数学の理解を深める「説明する力」
2025/5/16
私は今年度から、非常勤講師として某私立高校で勤務しています。
この学校は、英語教育に力を入れた文系主体の学校のため、理系の生徒は非常に少ない状況です。現在、高1生の担当をしていますが、おそらくほとんどの生徒が受験で数学を使うことはないでしょう。今まで私は、将来受験に臨むことを前提とした学校での指導をしていました。つまり、「受験で必要な科目だからしっかり勉強しなさい」という引っ張り方ができたのですが、今の学校ではそうはいきません。
今の学校では、「数学を通じて、この先の人生に必要なスキルを身につける」ことを意識した指導をする必要があると思っています。生徒達がその価値を実感し、数学の学習に前向きに取り組んでくれるように仕向ける、これが今の私の大きな課題です。
ここから先の話は、受験で数学を使う生徒にも参考になることと思いますので、是非御覧ください。
指導の中で特に意識しているのが、「説明する力」です。
問題を解く宿題を出して、ノートやプリントをチェックしても、本当に理解しているのかどうかがハッキリわかりませんが、出題形式を少し変えると、それがすぐに分かります。
具体的な例を、最近の授業の題材でお伝えします。数学Aの場合の数でのケースです。
「男子5人女子4人の中から、それぞれ1人ずつ代表を選ぶ方法は何通りあるか」
という問題を出せば、大半の生徒達は 「5×4=20(通り)」 と簡単に正解を出してきます。
これを私は、
「『男子5人女子4人から、それぞれ1人ずつ代表を選ぶ方法は何通りあるか』という問題で、『5+4=9(通り)』が正解ではないかと思っている友達がいます。この友達に『なぜ5×4=20(通り)』が正解になるのか、わかりやすく説明してください」
と出題形式を変えて生徒達に出題しました。そうすると、途端に正しく説明できる生徒は激減してしまいました。公式を当てはめれば答えを出せる、という理解でとどまってしまっている生徒がほとんどだからです。
積の法則をしっかりと理解している生徒であれば、
「男子①〜⑤と女子A〜Dがいるとします。男子①が選ばれたとして、女子の選び方はA〜Dの4通り。同様に男子②〜⑤に対しても、女子の選び方はそれぞれA〜Dの4通りあるから、総数は5+4=9ではなくて、5×4=20となるんだよ。」
と、わかりやすく説明できるはずです。
生徒達はこういった、「説明する問題」がとても苦手です。人にわかりやすく説明する力というのは、社会に出た後のあらゆる場面で役に立つでしょうし、そもそも、数学をしっかりと理解する上でも大切なことだと思います。
私が説明を求める問題をほぼ毎回出題しているので、生徒達からは、「先生、中間考査でも説明する問題を出題しますか?」などと聞かれます。おそらく、授業で新しい知識を学ぶたび、生徒達は「これを人に説明するにはどうすれば良いだろうか?」と少しは意識を向けてくれることでしょう。その小さな積み重ねだけで、数学に対する理解力は格段に向上すると思っています。
我々教員も、人に教える立場になってから「あれはそういう意味だったんだ」と理解が深まったことが多々あります(おそらく、これは教員の「あるある」だと思います)。実際に人に教えなくても、「今日の授業の内容を人に説明するには・・・」ということを意識しながら復習するだけで、毎回の授業の理解力が格段にアップするはずです。中高生のみなさんは、是非お試しください!
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