われている。さらに「前置詞+名詞」のby以下が続いて、セミコロン(;)のところで一旦分が終わっている。
ただ、1行目は完全文だったけど、2行目のthoseからinstinctまでは完全文とは言えない形になっていた。「名詞+前置詞+名詞」というつながりしか書かれてないからね。
じゃあ、those以下は、直前の名詞と同格の関係になっていればいいんだけど、those [=the actions] of animalsとイコール関係になっていそうな名詞は直前には無い。「those [=the actions] of animals=the faculty of reason」とは考えられそうにないからね。
改めて、1行目と2行目前半を見比べてみよう。何か気付くことはないだろうか?
The actions of men were said to be governed by the faculty of reason
those of animals by the faculty of instinct
赤字が同一表現で、青字が内容的に対立した表現になっていることに気付いただろうか?
そして、1行目の下線部が2行目には無いということにも気付くはず。
1行目は「人間の行動は理性によって支配されていると言われていた」という話。
そして2行目では「人間」に対立する「動物」と、「理性」に対立する「本能」が登場する。
ということは、この文の筆者は、2行目で「動物の行動は本能によって支配されていると言われていた」といった内容、つまり1行目とは対比的な完全文的な内容を言おうとしていると考えるのが自然だろう。
ただし、完全文的な内容を言おうとしているはずなのに、Vに当たる表現が見当たらない。
もう分かったかもしれないけど、2行目ではVになる動詞表現が省略されているんだ。なぜ省略されているのか?それは書かなくても分かるから、つまりすでに同じ動詞表現が出ていたからなんだ。
それがまさに下線を引いたwere said to be governedで、これを復元すると、
The actions of men were said to be governed by the faculty of reason
those of animals were said to be governed by the faculty of instinct
となって、コンマの左も完全文、コンマの右も完全文ということが分かるはずだ。琢磨君と麗華さんは、残念ながらこの省略を見抜けていなかった。
でも、2つの完全文を接続詞を使わずにコンマだけでつなげるなんてできないのでは?そう思えた人は鋭い。確かに原則としてはそうなんだけど、例外的に2つの文をコンマだけでつなぐことがべきる場合がある。今回の問題文のように、2つの完全文が対比的な内容である時、そうした例外が起こることになる。
そうそう、さっきの辞書のmanのところを引用したプリントをもう一度見てほしい。語義番号3の最後の例文に
Man proposes, God disposes.
ということわざが載っているんだけど、これなんかまさに「対比的な内容の2つの文をコンマでつなぐ」例文になっている。
まず主語のMan「人間」とGod「神」が対立表現で、さらに動詞のproposes「計画する」とdisposes「処置する」も対比的な内容となっている。
One day she is in high spirits, the next day she is in a bad mood.「彼女は上機嫌かと思えば、次の日には不機嫌になっていたりする」
One dayとthe next day、in high spiritsとin a bad moodが対比的内容になっている。
みんなに注意しておくと、英作文ではこうしたコンマの使い方はしないようにすること。使い方を間違えると大きく減点されるからね。英作文では、2つの完全文をつなげる時は接続詞を使うという基本姿勢を貫くべし。
あと、were said to be ~のところは、琢磨君のように「~したと言われている」だと時間的に誤訳しています。
まずwere saidなので「言われている」ではなく「言われていた」と訳さないといけないし、その後ろの不定詞は完了形ではない「to+動詞の原形」なので、「~する」と訳します。この辺は文法の授業で学習済みなので、訳し間違えた人はしっかり復習しておこう。
2行目セミコロンのところまでは、みんなも聞いたことがあるはずのことが書かれていたと分かれば十分。「人間は理性に従って行動し、動物は本能に従って行動する」。実に常識的なことを言っているに過ぎない。
ただ、こんな常識的なことを言うだけの文章である可能性は低くて、ここから筆者独自の意見が述べられていく可能性は高い。続きを見ていこう。
まず、セミコロン(;)の用法の確認から(☞ブログ#11)。セミコロンは基本的に、2つの文をつなげる時に使われます。
さっき、2つの文をつなげる時にコンマ(,)は基本的には使われないこと、問題文1行目最後のコンマはその意味では特殊な用法であることを見たわけだけど、2つの文を接続詞を使わずにセミコロンでつなげることができることは知っておこう。
ⓐLucy is outgoing; her sister Meg is introvert.
ⓑThe troops are preparing to attack the city; all foreign journalists have been ordered to leave the area.
まず確認してほしいのは、2つの例文とも、セミコロンの左も右も完全文であるということ。これがセミコロンの基本的な使い方です。
そして、セミコロンでつなげられた2つの文は、内容的に密接な関係があるという点も知っておこう。よくあるのは、例文ⓐのように、対照的な内容の文がセミコロンでつながっているというもの。
Lucyはoutgoingで、妹のMegはintrovertだと言っているんだけど、introvertなんて難しい単語はほとんどの受験生は知らないはず。
でも、姉のLucyと妹のMegについて述べられた文がセミコロンでつなげられているということは、この2つの文は対照的な内容である可能性がかなり高いということなんだ。
なので、introvertの意味が分からなくても、
outgoing↔introvert
という関係になっていると考えて、意味を推測してみよう。
outgoingという単語自体も見たことない人が多いと思うけど、out+goと分解して「外に行く」と直訳し、この文がSVCの第2文型であることから、outgoingがLucyの性質について述べていると考えれば、
Lucyは外に行く人だ→Lucyは家に引きこもりがちな人ではなく、外に出て人と交際するのが好きな(=社交的な)人だ
と考えるのはそれほど難しいことではないと思う。
outgoingが「社交的」という意味だと分かれば、introvertはそれと対照的な意味のはず。
outgoing「社交的・外向的」↔introvert「内向的」
このようにして、「セミコロンでつながれた2つの文は対照的な内容であることが多い」という知識を応用することで、難単語の意味を正しく推測できる場合もあるんだ。
もちろん日本語にはこうした用法の記号は無いので、訳す時は、
「ルーシーは社交的だが、妹のメグは内向的だ」
のように、対照を表す「~が」を使ってもいいし、あるいは、
「ルーシーは社交的だ。それに対して妹のメグは内向的だ」
のように、2つの文を句点(。)で完全に区切って、それから「それに対して」などのことばを補って訳してもいい。
「ルーシーは社交的だ。妹のメグは内向的だ」
のように、シンプルに句点を使うだけでも、やや不自然な日本語にはなるけど、間違いとは言えない。
次にⓑの例文だけど、これは今のⓐとは違って、2つの文が対照的な内容というわけではない。それでも、2つの文に内容上密接なつながりがあることはたしかだ。
左の文は「軍隊はその都市を攻撃する準備を進めている」と言っている。
右の文の方は「全ての外国人記者はその地域から退去するよう命じられている」という内容だ。
この2文に密接な関係があるとはどういうことかを考えてみてほしい。
すると、「軍隊の攻撃準備」の背景説明として「外国人記者への退去命令」が位置づけられるはずだ。つまり、「外国人記者への退去命令」が出ているからこそ、「軍隊の攻撃準備」が行なわれているというわけだよね。
「軍隊はその都市を攻撃する準備を進めている。全ての外国人記者はその地域から退去するよう命じられているのだ」
のように訳せば、2文目が、1文目の「背景説明」であることは十分伝わる訳文になっていると思う。
ちなみに、「セミコロンは2つの文を1つにつなげる」と言ったけど、2つの文を1つにつなげずに2つの別々の文として表現しようと思えばもちろんできます。
ⓐ’ Lucy is outgoing. Her sister Meg is introvert.
ⓑ’ The troops are preparing to attack the city. All foreign journalists have been ordered to leave the area.
これでも間違った英文ではないんだけど、セミコロンを使わずにピリオド(.)を使うと、2つの文の密接な関係性は薄れて表現されてしまうことになる。とは言っても、2文の関係性を考えれば、ⓐ’では1文目と2文目が対照的な内容であること、ⓑ’では、2文目が1文目の背景説明となっていることは読み取れます。
あと、これはぜひみんなに言っておきたいんだけど、英作文ではセミコロンを使おうとしないでほしいということです。セミコロンはネイティブスピーカーでも間違って使ってしまうことが珍しくない記号なので、非ネイティブスピーカーである日本人が無理して使わないといけないものではありません。
では問題文に戻ろう。
セミコロンだけで2つの文はつながるから、接続詞andは不要ではあるんだけど、この文の筆者は使っているね。
this attributionのattributionは少し難しい単語だ。単語集などで重要単語attributeを覚えた人なら、語形からその名詞形かなと想像は付くと思う。
I attribute this heavy traffic to the concert at the stadium.「この交通渋滞はスタジアムでのコンサートのためだと思う」
attribute A to Bの形で使われて、Aが「原因」、Bが「結果」を表します。
で、この動詞attributeを名詞形にするとこうなります。
attribution of A to B「Aの原因をBだと考えること」
そう、これが「名詞構文」だ。元となる動詞表現から作られた名詞表現で、
・attribute→attribution
・ofの挿入(このofは目的語の関係を示す)
・toはそのまま
という点に注目してほしい。
問題文は、
this attribution of the actions of animals to instinct
となっている。これを直訳して
「動物の行動の本能へのこの帰属」
なんて機械的に訳しても、こんな日本語を理解できる日本人は誰もいないだろうし、そもそもこうした訳文を書いている本人自体が理解できていないはず。
名詞表現で堅苦しい、理解不能な日本語になる場合は、動詞表現に変形してみよう。
this attribution of the actions of animals to instinct「動物の行動の本能へのこの帰属」
⇩
attribute the actions of animals to instinct like this「このように、動物の行動の原因が本能であると考える(こと)」「このように、動物の行動は本能によるものであると考える(こと)」
これでだいぶ分かりやすい日本語になったはずだ。
ところで、もしattributionがattributeの名詞形であると気付けなかった場合はどうすればいいか?その場合でも、指示語thisをうまく活用できれば問題無いはず。
thisを使っているということは、attribution of the actions of animals to instinctという内容が、その直前に書かれていたはずだろ?しかも、
those [=the actions] of animals (were said to be governed) by the faculty of instinct
this attribution of the actions of animals to instinct
という具合に、色を付けて示した語句が同じであることから、簡単に
this attribution of the actions of animals to instinct
||
those [=the actions] of animals (were said to be governed) by the faculty of instinct
という関係を見抜けるはずだ。
そうすれば、attributionという単語の意味が分からなくても、those ~ instinctを参考にして、「動物の行動が本能に支配されていると考えること」くらいに訳せれば上出来じゃないかな。
指示語をうまく活用することで、難単語の意味を推測できるようになれば、英文読解の上級者と言えるだろう。
では2人の答案を検討してみようか。
琢磨君も麗華さんも、「帰する」なんていう難しい日本語を使っているね。「帰する」なんてことば、自分でふだん日本語を使う時は絶対に使わないだろ。だとしたら、できたらもっと分かりやすい表現に直すといいよね。
琢磨君の方は、thisに対する訳語が抜けているね。attributionを動詞的に訳すなら、麗華さんのように「このように」と訳すといいね。
次のseemsがVで、後ろに不定詞の完了形が続いている。ここの訳し方なんだけど、麗華さんの訳は厳密に言うと少しだけ間違っています。
seem to have p.p.の不定詞の完了形は、
・to have p.p.が「過去形」に相当
・to have p.p.が「現在完了形」に相当
という2つの可能性があります。
この文章では、1行目の過去形wereと4行目の過去形usedから、to have disguisedは過去形に相当すると考えるのが妥当です。なので「隠してきたようだ」という現在完了形的な訳し方ではなく、「隠したようだ」という過去形的な訳が正しいことになります。
最後のポイントが、他動詞disguiseの目的語を正しく捉えられたかどうかだ。
ここのdisguiseはhideと同じ意味。
They disguised the fact from me.「彼らは私にその事実を隠した」
目的語とfrom ~が入れ替わっても、「disguiseは他動詞だから絶対に目的語があるはず!」と考えられれば、構造を正しく見抜けるはず。
They disguised from me the fact that they had made a big mistake.
問題文の方も、目的語とfrom ~が入れ替わっていて、ふつうの語順に戻せば、
to have disguised the need for further study or explanation of them from most of those who used the word
となります。
琢磨君の答案では、disguiseの目的語がthe need ~ themであることが捉えられていない。麗華さんの方は構文をちゃんと見抜けているね。
the wordはinstinctという単語を指しています。また、最後のthemはthe actions of animalsを受けているよ。
動物の行動は本能に基づいていると考えることで、本能という語を使う人たちの大半から隠されたものが、「動物の行動をさらに研究したり説明したりする必要性」だと言っています。
まあそれはそうだ。「動物の行動は本能的なものだ」としてしまえば、もうそれ以上研究したり、他の説明を加えたりする余地は無くなるからね。
セミコロンの左側は常識的な世間一般の考えだったけど、やっぱりセミコロンの右側では、それとは違う筆者独自の見解が述べられていたと言えるよね。
琢磨君はstudyを「勉強」と訳しているけど、ここは「研究」の方がいいかな。
「勉強」の意味のstudyはlearningに近い意味で、「書物などから知識を獲得すること」といったニュアンスだ。
一方、「研究」の意味のstudyはresearchに近くて、「あるテーマについて調査・分析を行なうこと」といった感じになります。
派生語のstudentにも「生徒・学生」と「研究者」という2つの意味があるから、辞書で確認しておこう。
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