的はずれな彼
2022/8/29
弓道部の大会。彼は弓矢を引こうとする。が、次の瞬間、人々はわが目を疑った。なぜならば、彼は何を思ったのか矢をおもむろにその場に置き、次に的の方へと歩みより、的を引き抜いて立ち去ったからだ。的をゲットしてどうするのだ。
世に「的を得た意見だな。」という言い方をする人がいる。「いや、それは間違っていますよ。的を射た、が正しい表現ですよ。」と的を射た指摘をすると、その人は怒り出し、自分の方が正しいと的外れなことを言う。以来、このように人の言うことを修正する行為はやめた。間違った方が流布し過ぎて、もはや正否すら分からなくなっているものも多いからだ。
「それは、基本、間違っていますよ。」などと言われると「いや、あなたの方こそ間違っていますよ。」と言いたくなるが、先のような経験があるから、けっして言わない。「基本」というのは基本的に「が」や「を」という格助詞を下に付けることができる。「が」には接続助詞というのもあって話がややこしくなるため、ここでは格助詞「を」にしぼる。格助詞というのは名詞(とそれに準じる語)のすぐ下にしかこない。「基本を学ぶ」と言えるので、「基本」は名詞である。名詞は助詞を付けないと修飾語にはなれない。しかも、修飾される方もまた、同じく名詞。「基本の公式」のように、だ。「基本、間違っていますよ。」の「間違っていますよ。」の部分に名詞はないし、「基本」の下に助詞もない。正しくは「基本的に」である。どうしてこのような現象になるかを説明すると長くなるので今回は省く。
弓矢で的の中心を見事に射貫くような「的を射た」指摘をした方がいいとは思うが、その場の雰囲気が悪くなってしまう。でも、世の中には「正しい表現」を分かっている人間はいる。この人がいる場面で正確な言い回しをすれば、「ああ、こいつは分かっているんだな。」と一目おいてもらえる。その人は、そのことをけっして口に出しては言わないけれども。
だから、若い皆さんにはたくさんの本を読んで欲しい。出版物に書かれている日本語は基本的に正確である。出版社には編集者という存在がいて、筆者・作者の文章に誤りがないか厳密にチェックするからである。ネット上で流れている日本語には、文法的におかしなものも多いので注意してもらいたい。良い作文を書くつもりなら、読書をして正しい日本語を学んで欲しいと切に願う。では。
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