場合の数で樹形図を使うのは負けじゃない。難関校ほど計算では出せない理由
場合の数の問題で、お子さんはいつも計算で答えを出そうとしていないか。樹形図を書こうとしない、あるいは「樹形図は時間がかかる」と思い込んでいるなら、それが偏差値60の壁を作っている原因かもしれない。
先日の授業でこんな場面があった。場合の数の問題を出すたびに、生徒が樹形図を書かずに計算だけで突き進む。何度か指摘しても自己流を貫く。僕はその場で「場合の数はもう教えない」と言った。本気だった。
なぜそこまで言うか。計算だけで場合の数を解こうとする姿勢は、ある水準を超えた瞬間に完全に機能しなくなるからだ。
「計算で出せる問題」は難関校に出ない
場合の数の問題には、大きく分けて2種類がある。
計算だけで答えが出る問題と、整理しながら数えなければ答えが出ない問題だ。
偏差値50以下の学校の問題は、前者が多い。ポップコーンがS・M・Lの3種類、ドリンクが4種類、組み合わせは何通りか、という問題なら 3 × 4 = 12 で終わる。計算が速い子は当然これを暗算で片付ける。そのやり方で点数が取れてしまうから、樹形図を書く習慣がつかない。
問題は偏差値60超えを狙い始めた時に起きる。
難関校の場合の数は、条件が複雑に絡み合っている。「A・B・Cの3人が円形に並ぶとき、AとBが隣り合う並び方は何通りか」といった問題では、単純な掛け算で出そうとすると条件の数え漏れや重複が起きる。計算式を立てることよりも、場合を漏れなく、かつ重複なく整理することが問題の核心になっているからだ。
つまり難関校ほど、計算力より整理力を問う問題が出る。計算だけで場合の数を解こうとする子は、この壁に正面からぶつかることになる。
樹形図は「計算できない子の逃げ道」ではない
樹形図=計算が苦手な子が仕方なく使う方法、という誤解が根強い。この誤解が非常に厄介だ。
実態は逆だ。
偏差値70を超えるような子ほど、場合の数では図や表を使って整理してから計算する。計算に頼り切ることの危うさを知っているからだ。難しい問題になればなるほど、最初に構造を整理しないと答えにたどり着けないことを経験から学んでいる。
樹形図は思考の外部化だ。頭の中で「えーと、Aが1番目の時は、Bが2番目で...」と処理しようとすると、作業記憶がすぐに限界に達する。紙に書き出すことで、頭のリソースを「整理する作業」ではなく「条件を読む作業」に集中させることができる。速く解くためのツールとして樹形図を使う、というのが本来の位置づけだ。
樹形図を書く子を「丁寧だね」と褒めておしまいにしてはいけない。「その整理の仕方が正しい」と評価することが重要だ。
計算に固執する子に何が起きているか
算数の得意な子ほど、計算で解こうとする傾向がある。これは皮肉ではなく、そうなる理由がある。
計算が速い子は、これまで計算で突破してきた成功体験を積んでいる。4年生・5年生の段階では、計算力が高い子が場合の数でも正解を出せてしまう問題が多い。だから「自分は計算で解ける」という自信がつく。
その自信が6年生以降に邪魔をする。
条件が複雑になり、整理しなければ解けない問題が出た時に、計算で突き進もうとする。当然詰まる。詰まっても整理に切り替えられない。計算でいけるはずだ、という思い込みが強いほど、方針転換が遅れる。
親が「計算が速いのに場合の数だけ苦手」と感じているなら、この構造が起きている可能性が高い。計算力の問題ではなく、整理する訓練をしてこなかった問題だ。
親が今すぐできること
まず、お子さんが場合の数の問題を解く様子を一度観察してほしい。樹形図や表を書かずにいきなり式を立てようとしているなら、その問題の正解不正解に関わらず「まず整理してから」と一言だけ添える。
答えが合っていても、整理せずに出した答えは偶然に近い。本番では同じことが再現できない。
次に、樹形図を書くこと自体を速くさせる必要はない。最初は時間がかかっていい。整理する習慣が先で、速度は後からついてくる。ここを焦って「時間がかかるから計算で」と戻してしまうと振り出しに戻る。
最後に、指導者に「樹形図を書くよう言われているか」を確認してほしい。言われているのに書かないのと、そもそも指示されていないのとでは対応が変わる。言われているのに自己流を貫くなら、それは指導の問題ではなく本人の習慣の問題で、親からも同じ方向で声をかける必要がある。
場合の数は、整理の訓練をすれば確実に伸びる単元だ。計算力がそのままでも、整理の精度が上がるだけで正答率が変わる。やり直しがきく、数少ない領域の一つだ。
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