時間を制する者が国語を制する:「1問2分」の絶対原則
「うちの子、ちゃんと読めてるのに点数が出なくて」
この言葉を、保護者から何度聞いただろう。読解力はある。語彙も悪くない。模試の解説を見れば「なんだそういうことか」と理解できる。なのに本番の点数は伸びない。
原因は読解力ではない。
時間だ。
「解ける」と「解けた」は別の能力
少し冷静に考えてほしい。
自宅でゆっくり考えれば正解できる問題と、試験会場で制限時間内に正解できる問題は、表面上は同じように見えて、要求している能力がまったく異なる。
前者は「理解力」の問題だ。後者は「処理速度の管理」の問題だ。
多くの子どもは前者の訓練しかしていない。宿題を「正確に解く」ことに集中し、「何分で解くか」という発想自体を持っていない。これは指導する側の問題でもある。丸をつけて、解説して、終わり。そこに時間の概念が入り込む余地がない。
結果として何が起きるか。試験会場で時間が足りなくなる。最後の大問を丸ごと白紙で提出する。記述問題に辿り着けない。あるいは序盤の選択肢問題で深く考え込みすぎて、中盤以降が完全に崩壊する。
これは学力の問題ではない。設計の問題だ。
国語の試験構造を逆算する
中学受験の国語試験は、おおよそ50分で構成される。大問の内訳は学校によって異なるが、標準的なパターンは評論1本と小説1本の2大問構成だ。場合によって詩や短文の知識問題が加わることもある。
小問の数は学校によって差が大きい。10問台に収まる学校もあれば、漢字・語句問題を含めて30問近くになる学校もある。だから「1問あたり何分」という計算は、受ける学校によって前提が変わる。
それよりも使い勝手がいい管理単位がある。
大問1つ、20分。
これを基準にする。20分で評論を丸ごと処理する。20分で小説を丸ごと処理する。2大問構成なら40分で解き終えて、残り10分を見直しに使う。詩や知識問題が加わる3大問構成なら、20分・20分・10分という配分が目安になる。
この「大問20分」という感覚を体に叩き込むことが、国語の得点を上げる最短経路だ。小問が何問あろうと、1問あたりの計算が変わろうと、大問単位で時間を管理していれば試験全体は崩壊しない。逆に言えば、この感覚がない子は大問1つで詰まった瞬間に残り全部を道連れにする。
時間内に解く力を持っていない子の特徴
では、時間管理ができていない子にはどんな特徴があるか。現場で見ていて気になるパターンをいくつか挙げる。
ひとつ目は、問題を飛ばせない子だ。わからない問題の前で立ち止まり、ぐるぐると考え続ける。「もう少し考えれば分かるかもしれない」という期待が時間を食い尽くす。だがその問題が分からないなら、次の問題に進んで残り時間で戻ってくる方が合理的だ。飛ばすことへの心理的抵抗が、試験全体の得点を下げている。
ふたつ目は、知識問題に時間をかける子だ。語句の意味、ことわざ、慣用句。これらは知っているか知らないかの二択だ。考えて出てくる答えではない。10秒考えて分からなければ、消去法で選んで次へ進む。それ以上時間を投じても正答率は大きくは変わらない。知識問題で30秒以上使っている子は、時間の使い方として明らかに損をしている。
みっつ目は、見直しの時間を最初から諦めている子だ。試験時間をぎりぎりまで「解く時間」として使い、見直しのバッファを確保しない。記述問題の字数確認や、明らかなケアレスミスを防ぐ最後の確認ができないまま試験が終わる。あと5分あれば取れていた2点が、毎回積み重なる。
「解説してもらう時間」が時間感覚を殺している
もう少し踏み込んだ話をする。
時間管理ができない子の多くは、「ゆっくり解く練習しかしたことがない」。当たり前だ。塾の授業も、家庭学習も、正確に解くことを目的として設計されている。スピードを意識する場面がほとんどない。
さらに問題なのは、授業の中で講師が解説に使う時間が長すぎることだ。僕はこれを意図的に削る時期がある。今僕がやっている国語の授業では、解説をほとんどしない。代わりに何をしているかというと、大問1つを20分で解かせる訓練だ。時間を計測し、途中で「3分以上かかってます」と声をかけ、ペース感覚を体で学ばせる。
保護者から見ると、「解説してくれない授業」に映るかもしれない。でもこれは戦略だ。解説を受け続けても、スピードの問題は解決しない。解説でつけられる力と、時間内に処理するための力は、別々に訓練しなければならない。
点数が伸び悩んでいる子の授業を観察すると、生徒が問題を解いている時間より、講師が喋っている時間の方が長いケースが珍しくない。これでは時間感覚は育たない。
体内時計という最強の武器
時間を管理する道具として、腕時計やストップウォッチを活用することは重要だ。ただ、最終的に目指す状態は「時計を見なくても20分の感覚が分かる」ことだ。
試験会場で時計を確認することはできる。だが、1問解くたびに時計を見ていたら、それ自体が時間のロスになる。理想は、体内時計で大まかなペースを感じながら解き進め、節目で時計を確認して調整する、というサイクルだ。
この体内時計は、日々の練習の中で作られる。宿題を解くとき、「大問1セットを20分で解く」という設定を習慣にする。早く終わればそれでいい。大事なのは時間を意識して解く習慣そのものだ。最初は20分に収まらなくてもいい。「20分で終わらせなければならない」という意識を持って解くことが、じわじわと処理速度を引き上げていく。
これは僕が英語の語彙学習で実感したことでもある。単語を「覚えよう」として時間をかけるより、「1ページを何分で終わらせるか」を意識して繰り返した方が、体に入るのが速かった。覚えることより、処理することを先に習慣化する。
飛ばす判断力は訓練できる
「分からない問題を飛ばす」というのは、言葉で言うほど簡単ではない。
多くの子どもは「この問題を諦めた」という感覚が苦手だ。完璧主義的な気質がある子ほど、次の問題に行くことへの罪悪感を感じる。だから飛ばせない。
でも受験の論理はシンプルだ。1問に時間を費やして正解するより、3問を素早く処理して2問正解する方が点数は高い。合計点で合否が決まる試験で、1問への執着は全体を壊す。
訓練の方法は単純で、日々の練習の中で「3分考えて分からなければ次へ」というルールを設定することだ。チェックマークをつけて次へ進む。最後に戻ってくる。この回路を繰り返すことで、飛ばすことへの心理的ハードルが下がっていく。
同時に、飛ばした問題に戻ってくる時間的余裕が生まれることも体感させる。「飛ばすと損をする」から「飛ばすと時間の余裕ができる」への認識転換が起きれば、戦略として使えるようになる。
「解けた」から「点が取れた」へ
読解力は、ある段階から先は短期で劇的には変化しない。だが時間管理の習慣は、練習を始めた翌週から成果が出始める。
解けるのに点が取れない子は、解答力ではなく処理設計を変えればいい。50分の試験で大問20分をさばける感覚を先に作る。飛ばす判断を迷わずできる回路を先に作る。知識問題に30秒以上使わない判断を先に作る。
これらは全て、家庭の練習環境を少し変えるだけで訓練できる。宿題を解くとき、タイマーをセットする。それだけだ。
「ゆっくり考えて正解する練習」から、「速く判断して得点する練習」へ。この切り替えが遅ければ遅いほど、本番まで残された時間は短くなっていく。
今通っている塾の授業で、生徒が問題を解いている時間と先生が話している時間、どちらが長いか一度確認してみてほしい。答えが出れば、何をすべきかも分かるはずだ。
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