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#120 関東大震災を振り返る➂

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2023/9/19

The miracle in Kanda

“For a while after the earthquake, in the midst of the scorched earth of Tokyo, it was like an ‘oasis in the deserts of Africa.’” —Earthquake Prevention Research Committee, 1925

in the midst of ~「~の真ん中に」。scorched earth「焼け焦げた地面」。itは火事を免れた区画を指す。oasis「オアシス」の英語の発音に注意。Earthquake Prevention Research Committee「震災予防調査会」は、1891年(明治24)の濃尾地震を契機として設立され、関東大震災の調査を以て解散した国の地震予防・調査機関。(この後を受けて1925年に新たに設立されたのが東大の地震研究所。)

Around 2 kilometers west of the park, near Akihabara Station in Chiyoda Ward, is an antiquated pump station currently undergoing demolition. Built in 1922, the facility is known for playing a crucial role in saving the Kanda Izumicho and neighboring Kanda Sakumacho districts from the ravages of fire, an event known as the “miracle” of the Great Kanto Earthquake.

around「約、およそ」。名詞2 kilometersは直後の副詞westを修飾。ofは「~から」の意味。☞ブログ#59just one subway station south of Odori Park。Around ~ parkの中心はwestで、その前後の語句から修飾されていると見抜けた人は相当の英語力。「公園から西に約2キロのところに」。near ~ Wardも副詞句。つまりここまでにこの文のSが出てきていないと意識していることが大切。isはもちろんVなので、「副詞句+V+S」という文構造だと思えるのが、英語をまともに勉強している証。antiquated「老朽化した」。pump station「ポンプ所」。demolition「取り壊し」。

Built in 1922は分詞構文。play a ~ role in doing「・・・において~な役割を果たす」。Kanda Izumicho「神田和泉町」。neighboring☞ブログ#118。Kanda Sakumacho「神田佐久間町」。the Kanda Izumicho and neighboring Kanda Sakumacho districtsのtheはdistrictsとつながっている。save ~ from ...「~を・・・から救う」。ravages「猛威」。eventを「イベント」と訳してよいのは「行事・催し物」の意味の時。an annual sporting event「毎年恒例のスポーツイベント」。Entering university was an important event in her life.のeventを「イベント」と訳して違和感を感じるかどうかは日本語のセンスの問題。違和感を感じた上で辞書を引いて正しい意味を探し求めようとするかどうかは、基本的な英語学習の姿勢の問題。「大学に入学したことは、彼女の人生における重大な出来事であった」。

In Tokyo, about 222,000 houses were destroyed from firestorms, while 38.3 square kilometers, or an area larger than Shinjuku and Shibuya wards combined, was burned. A close look at a map of the fire of the city from 1923, however, shows a small square block just north of the Kanda River that isn’t painted in red, indicating it was spared from the blaze.

複数形housesの発音に注意。firestorm「火事旋風」は、大火事によって起こる竜巻のこと。「, or」は言い換え。At university she majors in botany, or the study of plants.を「彼女は大学では植物学かまたは植物の研究を専攻している」と訳すのは誤訳。この「, or」は「つまり、すなわち」と訳すべき表現で、botany=the study of plantsというイコール関係を示す用法。「彼女は大学では植物学つまり植物の研究を専攻している」。本文では38.3 square kilometers=an area larger than Shinjuku and Shibuya wards combinedが成り立っている。「38.3平方キロメートル」と言われてもピンとこない読者のために、「新宿区と渋谷区を合わせたのよりも広い面積」と言い換えてくれている。主語が複数形なのにwasとなっているのは、38.3 square kilometersが1つの面積と捉えられているため。つまり、「1平方キロメートルが38.3個分集まったもの」と考えられているわけではないということ。Ten years is a long time.「10年と言えば長い年月だ」やTen thousand dollars is a lot of money.「1万ドルと言えば大金だ」も同じく、主語は「複数の事物」ではなく「10年間という1つの期間/1万ドルという1つの金額」と考えられているので、be動詞は複数形のareではなく単数形のisとなっている。

無生物主語構文。block「(四方の通りに囲まれた市街地の)区画」。northは副詞だが、ここでは直前の名詞a small square blockを修飾。north of☞➁west of the park。関係代名詞thatの先行詞はa small square block。indicating以下は分詞構文。spare ~ from ...「~を・・・から救う」。blaze☞ブログ#118

A map of the burned areas of Tokyo shows a square of white where the "miracle" of Kanda took place.

Historians say the area escaped the spread of fire not only because of the desperate firefighting efforts of its residents, but also because of a combination of favorable conditions: The neighborhoods faced the Akihabara Freight Station to the west and the Kanda River to the south, while being surrounded by noncombustible buildings to the north and east. Finally, there was the pump station completed the year before the quake, designed to deliver wastewater from the locale and transfer it to the Mikawashima Water Reclamation Center in Arakawa Ward.

desperate「死に物狂いの、必死の」。its=the area。コロン(:)の役割については☞ブログ#12。⑦にはfavorable conditionsの具体的説明が書かれているはずだと予想しながら読み進める。

neighborhoodはいつでも「近所」と訳していいわけではないことについては☞ブログ#94。Akihabara Freight Station「秋葉原貨物取扱所」。being以下は分詞構文で、そこに接続詞whileが付け加えられている。noncombustible「不燃性の」。

➆で述べられていた「西に秋葉原貨物取扱所、南に神田川、北と西に不燃性の建物」というfavorable conditionsに加え、最後のfavorable conditionを挙げる前置きとしてのFinallyの役割に注意。locale「場所」はフランス語起源で、語源的にはlocalと同じ。Mikawashima Water Reclamation Center「三河島水再生センター」は、1922年(大正11)に設立され、日本初の近代下水処理場とされる「三河島汚水処分場喞筒(ポンプ)場施設」の後身。四方に燃えやすい物が無く、おまけにポンプ所という水を蓄えている施設があったことが、「神田の奇跡」と謳われた地域にとってのfavorable conditionsとなったのである。

The old water pump site that was used in saving communities from fire in 1923 has been torn down.

Soon after the initial jolt, residents began attempting to put ensuing fires out with water bucket brigades while sending children, women and the elderly to evacuate in Ueno Park, around 1.5 kilometers north. “There were also gasoline pumps for firefighting in the area,” says Ko Hamaguchi, an official of Chiyoda Ward’s cultural promotion division. One pump was owned by the Mitsui Memorial Hospital, and the other was a pre-delivery product stored at Teikoku Pompu-sha (Imperial Pumps), a local pump manufacturer.

jolt「激しい揺れ」。put ~ out「~を消す」。ensuing「続いて起きる」は、「地震→火事」の順序を示している。bucketは日本語の「バケツ」の語源。brigade「(軍隊式の)隊、組」。while sending ~☞➆。womenの発音に注意。around 1.5 kilometers northはUeno Parkを説明。☞⑤a small square block just north of the Kanda River。

Chiyoda Ward’s cultural promotion division「千代田区の文化振興課」。the Mitsui Memorial Hospital「三井記念病院」は神田和泉町で1909年に開院。(「三井記念病院」は現行の名称で、当時の地図には「三井慈善病院」とある。)pre-delivery「引渡し前の」。Teikoku Pompu-sha「帝国喞筒(ポンプ)社」に運良く取引先に引き渡される前のポンプが1つあったのである。

The gasoline pump from Mitsui Memorial worked around the hospital to protect parts of the town, while Teikoku’s pump was mobilized on the afternoon of the second day, connecting to Kanda Izumicho’s pump station and “becoming the mainstay of the firefighting effort until the end, using gasoline collected by the residents,” Hamaguchi says.

mobilize「使えるようにする」。connecting以下は分詞構文。andはconnecting ~とbecoming ~という2つの分詞構文を結ぶ。mainstay「頼みの綱、要(かなめ)」。using以下は、becoming ~という分詞構文の中に埋め込まれている別の分詞構文。ところでこの⑫の文は、50語以上で1つの文というかなりの長さとなっているが、その原因は「接続詞」と「分詞構文」の使用による。いくら長い文だと言っても、つまるところはこうした基本文法に還元されるということ、逆に言えば、基本文法が複合的に使われることで英文は長くなってしまうということでもある。こうした文を正しく読み解くために必要なのは「単語力」ではなく「文法力」だということは、「単語が分かれば英文が読める」という素人考えの浅はかな英語観が蔓延している今の時代には、いくら強調しても強調しすぎることはないだろう。

For a century, the two-story brick pump station has stood as a concrete witness to one of the city’s biggest disasters. It had been active until six years ago, when its demolition was ultimately decided. When it goes, so too will one more monument to the past, one that was instrumental in saving lives. In its place? A possible solution to one of Japan’s more modern challenges: a ward-sponsored child care support facility.

two-story「2階建ての」のstoryは「物語」のstoryと語源的に同じ!

floorは建物内の「1階、2階、3階・・・」という個々の階を表すのに対して、storyは「建物全体の高さとしての階数」を表す語。I live on the fifth floor of a ten-story condominium.「私は10階建てのマンションの5に住んでいる」。concrete「有形の、具体的な」は、物体としての形を持って存在していることを言う。the city’s biggest disasters「都市(=東京)の最大の災害」が複数形なのは、関東大震災だけでなく東京大空襲も筆者の念頭にあるため。ポンプ所は6年前よりも前は現役(active)だったとあり、特定の過去の時間(six years ago)よりも前の時間の出来事を言っているため、過去完了形had beenが使われている。「, when」は関係副詞の非制限用法で、先行詞はsix years ago。ultimately=finally「結局」。

it=the two-story brick pump station。go=disappear。辞書を引くとgoに「消える」という意味があることが分かるが、「行く」→「目の前からいなくなる」→「消える」のように自分の頭を使って考える姿勢が大切。ここのsoは、大学受験の英語で学ぶ

A: I had a good time at the party.「パーティで楽しい時間を過ごしました」

B: So did I.「私もです」

のsoと同じ用法。 so too will one more monument to the past=one more monument to the past will go, too「過去を思い起こさせる遺物もまた一つ消えることになる」。時の経過とともに、関東大震災を偲ばせる遺物は一つまた一つと消えて行っているわけだが、ポンプ所の取り壊しによってそうした遺物がまた一つ新たに失われてしまうと言っている。one that ~のoneはa monumentの代用。instrumental「役に立つ」。

In its place?は意外に難しい。The prince ruled the kingdom in the king’s place.「王子は国王の場所で王国を治めた」→「王子は国王に代わって王国を治めた」。in ~’s placeという表現は、本来「~」がいるべき場所に、別の物が代わりに居座っているというイメージの熟語。Use sugar in place of [=instead of] honey.「はちみつの代わりに砂糖を使いなさい」。本来ならhoneyがあるべき場所にsugarが居座っているイメージ。In its place?は「it [=the two-story brick pump station]が本来あるべき場所に?」が直訳となるが、省略を補うと

(What will be) In its place?「その代わりになる物は何だろうか?」

といった内容を表している。

この疑問文への答えが次の⑰の文。

A possible solution to one of Japan’s more modern challenges (will be in its place)「(取り壊されるポンプ所の代わりになるのは)日本が抱えるより現代的な難題の一つに対する可能な解決策だろう」。この抽象的な表現を具体化する合図の役割をしているのがコロン(:)であり、a ward-sponsored child care support facility「区が資金提供する育児支援施設」がその解決策の具体的内容。ポンプ所が無くなり、関東大震災の記念となる遺構が消えてしまうが、その跡地に育児支援施設を作ることにすれば、震災とは違う「育児」という別の社会問題の解決になるのではないかというのが筆者の意見。

「この付近一帯は大正十二年九月一日関東大震災のときに町の人が一致協力して防火に努めたので出火をまぬかれました。その町名は次の通りであります。佐久間町二丁目、三丁目、四丁目、平河町、練塀町、和泉町、泉神田三丁目、佐久間町一丁目の一部、松永町の一部、御徒町一丁目の一部」

*     *     *

関東大震災による犠牲者の約9割が火災によるものであった中で、町民の決死の消火作業で町を守り抜いたことは、顕彰されて然るべき行為です。

しかし、こうした地震後の火災が迫りくる中、どのような町でも町民が力を合わせて消火活動をすることが推奨されるわけではないことは強調しておかないといけません。

本文にもあったように、神田の奇跡の舞台となった町には、いくつもの好条件が重なっていました。

町が違えば当然置かれた条件も違います。自分の住んでいる家の近所や町がどのようになっているか、改めて確認しておくといいかもしれません。

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