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#50 健太と麗華の英語奮闘記①~共通テストと速読信仰~

2021/12/11

健太は中堅高校出身の浪人生。今は地元の塾に通い、苦手な英語に力を入れている。

麗華は進学校在籍の高校3年生。健太と同じ塾に通っている。英語は比較的得意。

 

共通テストの英語リーディングは大変だ!?

健太 あ~。この間の模試の結果が返って来たけど、英語は散々だった…。こんなにがんばってるのに、なんでなかなか成績が上がらないんだろ…。

麗華 どれどれ、ちょっと成績表見せて。…これはひどいわね…。共通テストのマーク模試で偏差値50行ってないじゃない。

健太 いや、しょうがないんだよ。時間が足りなかったんだ。時間切れにさえならなけりゃ、もっといい点数取れたはずなんだよ。なんせ大問1つ丸ごと捨てちゃったからな…。

麗華 私は時間ぎりぎりだったけど全部解いたわよ。

 

そこに塾の英語講師の伊東先生が通りかかる。健太も麗華もこの先生に英語を習っている。

 

伊東 やあ、君たち。何話してるの?

健太・麗華 あっ、先生。

伊東 おお、この間のマーク模試の結果じゃないか。…うーん、これはちょっとひどい点数だな。健太君は共通テスト受けるんだろ?まだ夏休み前だからそんなに焦る必要はないけど、浪人生なんだし、次の模試ではもっといい点取らなきゃな。

健太 でも先生、時間が足りなくて大問1つ捨てちゃったんですよ。

伊東 キツイこと言うようだけど、「時間が足りない」のはまだまだ実力が足りてない証拠だよ。

健太 でも、いくらなんでも量が多すぎませんか?あれで試験時間が80分なんて無茶だよ…。

伊東 そういう悩みを抱える受験生は本当に多いのは確かだけど、「量が多すぎる」というのは本当にそうなのかな?

麗華 私も量は多いと思います。私の学校の先生は、共通テストは読まなくちゃいけない英語の量がすごいから、速読をしろとよく言います。

健太 僕の通ってた高校の先生は、英文を全部読んでいたら時間が足りなくなるから、設問に関係するところだけを読めと言ってた。

伊東 今の健太君と麗華さんの発言に、共通テスト、あるいはその前身であるセンター試験の英語についての受験生と指導者の混迷が端的に表れてるね。

話を整理すると、

①共通テストの英語リーディングは制限時間80分に対して読む英文量が(異常に)多い

②よって、速読をしないと間に合わない

③あるいは、設問に関係するところだけを探して本文を飛ばし読みすべきだ

ということなんだけど、この3つについて本当にそうなのかをじっくり考えていこう。

 

英語リーディングの英文量

伊東 今年から始まった大学入学共通テストの英語リーディングは、英文の総語数が5,500語だったようで、去年のセンター試験よりも1,200語増加したそうだ。

健太 うわぁ…。センター試験もすごい量だと思ったけど、さらに増えたんだ…。

伊東 当たり前だけど、英文量が多いかどうかという判断は、試験時間との兼ね合いによるね。5,500語でも、試験時間が3時間なら誰も「英文量が多い」とは言わないだろ。

健太 実際の共通テストの試験時間はたったの80分ですからね。80分で5,500語はやっぱり多すぎですよ。

伊東 5,500語という数字は、「本文」と「設問の選択肢」を足した数なんだけど、「本文」だけなら4,000語弱、「設問の選択肢」だけなら1,500語くらいだったようだ。

今年の試験の設問数は大問6題全体で38問。仮に1問解くのに50秒かかるとすると、1,900秒、つまり約30分かかることになる。当然この30分には、さっきの「設問の選択肢に含まれる1,500語を読む時間」も含まれることになるね。

麗華 そうすると、本文の英文4,000語弱を残り50分で読むことになるわけですね。

伊東 そういうことになるね。健太君、50分という制限時間だと、4,000語の英文量は多いと思う?

健太 いやそれは多いですよ。50分というと学校の授業1コマ分の時間だけど、その時間で4,000語かぁ…。

伊東 「50分で4,000語」だとピンとこないと思うので、割り算をしてみよう。

4,000語/50分=80語/分

つまり、「1分間に80語」のペースで読めば、計算上は共通テストの英語リーディングの本文は読み切れることになる。

「1分間に80語」でもピンとこないなら、「3秒間に4語読むスピード」と考えてもいい。これは「1秒間に1語読むスピードよりもちょっとだけ速いくらいのスピード」だ。

 

速読不要論

健太・麗華 えっ、そんなゆっくりしたスピードで大丈夫なんですか?

伊東 そうだよ。「1秒間に1語よりも少し速いスピード」で本文を読むことができ、かつ「1問50秒以内に設問を解くスピード」があれば、共通テストで時間切れになるはずはないんだよ。

「1分間に80語」というのは最低限必要なスピードということなんだけど、ある程度英語ができる受験生なら大体これよりも早く読めるはずだから、読むスピードについては何も心配はいらないということだ。

麗華 じゃあ、学校の先生が言っていたように、速読はしなくてもいいということですか?

伊東 もちろんだよ。もし麗華さんや健太君が、共通テストレベルの英文を「1分間に80語」よりも遅いスピードでしか読めないなら、スピードアップのための対策を講じるべきだ。だけど、もうすでに「1分間に80語」よりも速いスピードで読めるなら、速読の訓練なんか一切不要だ。

だいたい学校の先生の言う「速読」が1分間に何語読むスピードを指しているのか分からないし、少なくとも私の経験だと、そうしたことを数値で示してくれる英語教師はほとんど見たことがないんだけど、どう考えたって共通テストに速読なんか不要だということだ。

麗華 学校の先生は、たしか「共通テストの英語は1分間に150語くらいのペースで読まないといけない」と言っていました。

伊東 共通テストくらいのそれほど難しくない英文なら、そのペースで読める学力のある受験生もいるだろうし、そのスピードで読んで本文をちゃんと理解でき、点数も取れるならもちろん何も問題ない。だけどね、ほとんどの受験生にとっては、そんなスピードで読むことはできないし、そもそもそんなスピードで読む必要さえないということなんだ。

ちなみにね、一般のネイティブスピーカーの読解スピードは「1分間に200語程度」らしいから、日本人でこのスピードで読める人は「速読」ができると言っていいと思うけど、少なくとも共通テストの英文を読み切ることが目的なら、その半分の「1分間に100語」でもお釣りが来ることになるね。

麗華 私はなるべく速く本文を読もうとしていつも焦ってました。

健太 僕なんか焦って解いても時間切れになる…。

 

「速読」と「飛ばし読み」が英文の理解を妨げ時間の浪費を招く

伊東 私の考えだと、多くの受験生は、

速読・飛ばし読みをしようとする→本文の理解が浅くなる→設問が解けない

という恐ろしい泥沼にはまっている気がするんだな。

だいたいね、「共通テストの英文は難しくない」と言われるし、私もそう思うけど、では共通テストの英文を1文1文訳させてみて、ほぼ間違いのない訳文を作れる受験生がどれくらいいるかというと、まあ半分もいないだろうね。ゆっくり読んでも1文1文の文意を正確に読み取れない受験生の方が多い共通テストレベルの長文を、「速読」や「飛ばし読み」をしたらどういうことになるか、ちょっと考えればすぐ分かるはずなんだけど、不思議なことに受験業界でこういう当たり前のことを指摘してくれる人はあまりいない。

健太 僕なんか速く読もうとして目だけが先に進んで、頭が着いていっていない感じです。

伊東 それは健太君だけでなく、速読信仰にはまった受験生の大半がそうだと思うよ。

麗華 私も速く読むことそれ自体が目的になってしまっている気がします。しっかりと英文の中身を理解することは二の次になっていると言うか…。

伊東 それはまさに本末転倒というものだね。一体みんな何をそんなに急いでいるのかと私なんかは思うのだけれど。焦らずに普通のスピードで読めば1回読むだけで済むはずのものを、わざわざ「速読」して自ら理解度を下げて一知半解なまま文章を読み進め、内容がほとんど頭に残らないまま設問を解こうとするから、また同じ本文を2度、3度と読み直す羽目になる。一体どっちの読み方が時間がかからないのかは火を見るより明らかだろう。

健太 まさに僕がそれです。本文を早く読んだはいいけど、全然内容が頭に入っていないから、また本文を読み直してしまいます。

麗華 私は設問を先に読んで、設問に関係するところだけを飛ばし読みすることもあります。

伊東 それもたまに聞く解き方だね。「設問を先に読む」こと自体には賛成だけど、「飛ばし読み」には大反対だね。僕にとって不思議なのは、そもそも「1度も読んだことのない文章のどこに設問に関係していることが書いてあると分かるのか」ということなんだ。もちろん、ある特別なキーワードについて設問で問われていて、本文のそのキーワードの箇所を探して解く、ということはできると思うけど、そんな設問ばかりではないし、だいたいいきなり文章の途中を読んで文意が読み取れるというのも私には理解できないけどね。1回も読んだことのない日本語の文章から設問に関係するところだけを拾い読みするのだって、日本語のネイティブである私たちにもそう簡単なことではないだろう。勝手知ったる日本語でもそうなんだから、外国語の文章相手にそんな芸当ができるのは英語教師の中にもほとんどいないはずなんだよ。

麗華 言われてみればたしかにそうですね。

伊東 「速読」やら「飛ばし読み」が、受験生の本文の理解を妨げ、本来の目的に反してむしろ受験生の時間を奪うだけのやり方でしかないというのは私の個人的な意見だけど、なぜかこうしたことを唱える人は意外なほど少ないね。

 

まずは1文1文の理解から

伊東 では、速読も飛ばし読みも一切不要の共通テストでなぜ多くの受験生は高得点が取れないのかという話に移ろう。これは簡単な話で、多くの受験生にとって共通テストで高得点が取れないのは、分量が多いからではなく、そもそも共通テストレベルの標準的な英文を正しく読める英語力が無いからなんだ。そういう根本的な問題を棚上げして、「共通テストで点数が取れないのは分量が多いからだ」という言い訳は責任転嫁に過ぎないんだな。

もし「時間が足りないから共通テストで点数が取れない」と本気で思っているのなら、実際の試験時間の倍以上の180分という制限時間で共通テストを解いてみたらいい。多くの受験生は、それでも大して点数は変わらないんだよ。

健太 言われてみるとたしかにそんな気がしてきた…。僕の場合、時間がいくらあっても高得点は取れない気がする…。

伊東 まあこういう話は、受験生にとっては耳の痛い話だから、指導者の側もあまり話そうとしないかもしれないし、また受験生自身も自分の学力の無さを認めたくないから責任転嫁しているという側面もあるんだろうけど。

量が多かろうが少なかろうが、大学入試を突破するためにはまず1文1文の正確な理解から。それが全てのスタートラインだ。

健太 分かりました。僕はまずは単語や文法などの英語の基礎的な学習に力を入れることにします。

麗華 私は先生が言ったように、焦らずにじっくりと共通テストの本文を読むことにします。

伊東 麗華さんほどの実力があれば、その姿勢だけで共通テストの得点は大きくアップすると思うよ。

*     *     *

受験英語界における「速読信仰」がいつごろから始まったのかは定かではありませんが、今から40年以上前の「共通一次試験(センター試験の前身)」対策用の問題集には、「長文問題の本文の長さは400語くらいなので、速読速解力が特に要求される」といった趣旨の文言が見られます。400語の長文などは今の時代の感覚ではむしろ短めなのですが、当時はかなり長いものと考えられていたようです。速読信仰は今に始まった話ではないのですね。

受験英語界にはびこる速読信仰に警鐘を鳴らした英語講師に、駿台予備学校の伊藤和夫師がいます。「ゆっくり読んで分かる文章を訓練によって速く読めるようにすることはできるが、ゆっくり読んで分からない文章が速く読んだら分かるということはあり得ない」と著書で述べておられます。これはあまりにも当たり前の話なのですが、その当たり前のことが必ずしも通用していないという歪な側面が受験英語界にはあるということは、残念ながら指摘せざるを得ません。

文法問題が姿を消し、文科省が奨励する「四技能重視英語政策」に従来以上に沿った形となってしまった共通テストの英語は、受験生の間に文法軽視の風潮を一層強めるでしょう。その失策の綻びが反省を促すほどに顕在化するには、少なくても数年の時間は必要なのかもしれません。

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