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#122 関東大震災を振り返る⑤

2023/9/30

The importance of memory

Unlike wars, giant earthquake disasters are not the result of man's inevitable actions. They are merely the result of the earth moving, causing fires and deaths. For this reason, the impact of the earthquake on us writers is not so deep-rooted.” —from Ryunosuke Akutagawa’s essay, “The Impact of the Earthquake on Literature and Art”

inevitable: unavoidable; sure to happen。

movingは動名詞、直前のthe earthはその意味上の主語と考えられた人はかなりの英語力。causing以下は分詞構文。

us writersは同格の関係。deep-rooted:firmly established。

“The Impact of the Earthquake on Literature and Art”「『震災の文芸に与ふる影響』」は、「大正十二年九月一日の大震に際して」と題された随筆の一節。原文は以下の通り。「大地震の災害は戦争や何かのやうに、必然に人間のうみ出したものではない。ただ大地の動いた結果、火事が起つたり、人が死んだりしたのにすぎない。それだけに震災の我我作家に与へる影響はさほど根深くはないであらう。」

Following the quake, the urban infrastructure of Tokyo was reconstructed under a plan led by Mayor Shinpei Goto. New provisions were added to building laws, making quake-resistant design mandatory for structures in large cities.

Following the quake「地震の後で」は分詞構文と考えてもよいが、このfollowingはすでに前置詞化していると考えてもよい。多くの英語辞書ではfollowingに前置詞用法を認めている。Mayor Shinpei Goto「後藤新平市長」。後藤新平は、南満州鉄道会社(満鉄)初代総裁、逓信(ていしん)大臣、内務大臣、外務大臣などを歴任した、日本の帝国主義時代の主要な政治家の一人。1920年(大正9)からは東京市長(☞ブログ#118)を務めた。震災直後に発足した内閣では復興院総裁に就任し、焼け野原となった東京の復興計画に着手。(ちなみに後藤は、1924年にNHKの前身である東京放送局の総裁に就任。当時はテレビ放送は無く、ラジオ放送しかない時代である。)

provisionは法律用語としては「規定、条項」の意味。making以下は分詞構文。making (V) quake-resistant design(O) mandatory (C)の第5文型。mandatory「義務的な、必須の」。

A child stands outside of a demolished Hibiya Music Hall.

While officials were bolstering roads and architecture, though, it was Japanese society that had become somewhat shakier. The country underwent a time of unprecedented turbulence in the years that followed the Great Kanto Earthquake, transitioning from a period of liberalism known as Taisho Democracy (1912-26) to an era of nationalism and militarism.

Whileは「対照」。bolster「強化する」。thoughが接続詞ではなく副詞であることを教えてくれるのが、前後にある挿入を示すコンマ(☞ブログ#9)の存在。この副詞thoughは➅と⑦の文が逆接の関係にあることを示す。it was ~ thatはいわゆる「強調構文」。somewhat=to some extent。shakierは形容詞shakyの比較級。shakyは辞書を引く前にshakeの派生語と気付いてほしいところ。このshakyは文字通り「ガタガタ震える」という意味から発展して、比喩的に「不安定な(unstable)」の意味を表している。「だが、役人が道路や建築を強化している一方、幾分不安定になってしまったのは日本社会の方であった」。ここで言う「日本社会が不安定になった」の意味を明らかにしてくれるのが次の➇の文。

turbulence「動乱、騒乱」。transitioning以下は分詞構文。自由主義的・民主主義的な「大正デモクラシー」の時代から、全体主義的な「ナショナリズム」、軍部が政治的に力を持ち他国への侵略を目論む「軍国主義」の時代へ、日本が関東大震災以降急激な社会的変革を経験したのは日本史で学ぶ通りである。

There were no shortages of major disasters, including the Sanriku Earthquake of 1933 and the Muroto typhoon of 1934. Meanwhile, the March 15 Incident in 1928 saw crackdowns on socialists and communists, and in 1931 Japan invaded Manchuria following the Mukden Incident, leading to the establishment of the puppet state of Manchukuo the following year.

There were no shortages of major disasters「大災害の不足は無かった」→「大災害が次から次に起こった」。the Sanriku Earthquake of 1933「1933年の三陸沖地震」は、岩手県東方沖(三陸沖)の日本海溝を震源地とする、マグニチュード8.4の大地震。(2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(一般には「東日本大震災」と呼ばれている)も三陸沖が震源だった。)the Muroto typhoon of 1934「1934年の室戸台風」は、四国の室戸岬西方に上陸後、京阪神地方に大きな損害をもたらした台風。

the March 15 Incident in 1928「1928年の三・一五事件」は、強権的な田中義一内閣が、日本共産党に対して全国で大検挙を行ない、1,500人以上を逮捕、500人近くを治安維持法違反で起訴した事件。crackdown「弾圧、一斉検挙」。the March 15 Incident in 1928 saw crackdowns on socialists and communists「1928年の三・一五事件は、社会主義者と共産主義者への一斉検挙を見た」という直訳から出発し、何を言おうとしているのかを考えた上で、「1928年の三・一五事件では、社会主義者と共産主義者は一斉検挙を受けた」と意訳する。類例:The twentieth century saw two world wars.「20世紀は2つの世界大戦を見た」→「20世紀には世界大戦が2回起こった」。Manchuria「満州」は中国東北部の旧称。following☞⑤。the Mukden Incidentは「柳条湖事件」に当たる(Mukdenは「奉天(瀋陽の旧称)」を意味する満州語)。この事件が、日本による中国東北部・内モンゴルへの侵略戦争である「満州事変」の引き金になった。leading以下は分詞構文。puppet state「傀儡(かいらい)国家」。puppetは「操り人形」のこと。Manchukuo「満州国」。満州国は、中国清朝の最後の皇帝であった溥儀(ふぎ)を執政(のちに皇帝)とする独立国の体裁を採っていたものの、統治の実権を握っていたのは関東軍であり、実際は日本の傀儡国家に過ぎなかった。

That same year, Prime Minister Tsuyoshi Inukai was assassinated by a group of naval officers in what is now known as the May 15 Incident, an event seen as fueling the rising clout of the Japanese military and considered an indirect precursor to the Feb. 26 Incident, an attempted coup d'etat in 1936 by a group of Japanese Imperial Army officers. And following the start of the Second Sino-Japanese War in 1937, Japan entered World War II in 1941 with a surprise attack on Pearl Harbor.

Prime Minister Tsuyoshi Inukai「犬養毅首相」。naval officers「海軍将校」。the May 15 Incident「五・一五事件」は、海軍の急進的な青年将校らが国家改造を目指して起こしたクーデター。これにより日本の戦前の政党内閣制は終わりを迎え、代わって挙国一致内閣が成立することになる。the May 15 Incident, an eventのコンマは「同格」用法。event☞ブログ#120。clout「影響力、権力」。seen ~ and considered ~の構造をつかむことが大切。precursor「前兆」。the Feb. 26 Incident「二・二六事件」もまた、国家改造を目論む陸軍内部の皇道派青年将校らが起こしたクーデター。

following☞⑤。the Second Sino-Japanese Warは「日中戦争(1937~1945)」を指す。Secondとあるのは、「日清戦争(1894~1895)」がthe First Sino-Japanese Warと呼ばれるため。Sino-は「中国」を意味するが、中国の第4王朝である「秦(しん)」がヨーロッパに伝わって生まれた語の可能性が高いとされる。ちなみに、江戸中期から第二次世界大戦までの日本では、中国のことを「支那(しな)」と呼ぶことがあったようだが、この支那もやはり「秦」が転じたものとされる。それを踏まえた上でChinaという語を改めて見ると、これもまた「秦」が語源ではないかと思うのではないだろうか。然り!a surprise attack「奇襲攻撃」。Pearl Harbor「真珠湾」は、ハワイ州オアフ島にある湾。

By the war’s end, Tokyo was again reduced to ashes.

reduce: change into a worse state。The fire reduced him to poverty.「その火事で彼は貧困に陥った」。be reduced to ashes「灰燼(かいじん)に帰する」。

“There is a noticeable lack of critical research on the more questionable aspects of the reconstruction process following the 1923 quake, perhaps because of Japan’s rapid march toward militarism and, eventually, war,” says Akira Ide, a professor at Kanazawa University in Ishikawa Prefecture and arguably Japan’s foremost expert on dark tourism, or tourism involving traveling to locations historically associated with death and tragedy.

critical「批判的な」。following☞⑤。Japan’s rapid march toward militarism and, eventually, warのandは、militarismとwarを結ぶ。「日本が急速に軍国主義に、そしてついには戦争に突き進んで行ったこと」。arguably「まず間違いなく、多分」は文修飾の副詞。He is arguably the best Prime Minister we have ever had.=It can be argued that he is ....「彼はこれまでで最高の首相であると言って間違いはないだろう」。foremost: best。dark tourism「ダークツーリズム」は見慣れない表現なので、筆者が説明をしてくれる可能性が高い。と思いながら直後の「, or」を見て安心できたかどうか(☞ブログ#120)。たとえば、日本であれば広島の原爆ドーム、海外であればポーランドのアウシュビッツ収容所を観光で訪れることがダークツーリズムに当たる。

Prince Regent Hirohito, who would later be known as Emperor Showa, surveys the damage in Yokohama.

“I tend to think Japan’s overseas expansion was partly to compensate for the massive economic loss from the earthquake,” he says. Damages were estimated at ¥5.275 billion, or a third of the nation’s nominal GDP at the time. “There are other experts who say bureaucracy tends to be centralized during periods of reconstruction, giving rise to nationalism, all theories that deserve more research.”

I tend to think ~に「私は~と考える傾向にある」はやや稚拙な訳。「私は~と考えることがよくある」。Japan’s overseas expansion「日本の海外侵略」は主に中国への侵略を指す。to以下は副詞用法の不定詞で「目的」を表す。

複数形のdamagesは「損害(賠償)額」。「, or」☞ブログ#120。nominal GDP「名目GDP」。

bureaucracy「官僚制」。災害からの復興の中で官僚に権力が集中しやすいと言っている。現在形(tends)で書かれているので、関東大震災の場合だけを述べているのではなく、一般論として述べている点に注意。giving rise to nationalismは分詞構文。all theories ~は独立分詞構文。allは⑮の筆者の説や、⑰の他の専門家の説を指す。「こうしたものは全てさらに研究する価値のある説である」。

Ide has visited sites in Tokyo and elsewhere connected to the 1923 quake, including Yoshiwara, and has written about their relevance. “The quake wasn’t an isolated event, and should be discussed as part of a sequence of events that shaped Japan’s modern history,” he says.

their relevance「それらの今日的な意味」。今に残る関東大震災の遺物が、今日の社会において持っている意味のこと。

関東大震災は、その後の日本が辿った歴史の文脈に位置付けて考えるべきだということ。

A man offers prayers at Yokoamicho Park's Memorial Hall. Around 38,000 people died at the site after the surrounding inferno became unbearable.

As memorial services marking the 100th anniversary of the disaster take place across Tokyo and beyond, understanding the socioeconomic and geopolitical consequences of the Kanto quake offers important insights into what could happen when the next big one strikes.

Asは「同時」。memorial service☞ブログ#118。takeが現在形なのは、Asが「時の接続詞」だから。and beyond「その他の場所」☞ブログ#118。socioeconomic「社会経済上の」。geopolitical「地政学的な」。geopolitics「地政学」は、国家の政治的発展を、その地理的条件から説明しようとする学問。couldはmayとほぼ同じ意味の推量の助動詞。the next big one=the next big quake。strikesが現在形なのは、whenが「時の接続詞」であるため。「災害100周年を記念する追悼式が東京やそれ以外のところで行なわれる中、関東大地震の社会経済的・地政学的影響を理解することで、次に大地震が起こった時にどのようなことが生じ得るかについての重要な洞察を得ることになる」。

Physicist and author Torahiko Terada was at a cafe in Ueno, chatting with a friend when the temblor struck a century ago. He walked around the city to document the tragedy and eventually helped create the University of Tokyo’s esteemed Earthquake Research Institute.

physicist「物理学者」。Torahiko Terada「寺田寅彦」は、物理学者として東大教授を務めた一方、夏目漱石や正岡子規らとも交流があり、随筆家でもあった。chatting with a friendは分詞構文。「上野の喫茶店で友人と喋っている時に」起こった予想外の出来事を表しているのがwhen以下(☞ブログ#118)。temblor「地震」。

document: record the details about on paper or in film。esteemed: admired and respected。「東京大学」は、the University of Tokyoが正式な英訳で、Tokyo Universityは通称(日本語の「東大」に相当)。日本で大きな地震が起こると、東大の地震研究所(☞ブログ#120)の教授が解説しているのをテレビなどでよく見たりする。

He is said to have left this famous aphorism: “Natural disasters occur when we forget about them.”

aphorism「格言、警句」。“Natural disasters occur when we forget about them.”「天災は忘れたころにやって来る」という寺田のこの発想は、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と言うように、人間というものが如何に辛い経験を忘れやすく、そこから教訓を得ようとしないかということを突いている。ちなみにこの警句は、一部の英和辞典にDisasters strike when they are least expected.という英訳で載っている。

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